第3話「唯一の弟子」②
「ゼン!?」
俺が叫ぶと同時にゼンが攻撃を横に流す。
地面が軽く焦げた。
「ゼン、何でここが……」
「っ……何してんの!? 戦いたいとか言ってたくせに!! 今俺が居なきゃどうなってたか……!!」
ゼンが振り返ってそう怒鳴りつけてくる。
反射的に言い返そうと思ったが、攻撃を受け止めて少し焦げた指揮棒や、怒っているようで、心配したようなその顔を見ていたら、何も言えなくなってしまった。
「……悪い」
言葉を選んでそう言うと、ゼンが少し驚いたように目を見開き……俯く。
それから立ち上がって和奏の方を見た。
「……俺は、ゼン・フロライト。お前は?」
ゼンが前世の名を告げると、和奏の頬が冷や汗を伝う。
それからフッと笑って言った。
「あのおちびちゃんに聞いたほうが早いんじゃない?」
「誰がおちびちゃんよ!!」
和奏の言葉に飛び出してきたのはキャンディだった。
ゼンと同じように、既にフォーマルなドレスに見を包んでいる。
……和奏とキャンディは、知り合いなのか? つか和奏ってやっぱり、前世がどーとかいう……。
「アキ!! あんたにも関係ある話だから聞く!!」
キャンディに怒鳴られ、俺は渋々ゼンの手を借りて立ち上がった。
「こいつは日和奏。……アキ、あんたの生き写しって言われた妹弟子よ」
ひわかなで……。つか生き写しって……。
「つかあんたあん時10歳だったでしょ私は20歳だったからあんたの方がチビだったじゃない!!」
「大事なのは現世だもーん私は17歳あんたは……え、その身長8歳とかー!?!?!?!?」
「12歳よ眼科行った方がいいんじゃない!?!?!?!?」
キャンディと和奏がギャーギャー言ってるのを聞きつつ俺とゼンは少し視線を合わせて、たぶん同じことを考えた。
……女って、面倒くせぇ。
俺はため息をついて2人に近づく。
「和奏」
「何!?」
「……お前も前世がどーとかいうやつってことはわかった。……で、何で今それを突然明かしてまで俺に攻撃したんだ? それが気になる」
俺の言葉に和奏は少し黙って俯く。
それから顔を上げて、言った。
「千秋、ううん……秋さん。10年前あなたに出会い、すぐにあなただとわかりました。しかしあなたは私のことを覚えていないご様子でしたので……『日下部和奏』として前世のことは忘れ、あなたと新たな人生を歩もうと決めました。ですが私が今世で生まれた家は転勤が多く、あなたといられる時間はごく僅かで……それでもいいと思ってたんです。あなたが居るなら、奏は幸せでした」
「お、おう……」
和奏と奏だと性格がだいぶ違うんだな……和奏にこういうテンションで接せられるのは、なんというか、変な気分だな……。
と思っていたら和奏は視線を鋭くし、ゼンを指差す。
「でもゼン・フロライト!! あなたのせいで秋さんは再びこの戦いに巻き込まれることになってしまった!! 秋さんは前世と同様に高度な能力に目覚められたご様子です。しかしこのゼンといたら秋さんは……不幸になると、そう決まっている!! だから私の手で秋さんを捉え、少しでもゼンと離そうと思ったのです!!」
ゼンといたら不幸になる、か……。
コイツは、俺を心配してくれていたのか。
……その割にはやり方がだいぶ雑だったような気がするが……。
「でも俺、日和奏なんて知らないんだけど」
「あんたアキにしか興味なかったじゃない。このガキはずーっとアキの後ろに隠れてたからね」
「何がガキよ今はあんたの方がガキじゃない!!」
……奏とキャンディは前世から仲が悪いらしい。
いちいち喧嘩されると話が進まないため、とりあえず和奏を引き寄せてキャンディから引き離す。
「で、和奏……奏は、俺を攻撃したと」
「はっ、はひっ!! 今までの失礼な言動、お許しください!!」
お前は武士か。
心の中でツッコみつつ俺はため息を付き、言う。
「それは別にいいけど、俺のためって言われたらそんな強く言えないし」
「えっアキ優しくない? 俺より優しくない?」
「ゼン、今秋さんが喋ってんだから黙りなさい!!」
「和奏、いちいちつっかかるな。ゼンは今までの言動振り返れ」
「……はーい」
「今までの言動って……」
俺はゼンと和奏を見比べつつ続ける。
「……確かに、俺は能力に目覚めたし、戦いに巻き込まれるようになると思う。けど、それが幸せかそうじゃないかって、決めるのは……俺だ。俺は前世に何があったかは知らない。でも」
俺は少し区切ってからゼンの方をチラッと見る。
「……俺は、別に、ゼンと会わなきゃ良かったとは、思ってないから……」
なんか少し気恥ずかしくて小さく呟くと、和奏がそうですか、と言って俯いた。
それから顔を上げると、和奏の顔には笑顔が浮かんでいる。
「……そっか、私がやったことは良くなかったんだね。千秋が幸せなら、私はそれでいいんだっ!!」
「お前変わり身すげぇな……」
俺が呆れつつ呟くと、和奏が楽しそうに笑ってそうでもないよぉーーーー!! と叫ぶ。もうすっかりいつものテンションだ。
安心して、俺も少し表情を崩す。
……まあ、和奏とは上手くやれればいい。そう、思う。
と思っていたらキャンディが何故か和奏の腕をガッと掴む。
「えっ何。この小学生」
「誰が小学生だ行くわよ」
「はぁ!? 何であんたに指図されなきゃいけないの!? ちょっ、引っ張るなーーーー!!」
……でもキャンディの前だと奏なんだな。アイツは。
そして取り残された俺とゼン。
……そういえば、俺達口論してたんだよな。そう改めて考えると、気まずい……。
と思っていたらゼンが少し頭をかきむしってため息をついた。
「キャンディ……気ぃ遣いやがって……」
そしてゼンが俺を見る。
何も言えなくて黙っていると、ゼンが呟いた。
「……さっき、言い過ぎた。ごめん」
さっきって部屋でのことか、それとも和奏から庇われたことかと思った、が。
……別に、どっちでもいいか。と、思った。
「いいよ。……俺も、色々、言い過ぎた。……ごめん」
俺も謝ると、ゼンがクスッと笑う。
「アキって本当……素直だよね」
「何だよ。文句あるか」
「無いって。怒んないで」
ゼンがあははっと声に出して笑って、それから言った。
「……俺、やっぱりアキに戦わせたくないよ。さっきアキが言ってた通り、アキが知らない前世に……色々あったんだ。俺は、」
ゼンが真面目な顔で俺を見つめ、告げる。
「アキに戦わせて、死ぬ程後悔したから」
その顔になぜか……心がキュッと締まるような、切ないような、そんな気持ちになって、何も言えずにとりあえず頷く。
「でもね。俺は弱いから……アキが隣にいてくれたら、すごく心強い」
「……ああ」
「絶対、守るから」
ゼンは強い言葉でそう言って、俺を見つめ続けた。
「だから、俺と戦ってくれる? ……アキ」
俺は少しも迷わずに、告げる。
「……いや、提案したのは俺なんだから、YESかNOで答えてくれよ」
「あー……それもそうだね」
ゼンはそう言って頭をかき、俺に手を差し出す。
「現世でも、よろしく」
その手取ろうとして、一瞬。
一瞬だが、ゼンの姿が別の人物に、重なって見えた。
俺は目を見開いて、それから、手を掴む。
「……ああ、よろしく」
その手はひどく、暖かかった。
「ねぇちょっと、小学生ってば!!」
「えー小学生って誰ー? 小学生なんて名前の人ここには居ませーん」
「ああもう、キャンディ!! いい加減止まってよ!!」
私はため息をついて足を止めた。
走るペースが合わなかったのか、奏は無駄に疲れたように深呼吸をする。
「……あーもう!! せっかく秋さんともっと話せるチャンスだったのに!! 何で邪魔すんのよ!!」
「どう考えてもあんたが邪魔者だったからよ」
私の言葉に奏は睨んできた。
「ゼンと秋さんが前世恋人だったからって? そんなこと今世じゃ関係ないじゃない。私だって……」
奏は少し切って、小さく呟く。
「……前世も、今世も、ずっと好きなのに……」
「……ま、その正直なとこに関しては私も認めるけどね」
ゼンに関しては、好きだって認めてさえないし。
……自分には、好きになる資格がないって思ってるから。
本当、手のかかるやつよ。……昔から、ずっと。
「あんたこそ、どうなのよ」
「は?」
「前世からそうだけど、あんた男っ気なかったじゃん。どうなの?」
「えっこれ恋バナする流れなの?」
思わずツッコむけど、奏の顔は変わらない。
「私、あんたはゼンが好きなんだと思ってたわ」
「まさか」
私はそう言って笑う。
「あの2人はただの、手のかかる私の親友達よ」
前世でも、今世でも。
私はあの2人を見守る、よき友人だ。
恋人とか……別にいいかな。
「……ねー奏ってさ」
「何よ」
「前世ゼンとアキが恋人だったからって、諦める?」
「はぁ? 諦めるわけ無いでしょ馬鹿なの? むしろ今世こそ頑張るわよ。前世は15歳差だったけど今は同い年なのよ? しかもあの様子じゃ自分達が恋人だったって知らないでしょ。秋さん」
「……まーそうだけど」
この思い切りの良さ、みたいなのがゼンと奏の違いだよねーきっと。
今は奏の方がゼンより前にいる。
ゼンは、どう挽回してくかね……。
……まぁ、私が口出ししてもいいけど、それも野暮ってもんだし……。
「……あんたって苦労するタイプよね」
「余計なお世話よ。私より生きてもないくせに」
「えー今私17歳ですけどー。あなたより5年も生きてまーす」
「馬鹿ね前世と加算してあんたは27、私は32年ですー」
「うっさいこの年増!!」
「さっきまで小学生小学生言ってたのは誰よもーーーー!!」
私と奏はそんな調子でこの後軽く2時間くらい、言い合いを続けるのだった。
「ねぇアキ」
「何だよ」
俺とゼンはキャンディと和奏がそんな会話をしているとは露知らずゆっくり階段を下りつつ会話をしていた。
「俺、アキと戦うからには絶対にアキのことを手放したりしないから」
思わず足を止めるとゼンが少し歩を進めてから振り返る。
その瞳を見て、固まってしまう。
ドキッと、心臓が高鳴った気がした。
そこから鼓動が早くて、息があがったわけでもないのに、苦しいことに気づいた。
な、何だ、これ。
「……覚悟しといてね」
その少し低い声に、また心臓の鼓動が早くなる。
苦しいのに、辛くはない。
何故か、顔も熱い。
ゼンはそんな俺の顔を見て……優しく笑い、俺のもとに戻ってきて言った。
「あれ〜アキ、顔真っ赤だよ? どうしたの? 俺に惚れちゃった?」
「なっ……に言ってんだお前はっ」
惚れたって……んなこと、あるわけねぇだろ。だって俺もお前も、男だぞ!?
そう思ったけど、なぜか声には出なくて、行き場のないモヤモヤみたいなのが心を支配し……。
……あーもー何だよこれ!! 面倒くせぇ……!!
もう考えるのも億劫で、ゼンを無視して再び階段を下り始める。
「あっちょ!? 待ってよー!!」
ゼンが笑いながら俺を追いかけてくるのが気配でわかる。
ゼンの方を見なかったから、俺はわからなかった。
ゼンが、苦しそうに、悲しそうに、俺を見つめていたことに。
実は元の題名は「俺を幸せにする俺だけの魔法」だったのですが、このタイミングで今の題名に変えました。
あとこの時は趣味で書いて身内や友人に見せるくらいしかせず、著作権とか気にせず無敵だったので、「電子オルガン」ではなく「エレクトーン」と書いていました。ヤマハさん、いつもお世話になっております……。




