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第18話「貴方の知らない昔話、噛み合わなかった歯車、彼の罪」④

「ご機嫌麗しゅう、イヴ様。今宵こそ貴女を我が物に致します」

「……貴方はいつになっても変わりませんわね。……アダムスキー」

「私の名前、覚えていらっしゃってくれたのですね。とても嬉しくて、涙が出てきます」


 そんな彼の言動に、阿妻はドン引きしたように顔をしかめている。


 彼は、アダムスキー・ノイマン。今の名を、アダム・ノイヒ──「コン・アニマ」のNo.2の男だった。

 「グラーヴェ」のNo.2である阿妻と、「コン・アニマ」のNo.2であるアダム。


 本来は宿敵であるはずの二人だが……アダムはアダムスキーの頃から、阿妻……イヴのことを、とても慕っていた。


「……ちょうどいいですわね。ここで貴方の気持ちごと、叩き潰してあげますわ」

「では私が勝ったら、私とお付き合いしてくださいますか?」

「……」


 阿妻は黙ってから、ピアノを取り出して言う。


「まだ好きな人に告白もフラレもしていないのに、貴方と付き合うわけにはいきませんわ!!」


 アダムは微笑みながらフルートを取り出す。阿妻とアダムの能力が、交差した。


 ──────────


 その頃、もり十夏とうかはリビングで一人、時計を眺めていた。

 今頃自慢の息子は、オーストリアで特別演奏会を楽しんでいるのだろうか、と思いながら。


 そこで十夏はふと、立ち上がった。そして、ある部屋へと向かう。……決して自分の前では開くことのない、部屋へ。

 十夏は扉の前に立つ。何回か深呼吸をしてから、ゆっくりとノックをした。まるで泣く子供を撫でるよう、それはそれは優しいリズムで。


「……ねぇ、あなた。私たちの自慢の息子が、オーストリアへ行きましたよ」


 もちろん声は、返ってこない。しかし十夏はそれでも続けた。


「あなたのことがあって、もうあの子は絶対にピアノに戻らないって……正直思っていたわ。でもあの子は、戻ってきた。コンクールにも出て、ピアノの腕を上達させたいってオーストリアにも行っちゃって。……ねぇ、あの子は決して言わないけれど、やっぱり昔からあの子の目標は、あなたなのよ」


 十夏は一人、続ける。


「あなたは会ったことないけれど、春万も……千秋の演奏を見て、ピアノがやりたいって思ったらしいわ。お兄ちゃんが、カッコよかったのね。……きっと春万があなたの演奏を見たら、同じようにカッコいいって思ったと思うわ。……ねぇ」


 十夏は小さくそう呟き、扉に手のひらをそっと当てる。


「……子供って、強いわねぇ。弱い私たちと違って」


 それでも、答えは返ってこない。


「……ねぇあなた。いつかあの子たちの前に立ってあげてね。いつか死ぬほど謝って、死ぬほど怒られて、それで……あの子たちに、ピアノを教えてあげて。一緒に、演奏をしてあげて。そうしたら私たち、絶対にやり直せるわ」


 ごめんなさい、と彼女は小さく呟く。


「……私、ワガママね。きっと一番辛かったのは、あなたなのに」


 それでも、と十夏は言って。


「私はずっと、あなたを待ってる」


 そこで十夏はため息をついた。言いたいことを言い切り、踵を返そうとする。……しかし。


 十夏はふと、足を止めた。何やら違和感のような、不穏な予感のようなものを抱いた。十夏は振り返る。……音のない、部屋。


「……あなた?」


 十夏は思わず、その部屋のドアノブに手をかけた。嫌な予感が胸を突く。そして十夏のその予感は、当たるタイプの予感だと、十夏は自らの経験からわかっていた。


「……あなた……一冬くん、開けるわよ?」


 十夏は手に力を込め、ドアノブを押す。そして。


 ──────────


 俺はまるで意思でも持つように揺れ動く建物内を走っていた。こんなに燃えて崩れているのに、なおのことの輝きを放つ「黄金のホール」。流石としか言いようがない。


 ……くっそ、ゼンのやつ、どこ行ったんだ……!!


 俺は片っ端から扉という扉を開けて、中をくまなく探していく。しかしそこには関係ないヤツらが戦っているばかりで、一向に目当てのヤツは見つからない。巻き込まれないように気をつけながらも、俺はとにかく走り回っていた。……だけど、本当にどこだよ!? 阿妻にゼンのいそうな場所の心当たりを聞いておきゃあ良かったな……。

 俺は誰もいない場所で一旦立ち止まり、息を整えるように深呼吸をする。と、その時。



 スマホが盛大な着信音を鳴らしてポケットの中で震えた。



「うわっ……!?」


 思わず悲鳴を上げてからスマホを取り出す。……ってこれ、本当に演奏会やってたらヤバかったな……マナーモードにしてなかったのか、俺……。

 ……いや、それより、誰だよこんな時に電話だなんて……。


 俺はディスプレイを見て首を傾げる。そこには……「母さん」、と、書かれていた。……母さんから……?

 無視しても全然いい状況だったのかもしれないが、俺は何だか胸騒ぎがして、その電話に出た……あれ、海外に電話かけるってすごい通信料金かかった気が……。まあ、いいか……。


「もしも……」

『あっ、千秋!? 今演奏会の最中じゃないの!? どうして電話にっ……』

「あ、いや、色々あって……」


 俺はそう答えてから続ける。


「それより母さん、どうかしたのか?」

『あっ、そ、そうなの……千秋、どうしよう、私っ……』


 母さんは何やら、とても慌てているようだ。どうしよう、と言うばかりで、全然話が進まない。


「母さん、落ち着け。……どうしたんだよ。落ち着いて話してくれ」

『う、うん……あのね、実は……』


 俺は話に耳を傾けようとして……ふと、顔を上げた。顔を、上げなければいけなかった。

 視線の先に、人影を見つける。そして、その人物を認識して、俺は。


 ……思わずスマホを落としてしまいそうになるほどの衝撃を、味わった。


 ひゅっ、と、息が詰まる。俺は、アイツを知っている。ドッ、ドッ、と心臓の音が耳元で聞こえた。


 そして母さんは、続ける。



『一冬くんがっ、部屋からいなくなってて……!! どうしよう、私、一冬くん、どこに行ったのか……何かあったら、どうしよう……!!』



 俺は口の中が乾くのを感じながら、それを聞いて。



「……父、さん……」



 無意識のうちに、そう呟いた。



 俺の声に合わせるように、その人物……家で沈黙の部屋に引きこもっているはずの父さん……森一冬が、小さく、悲しそうに、笑った。



 昔とは随分と老けた姿で。しかし、何も変わることなく。

 和奏ちゃんが何故急にキャンディちゃんに告白をしたのかというのをきちんと書けなかったのが反省点です。一応前までの話を見返すと、フラグはそれとなくあるのですが……。にしても急だな、という印象を受けるので、書き直す際はどうにかしたいです。


 そんなこんなで後2話になりました。遂に父と対峙することになった千秋ですが、どんな話が聞けるのか、ゼンには追いつけるのか、楽しみにしてくだされば幸いです。

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