第3話「唯一の弟子」①
「だめだ。アキには、戦わせない」
その言葉に俺……森千秋は思わずゼン……香光善に手を伸ばしてその胸ぐらを掴む。
「お前っ……」
「戦わせないよ。絶対に。……逆にどうしたの。突然戦わせてほしいだなんて。あんなに前世のことも否定してたくせに」
「……それは……」
思わず言葉に詰まって胸ぐらを掴む手を少し緩めた。
どうして突然そう思ったか。わからない。
わからないけど、戦わなきゃ。コイツの隣に、俺はいないといけないんだ。
ゼンは俺の手を振り払って……それから、笑う。
「アキ、お願い」
「っ……何で……」
俺は毛布を握りしめて言う。
「俺に1人は悲しいとか言ったくせに……お前こそ、1人になろうとしてんじゃねぇか!!」
その言葉に、ゼンの動きが、止まった。
縋るように、俺を見つめている。
……どうして……そう……突き放したり、引き止めたり、するんだよ……。
何か言おうと口を開きかけた、その瞬間。
「ちっあっきーーーー!! おっひさーーーー!!」
そう言って誰かが部屋に突入してきた。
突然のことに俺もゼンも対応できず叫び声もあげなかった。
その入ってきた人物はキョトンとしながら勝手に喋りだす。
「あれ、もしかしてお邪魔? てか何? 友達? あんたが? 家に連れてくるほどの友達? あ、いや、倒れたからそのお見舞いか……ええお見舞い来てくれるほどの友達出来たの!? ちょ、驚きなんですけど面白すぎる〜〜~〜!!」
「和奏……うるさい」
俺がそう言うとそのうるさい女……和奏は再びキョトンとしてから……「あっはぁごめんね〜〜〜~!!」と叫んだ。もう、本当……うるさい。
「あ、アキ、この子は……?」
ゼンがビクビクしながら小声で聞いてくる。この超絶マイペース&饒舌にすっかり圧倒されたのだろう。わかる。俺もそうだった。
「……日下部和奏。俺の幼馴染だ」
小声で答えるとゼンは「へ、へぇ……」と若干引いた様子で呟く。
今そんなことを話してる場合ではないのだが……まぁとりあえず保留にしておこう。
……ゼンに拒否されたっていい。俺は、コイツの隣で戦う。
「和奏、何の用だよ。つかお前1年前に転校しただろ」
「またこっちに戻ってきたんだよ〜〜〜~!! ほら、1年経ってより魅力的になったと思わない!?」
「元々魅力を感じたことはない」
「うわぁ辛辣変わってないね〜〜〜~!! だから友達いないんだよ〜〜〜~!! あっでも今はこの子いるのか!! ねぇねぇ名前何!? 私、日下部和奏!!」
突然話を振られたゼンはビクッとなりながら答える。
「ぜ、ゼン・フロラ……」
「……そっちじゃないだろ」
小声で言ってどつくとゼンがハッとなって言い直す。
「か、香光善だよ。よろしくね」
「善くんか!! よろしくね!! 私のことは和奏って呼んでいいよ!!」
「は、はは……」
もうすっかり和奏のペースだ。コイツの場合は強引だが……。
と思っていたら和奏が俺の方を見て笑う。
「改めて千秋!! おひさ!!」
「おう……久しぶり……つか俺病み上がりだから早く出てってくれないか……」
「あっそっか忘れてた!! ……よし千秋、外出よう!!」
「お前人の話聞いてる?」
思わずマジレスしてしまう。俺は寝たいんだよ……もうキャンディと戦ったりゼンと喧嘩(?)したり疲れた……。
しかしそんな俺を露知らず、和奏が俺の手を取ってグイッと引っ張られる。
「大体千秋は運動が足りないんだよ!! 少し外出て太陽浴びたらすぐ元気になるって!!」
「太陽浴びたら死ぬけどな。太陽光だろ」
「細かいことはい〜のっ!!」
こうなった和奏はもう抵抗しても無駄だということを俺は知っているため、渋々体を起こして立ち上がる。
依然として呆然としているゼンを見て俺は言う。
「……あの、来てくれてありがとな。勝手に帰っててくれていいから」
「え、あ、うん」
「さぁれっつご〜〜〜~!!」
和奏はゼンのことなんぞもうどうでもいいらしく強引に俺を引っ張っていく。外に出るとゼンを待っているのかキャンディが居たが、キャンディにも「ゼン出てきたら帰ってくれていい」と叫んで必死に和奏についていった。
その後ゆっくりとゼンが俺の家から出てきてキャンディの隣に並ぶ。
「……ねぇ、あれ、どういうこと?」
「ちょっと、俺にも、よくわかんない……」
「よしとうちゃ〜〜〜~く!!」
和奏が足を止めると同時に俺も足を止める。
そして肩で息をした。
……はぁ……俺も体力ある方なのに本当にコイツは……桁違いなんだよ……。
今も山の上にある神社に続く階段(3000段)を一気に、休憩なしに、駆け上がったのに息は全くあがっていない。化物かよ……。
「ここも変わってないね〜!! なんか、安心したっ!!」
「1年ごときで変わんねぇよ」
「そうかな、変わったよ?」
「今変わってないってお前が言ったばっかだろ」
「違う違う!!」
和奏はそう言って俺に笑いかける。
「千秋が、だよ!!」
「……はぁ?」
思わず眉をひそめる。俺が変わった? どういうことだ。
和奏はスキップするように俺の目の前に近づいて言う。
「変わったよ〜。前はもっと鋭かったもん。丸くなっちゃったんじゃない?」
「丸くなった、って……」
「……ねね、やっぱりあの『善くん』のお陰?」
楽しそうに聞いてくる和奏に対し、俺はそっぽを向き少し距離を取る。
「何でゼンが出てくるんだよ」
「だって千秋が私以外を名前で呼んでるなんて、初めてじゃない」
「……あれはアイツが、無理矢理……」
和奏が再び俺の目の前に近づいてきた。
笑って、楽しそうに。
「やだよ。千秋は私の物なのに」
「……和奏……?」
俺が小さく呟くと同時に……『何か』を感じて、慌てて後ろに飛んだ。
すると先程まで俺がいたところが削れているのがわかる。
……何が……。
「あーあ、避けられちゃった。残念」
「和奏……どういうこと……」
「あいつと会ったんなら、もう能力にも目覚めてんじゃない? 本当……最悪っ!!」
和奏は相変わらず楽しそうに笑っていた。
能力……? 何で和奏がそのことを……。
俺が事態に追いつけていないと……和奏の周りに、何かが浮かびだす。
……あれは……。
「……ピアノ?」
「おっしい!!」
和奏は指をパチンッ!! と鳴らして……3つの鍵盤を、右手を、左手を……足を使って、演奏しだす。
「私は電子オルガンだよ!! 前世にはまだ無いものだったけどね!!」
「……何だ、そんな話になってたんだ」
「うん……」
暗い顔をするゼンに対し、私……キャンディは告げる。
「アキが自分で決めたことだし、こっち的にはいいじゃん。何がいけないの?」
私の問いにゼンは黙っている。
普段はおちゃらけて思い立ったらすぐ行動するくせに、アキのことになると本当に慎重なんだから……。
……意気地なし、とも言うけど。
「まあ気持ちはわからないでもないけどね」
私は伸びをしてから言う。
「好きだから、守りたいんでしょ」
「……キャンディ……」
「大丈夫。アキには言わないから」
私の言葉にゼンはため息をついて呟く。
「……そうだよ。好きだから、守りたい。いっそ戦わないでいてくれたほうが……危険なところに突っ込まなくても、いい」
だから戦わせたくない。とゼンは小さく呟き俯いた。
「会えたのが嬉しくて頭から抜けてたよ。……今だったら絶対、関わろうとしない」
私はその言葉に黙って、もう触れないほうがいいかもと判断してそういえば、と話を切り替える。
「今さっきいたあの子だけどさぁ……どっかで見たことない?」
「ああ……確か、和奏……とか言ってたよ」
「……和奏?」
和奏って……まさか……。
私は少し思いたる節があり、立ち上がる。
「ゼン。……念の為だけど、追いかけた方がいいかもしれない」
「え? あの子がどうしたんだよ」
「うーん……話すと長くなるから、私を信じて」
私がそう言うと、ゼンは首を傾げつつも長い付き合いだからなのかあっさり立ち上がってくれた。
……私の杞憂だといいんだけど。
俺は神社を壊さないよう気をつけつつ攻撃を避ける。
何で和奏が……って考えたいところだが、考える暇がない。
というか本人が目の前にいるから本人に聞いたほうが早いだろうな……。
「……っ」
地面を蹴って攻撃をスレスレで避ける。
あっぶね……髪切れたか? この能力ってやつ効力よくわかんねぇ……。
とにかく和奏が……能力を持っていることは確定だ。今現に使っているわけだし。
次に前世だが……言動的に、ゼンを知っているのだと思う。てことはコイツも……?
もしそうだとしたら、コイツも俺の前世(?)を知っていて、その上で幼馴染として付き合ってきた……ってことなのか? だったら何で今更?
「避けてばっかじゃつまんないよーーーー!! ほらほら、私とも戦ってーーーー!!」
「っと……!!」
俺はそれに応じずただひたすら避け続ける。
……お前と戦えだって? そんなこと……。
できるわけない。
いつだって和奏を見てると思い出すのは、10年前のことだ。
小学生のとき。
あんなに俺に「友達がいない」と言っていた和奏だが、それは和奏にも同じなのだ。
いつもハイテンションで、マイペースで、とにかくうるさい。「協調性」を覚え始めたクラスメート達は彼女を遠巻きにした。
まあ俺もその「協調性」は皆無だったから同じく遠巻きにされたのだが。いや今もだけど。
俺も自覚があるが俺は人への態度が素っ気ないため粘り強く話しかけてくれるようなやつじゃない限り長く付き合わない。
だから和奏とは長く付き合えたのだ。
コイツは勝手に1人で喋るから。
逆に和奏は粘り強く話を聞いてくれるようなやつじゃない限り長く付き合わない。
だから俺と長く付き合えた。
俺は滅多に話さないから。
もはや上手く行くのは運命みたいなものだった。
俺は別にコイツだけで良かったけど、コイツにとってはそれじゃ嫌だったらしく、コイツは色んな人に話しかけていた。
でも結果は予想通り、全滅。
ほとんどの人から相手にされず、和奏は……1人だった。
教室で立ち尽くす和奏は、俺でも見ていられないと思うほど……あまりに、惨めだった。
だから、側にいることにした。
俺にしては珍しく、ほっとけないと思って。
でもそう思わせたのはコイツだ。
だから良くも悪くも、俺にとってコイツは特別なやつなのだ。
小学生の頃から和奏はしょっちゅう転校していたが、家は近いためよく放課後は一緒にいた。
しかし1年前、和奏は初めて遠い場所に引っ越した。
また戻ってくるねと、その言葉だけを残して。
誰より1人が嫌いで、人を大切にできるやつ。
……だからこそ、戦えない。
でも対話出来る状態でもない。どうする? ピアノで1回眠らせる? 俺に出来るか?
つーかアイツ電子オルガンなんぞ弾けたっけ? ピアノはやってた記憶あるが……そこから流れか? でもピアノと電子オルガンって似てるけど結構違うって聞いたことあるぞ……?
「もーーーー!! 千秋ってばーーーー!!」
和奏は駄々をこねるようにそう叫んで足の鍵盤を思いっきり蹴る。
ダンッッッッ!! と音が響いて俺はバランスを崩した。
あっ、まずっ……!!
それを見た和奏がとどめを刺すと言わんばかりに指と足を少し持ち上げて構える。
「いい加減……フィナーレに行っちゃおーーーー!!!!!!!!!!」
もうピアノを出すしかない、と思ったその瞬間。
目の前に誰かが飛び出して来て、和奏の攻撃を受け止めた。




