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第19話「原初の教え」③

 俺は床のくぼみを探し当て、そこに向かい能力を発動する。するとピアノの音がその蓋を開いてくれた。……やっぱ、自分の腕力に頼るよりこっちの方が早いんだよな……。


 いやいや、今はそんな場合じゃない、と、現れた階段を転がるように駆け下っていく。そこはとても古びた階段で、かなり年季が入っているのがわかった。

 階段が終わって、長い廊下が現れる。俺はそこを必死に駆けて……そこに、人影を見つけた。


「ゼン!!」


 俺の叫びに、彼は……ゼンは、弾かれたように振り返った。そこには、驚愕の色が浮かんでいる。


「……アキ……何でっ……」


 そこでゼンが指揮棒を構えた。しかし俺は、それよりも早く指を動かす。ピーン、と高い音が響き渡って、ゼンの持つ指揮棒を弾き飛ばした。ゼンの瞳に、また驚愕の色が浮かぶ。


「……ゼン」

「……アキ、何で……何で、来たの……?」


 俺が一歩近づくたびに、ゼンが一歩下がる。


「……あの子に教えられて、わかったんでしょ。俺が前世、アキに何をしたのかっ……。俺とアキは恋人同士だったっ。それで俺は、アキがこの極限状態で、俺とあの子のどちらを選ぶのか、確かめたくなったっ! ……俺は、アキを殺した……俺が、アキを殺したんだ……!! なのに俺は今世で、何事もないような顔をしてアキの隣にいたんだ!! 俺……ズルいでしょ? 自分が愛する人を殺したのに、また会えたことが嬉しくてっ……自分の罪を見ないフリして、アキから離れたくなくて、そんなエゴで!! 俺はっ……」


 ゼンは叫びながら、小さく項垂れる。


「……お願い。今度こそ俺の手で終わらせて。この先に、『コン・アニマ』のボスと『グラーヴェ』のボスが揃ってる。俺は……俺のエゴだけど、今度こそアキのことを、殺したくないっ……だからお願い、アキ……今すぐ回れ右して、帰って。……アキ……!!」


 それは悲痛な叫びだった。


 やっぱり阿妻に見せてもらったあの記憶のゼンの一連の行動は、俺たちの予想通りで。

 きっとゼンは、たくさん苦しんだのだろう。俺が知らない、苦悩。……それが少し、もどかしいような気がしないでもない。


 俺はそれを踏まえ、踏まえた上で、こう言った。



「で? 言いたいことはそれだけか?」



「……へ……?」


 ゼンの目が点になる。俺はズカズカとゼンに近寄った。


「言っておくが、帰らないぞ。言っただろ、こんな馬鹿げた戦争をこちとら止めに来てんだ。こんなヨーロッパまで来て、はいそうですかって帰るわけねぇだろ。……ったく……父さんといい、俺に過保護なヤツ多すぎないか……?」

「あ……アキ……何、馬鹿なこと言って……」

「馬鹿なこと言ってんのはお前だろ」


 俺は腕を組み、ゼンの前に堂々と立ちはだかる。


「言っておくが、森下秋とゼン・フロライトが恋人だったことはもう知ってる。お前が森下秋の気持ちを確かめたくなったことももう知ってる。それで森下秋が死んだこともな」

「じゃあ……何で……」

「俺は、森下秋じゃないからな」

「……」


 俺の言葉に、ゼンは黙る。しかしすぐに、またうつむいた。


「……わかんないよ……こんな人でなしに……」

「……ああもう、うっぜぇな!!」


 ずっと暗い表情をしているゼンに、だんだんイライラしてきて俺はそう叫ぶ。ゼンの肩が、ビクッと跳ねた。


 俺は、腹の中心にグッと力を込める。深呼吸をして、俺は叫んだ。



「俺はっ、お前が好きだ!! ゼン!!」



 ゼンが大きく、目を見開く。俺はまた息を大きく吸って、言う。


「だけど。……お前の好きとは、意味が違うぞ」

「……え、あ、うん……」

「……お前、わかってないだろ」


 俺はため息をついてからゼンのことを指さした。


「俺は、お前が好きだ。でも、お前の好きとは意味が違うぞ。……俺は、森千秋は、ゼン・フロライトが好きなんじゃない。……前世がゼン・フロライトだって言い張る、お前のことが好きなんだ!! 香光善!!」

「……!!」


 彼は、目を見開いた。本気で、驚いたように。ガツンと後ろから殴られたような衝撃、とでも言うべきか。


 俺は自分の顔が熱を持っていることを感じながら、手を下ろす。


「……だから、俺は……森千秋は、絶対にお前のことを振り向かせてみせる。過去の男に、負けるわけにはいかねぇからな。……覚悟しろよ、香光善」

「……へ、え……あ、はい……」


 一方彼も、真っ赤になりながら口を手で抑えている。……なんか、恥ずかしいな。恥ずかしいことを大声で言っちまって、こんな……。

 ……でも、今言った通りだ。先は長くなるかもしれない、が、俺は……森下秋しか見てないコイツを、俺の方に、森千秋の方に、絶対に振り向かせてやる。


 俺は深呼吸をしてから、彼の背後にそびえ立つ大きな扉を見据える。


「で、この先に……『コン・アニマ』のボスと『グラーヴェ』のボスがいるんだろ?」

「う、うん……」

「行くぞ」


 俺がそう言って彼の隣に立つと、彼は少し固まってから呟いた。


「……いいの? 俺……」

「……そろそろ一発くらい殴ってやった方がいいか?」

「えっ、何それ怖っ、ちょっ、拳構えないで!!」


 俺の動作に彼は一気に狼狽える。……本当、肝心なところでウジウジしやがるコイツ、どうにかなんねぇかな……。

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