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第17話「決戦前夜」④

 で、特別演奏会は夜であり、夜まではだいぶ時間があったため……。

 ……俺はゼンたちの解説のもと、観光をしていた。


 いや解説というか、コイツらの思い出話というべきか……。


「あ、ここ、今はこんな感じになってんだ」

「昔は確かホテルだったよね。今はこれ……アパート?」

「生活感あるからそうかもねー」


 ゼン、キャンディ、和奏がワイワイと話す中、俺は少し離れた所で勇林と並んでいた。


「……お前は、あそこに入らなくていいのか?」

「……何を言っている」


 俺の言葉に勇林は、ニコニコと子供さながらの笑みを浮かべながら言う。


「キャンディ嬢の兄には、私がユーリス・サーストンだということは秘密にしているのだ。ここで会話に入ったら元も子もないだろう」

「……まだ内緒にしてたのか」

「一応な」


 勇林はそう言って小さくため息をつく。その笑顔に言動が全然一致していない。


「……そもそも彼はああ言っているが、本来『コン・アニマ』からの命令は、私の監視だ。オーストリアに来ることで、私の前世の記憶が発現することを期待したのだろう」

「ああ……故郷だからか」

「正確な故郷は、イギリスだが」

「……細かいことはいいだろ」

「まあな」


 俺はチラッ、とハルネスの方を向く。彼はキャンディのことをニコニコという効果音が付きそうな様子で見ていた。そしてその隣には八遠が立っていて、面倒くさいと顔に書いてある。何でも、八遠はハルネスから離れたらいけないらしい。八遠は元『グラーヴェ』の要注意人物のため。


「……だが、もしかしたら彼には既に私に前世の記憶があるとバレているかもしれないな。あいつは、昔から勘が鋭い。……その上で、組織のトップに言っていないのかもしれない」

「……それは……何でだ?」

「……彼は、そういう男なのだ」


 勇林はそう呟く。……ハルネスが、な……。


 ……いや俺から見るとただのシスコンにしか見えないんだが……。


「……ところで、アキは随分とリラックスしてきているようだな」

「え、そうか?」

「ああ。……聖戦の話になった時は、まさにこの世の終わりみたいな顔をしていたが……ここに来て、少しは緩んだようだ」

「……別に、緊張感をなくしたわけでは……ない」

「別に責めているわけじゃない。むしろ、リラックスしている方がいいだろう」


 勇林はそう言って、子供さながらの笑顔を少しだけ緩める。いつもの、大人びた笑顔になった。


「……お前にとっては初めての海外旅行なのだろう? せっかくなんだから楽しんだらどうだ。……私たちはまたもや戦争が起きるかと危惧しているが、そういう時に限って案外何も起こらないかもしれないしな」

「……」


 俺は黙って、勇林のことを見下ろす。勇林はただ微笑んでいた。それは優しい顔で。


「……相変わらず、見た目に合わないこと言うな」

「心配するな、自覚はある」

「……でも、ありがとう」

「礼には及ばん」


 勇林はそう言うと、またニコッ! と、子供さながらの笑顔に戻った。


「お兄さん! 僕たちもあっちに行こうよ!」


 そして勇林はそう俺の手を引く。俺は度肝を抜かれてから、ため息をついて笑った。


「……危ないからあんまり走るなよ?」


 まあ勇林の言う通りここは、勇林の子供芝居に付き合うがてら観光を楽しもう、と、俺はこっそり心に決めた。





 そして夜。俺たちは特別演奏会の会場へと出向いた。


「いや……デケェな……」

「オーストリア最大のホールだからね」


 感嘆の声を上げる俺に、隣に立つゼンがそう言って笑う。どうやらコイツらは慣れているらしかった。


「このホールは、通称『黄金のホール』。クラシック音楽関係者による団体およびその本部の建物だよ。あの有名なウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地として知られる演奏会場で、他にも資料室とか出版社とかも入ってるんだ」

「……お前は観光雑誌かよ」

「まあ、通ってたからね」


 俺の言葉にゼンは照れたように笑う。照れるところか?


「そんなすごい所、こんな制服で来て良かったのか……?」

「ま、高校生らしくていいんじゃない?」

「ちゃっかりフォーマルなドレス着てるキャンディに言われてもな……」


 俺はそう言いつつキャンディを見下ろす。彼女は薄い黄色を基調としたドレスを着て、髪は下ろしていた。なかなか似合う。美人だと褒めても差し支えないだろう。


「そーそー。一応運営に確認取ったけど、オッケーらしいし」

「……和奏はいつの間にそんなことしてたんだ……」

「ふふん、私、意外としっかりしてるでしょ?」

「自分で意外とか言ったらお終いだろ」


 和奏にツッコミをいれてから、改めて自分やゼン、和奏の格好に目を下ろす。同じ学校だから同じ制服なのは、当たり前だが。


「……行くか」


 俺はそう呟き、四人揃って歩き出した。





 落ち着いた内装で金箔を使った美しいエントランスホールに迎えられ、俺たちは中に入っていく。大きな荷物はないからクロークは無視して、大ホールへと足を踏み入れた。そして……。


「……すげぇ……」

「変わってないねぇ、ここの美しさ」


 先程ゼンが、『黄金のホール』だと言っていた意味がよくわかる。優雅なデザイン、エントランスホールと同様、金箔がふんだんに使われている。このホールの設計、よく音が響くように作られているのだろう。一言で言うなら「完璧」、だ。

 ……改めて、すごい所に自分が招待されたのだということをひしひしと、文字通り全身で感じた。


 席へ着こうと、俺たちが歩き出そうとすると。


「あら、森千秋さん。また会いましたわね」


 横からそう声が聞こえ、俺はそちらを見た。そこには阿妻が、俺とは違いフォーマルなドレスを身に着け、そこに立っている。……彼女は淡いピンク色のドレスを着ていた。


「阿妻。……一人か?」

「ええ。あの人、乗り物酔いからは復活したんですけれど……今度は時差ボケで」

「……アイツ、図体デカい割に貧弱すぎないか……?」

「今でこそああですけれど、昔はもっと細くて貧弱だったんですわよ」


 阿妻はそう言ってクスクスと笑う。面白がっている、というより、大好きな人の行動が愛おしくてたまらない、とでも言いたげな笑い方だった。

 そんなことを思っていた、その時。


 突然後ろから、グイッ、と思いっきり腕を引かれた。


 突然のことに驚いて対応出来ず、俺はよろめく。その俺の体を、腕を引いた人物……ゼンが、受け止めた。自然と抱きしめられる体制になった俺は、反射的に顔を赤くする。


「なっ、何すっ……」


 俺は文句を言おうとその顔を見上げ……思わず絶句した。

 見上げたゼンのその横顔、恐ろしいほど悲しそうに、辛そうに、歪んでいたから。


「……ゼ、ン……?」

「何でお前が、ここに……!!」


 ゼンの言葉に、俺は首を傾げる。知り合いか? そう思って、俺は阿妻を見た。

 阿妻は、ゼンと同じ表情を浮かべていた。


 阿妻が、口を開く。



 それと同時に、どこからか爆発音のようなものが響き渡った。

 BLと一言で言ってしまうより「愛」という話……って感じがして、大変ハオでございます。

 それはそうとして、戦争が美しいわけねぇだろ(冒頭の文章に対する文句)。まあこれからそんな美しくないことが起きますので、千秋たちはそれを止められるのか否か、楽しみにしてくだされば幸いです。

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