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第4話「増える喧噪」①

「アキ、おはよっ!!」


 ヘッドフォンを無理矢理取られてから耳元で叫ばれ、俺はため息をついてから振り返った。


「……普通に話しかけろ」

「えー、だってヘッドフォン取らないと聞こえないじゃん」

「いや、耳元で叫ぶなってこと……はあ、もういい」


 俺はヘッドフォンを首にかけて、話しかけてきた人物の方を見る。


「……おはよう。ゼン」


 そう言うと……ゼンは、嬉しそうに笑った。


「うん、おはよ」


 俺、森千秋は……こいつ、香光善の、前世からの相棒らしい。





「にしてもビックリしたよ〜!! まさか千秋と同じクラスになれるなんてさっ!!」


 そう言って俺の席の目の前に立って言ったのは……まさかの、俺の幼馴染である日下部和奏だった。


「お前……転校してきたのか……」

「そうそう!! おとーさんに頼んで〜入れてもらったんだ!!」


 和奏の声量に周りのクラスメート達は興味津々に、でも遠巻きに俺達を眺めている。

 まあ、転校生ということも後押ししているのだろう。


 ……でも目立つことは出来れば遠慮したいのだが。


「……まさかあんたもここにいるとは思わなかったけどね。ゼン・フロライト」


 和奏がスッと声のトーンを落とし、和奏からコイツの前世……日和奏モードになる。

 彼女に声をかけられたゼンは俺の隣の席に座っており、ムスッとした顔で和奏を睨みつけていた。


「……俺がこの前転校してきたばっかなのにお前が転校してくるのおかしくね? 転校自体はいいけど、入るとしたら別クラスだよね? ……お前、何かしたでしょ」

「やだなぁ〜!! 善くんが考えるようなことはしてないよっ♡」

「「何かしたんだな……」」


 俺とゼンの声が見事に重なる。


 確かにゼンが転校してきたばかりなのにまた転校生が来るのはおかしいよな……。

 ……いやでも、別に一緒のクラスにわざわざなる必要は無くないか?


 そう呟くと2人はなぜか顔を見合わせて……同時に、ため息をついた。


「……この人っていつもこうなの?」

「そうだよ……」

「道のりは長いね……」


 ……道のり?なんの話だよ。


 俺は思わず1人で首を傾げるのだった。




 それから和奏に付きまとわれて(失礼な!! 言い方が悪いよ!! by和奏)わかったことだが、和奏は可愛いらしい。

 周りから「あれが転校生の子か〜」「可愛いね〜!!」としきりに声がするし、他のクラスだけでなく他学年もクラスを覗きに来るほどの人気っぷりだった。


 ……でもそうなると必然的に俺も目立つわけで。

「あの子の隣にずっといるあいつ誰?」という目を向けられるのだ。


 和奏に俺が付きまとっているのではなく、俺に和奏が付きまとっているのだが……まぁ言っても無駄だろう。特に和奏には。

 コイツは昔から引き剥がすほうが疲れる。


 ……しかもそれに加えて。


「……ねぇあんたいつまで付いて来るつもりよ」

「俺だってクラスメートだから。お前だけじゃないから。お前こそ女子の友達とか作らないの?」

「大丈夫!! もう作ったよ〜」


 ……なぜかコイツらはずっと俺の後ろで喧嘩をしているのだった。


 確かコイツら、あそこで初対面だったよな? もうこんなに話すようになったのか……さすが、社交性があるやつらはすごいな……。


 いや、それはどうでもいいんだ。和奏だけならまだしも、ゼンまでいるせいで余計目立っている。


 イケメンだと騒がれているゼン。

 転校生で美少女の和奏。

 なぜかその間に挟まれてる俺。


 ……どういう状況だって視線が向けられるが、正直俺が聞きたい。


 そうこうしているうちにあっという間に放課後になっていた。

 帰りのホームルームが終わり、俺はすぐに鞄を手に持つ。

 2人が現代文のノートの回収に手間取っている間に、俺は目立たないように細心の注意を払いながら素早く教室を出た。





 俺は図書室に入って席に着き、はぁ、とため息をこぼす。


 ……やっと、1人になれた……。

 今日は1日中あの2人と一緒だったからな……。

 ……何だか、疲れた。


 俺は机に突っ伏して目を閉じる。

 どうして俺はこんなに疲れているのだろう。


 今まではずっと、隣にはゼンがいた。

 登校も、移動教室にも、昼休みも、下校も……。


 ……ってあれ、俺達一緒に居すぎじゃ……?


 思わず顔を上げて、それからもう一度突っ伏す。


 確かに思い返せばずっと隣にはゼンがいた。

 でもそれを、疲れると感じたことはない。

 和奏が増えた、それだけのはずなのに。


 じゃあ次は、和奏と2人っきりのときのことを考えてみよう。

 疲れるか? ……いや、答えはNoだ。

 疲れるというより、なんというか……もう当たり前みたいな、空気みたいに当たり前に隣にいるから、疲れるとかいう概念は無いんだよな。


 ……何でアイツらがセットになるとこんなに疲れるんだ?

 俺は目を閉じて心の中で小さく呟く。


 ……でも、今まで意識してなかったが、俺とゼンはこんなに一緒に居たんだな。

 なんか、それって……。


 そこで俺の意識は落ちた。





 パラ……パラ……と心地のいい音で目が覚める。


 ……あれ、俺、寝てたのか?


 目をこすって顔を上げると……。


「……うわぁっ、ゼン!?」


 思わず驚いて大声を上げると、ゼンが口元に人差し指を当ててしーっと呟く。

 俺は慌てて周りを見渡したが、幸い俺達以外誰もいなかった。


 少し息を整えてから椅子に座り直す。


「おはようアキ。よく眠れた?」

「あ、ああ……でも、何でお前がここに……? 伝えてないはずなのに……」

「本当にアキってば用意周到だよね〜。わざわざ靴回収するなんて」


 頑張って探したよ、とゼンが苦笑いを浮かべつつ言った。

 俺はそれを聞いてから、もれなくセットでついてくるはずの和奏がそばにいないことに気づく。


「……和奏は?」


 そう問うと、ゼンは少し顔をしかめてから答えた。


「……靴がないのを見て『きっと先に帰ったんだ』とか言って帰ったよ。だから俺だけ」

「……そ、うか」


 俺はなんだか脱力していまい、再び机に突っ伏す。今日で何回目だ……。


「……迷惑?」

「は?」


 顔をあげると、ゼンが眉をひそめ、困ったような顔をして言った。


「俺やあの子にずっと一緒に居られるの」

「……いや、別に……」


 俺はすぐにそう答えた。


 本当に、別に、迷惑なわけではない。

 確かに1人でいるのは好きだが、それは楽だからだ。

 人がいる分には別に構わない。


「……でも、今日は疲れた」


 そう吐き出すと、ゼンが苦笑いを浮かべた。


「……そうだよね。ごめん」

「……別に謝れと言ってるわけじゃねぇよ。お前ら1人1人を相手にする分にはいいけど……2人揃うと疲れる……」

「あはは」

「別に俺の周りにいるのは、いいよ。ただ……それこそ面倒だし、迷惑だから、喧嘩は控えてくれ」


 そう言うとゼンが小さく呟いた。


「……喧嘩の理由はアキなんだけどね……」

「は? 何で俺なんだよ」

「いいの。俺達の問題だから、アキは気にしないで」


 ゼンの言葉に俺は首を傾げつつも頷く。

 コイツらの問題……まぁ俺が気にしなくていいなら、そうさせてもらおう。


 俺は頬杖をつき、それからゼンが持っている本を見て言う。


「……何読んでるんだ?」

「あー、これ? ……音楽家をまとめた本、的な」


 ゼンがそう言って本のページを開き、こちらに見せてくる。


「マイナーな作曲家もあったりしてすごく面白いよ」

「へぇ……」


 確かに知らない名前が多い。有名どころからマイナーな人まで揃えられているらしい。


「……あ、この人とか仲良かったよ」

「……は?」

「この人とはよく演奏とかさせてもらってたなー。あっ、この人とはよく音楽性の違いで喧嘩してたな。まあ俺の音楽はかなり細かったから逆に意見合う人のほうが少なかったけど……」


 そう語るゼンの瞳は、どこかキラキラしており。

 ……眩しいなと、思った。


 こうしてよく見ると、ゼンがイケメンだと囃されている理由もわかる気がする。

 少し金髪味が入った茶髪や、それと同色の瞳に整った顔立ち。


 ……前世から、こうだったのだろうか。

 こんなに綺麗だったのだろうか。


 そう思って、それからハッとなる。

 ……いや、男に「綺麗」って何だよ……でも、褒め言葉だからいいのか……?


 1人で考えていると俺の視線に気づいたゼンが顔を上げた。


「ど、どうしたの。アキ」

「あ、いや……」


 少し照れたように頬を染めたゼンに対し、俺はなんと言おうか考えたが、いい言い訳は思いつかなかった。


「……何でもねぇよ」

「あ……そう?」


 ゼンはそう言って再び本に視線を戻す。

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