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第14話「証明開始」②

「……あ。アキ発見」


 するとそんな声が降ってきて、俺はビクッ!! となった。顔を上げると、ゼンがこちらを見て笑っている。心臓が跳ね上がり、一気に鼓動が早くリズムを刻む。不意打ちは駄目だろ、不意打ちは……!!


「ぜ、ゼン」

「いやぁ、いつもの屋上いなかったから探してたんだけど……ここにいたんだね」

「……な、何で、俺のこと探してたんだよ」

「何でって……」


 ゼンはそう呟き、首をひねってから言う。


「……会いたかったから」

「っ……!!」


 俺は思わず持っていた楽譜で顔を隠すようにした。ゼンは不思議そうに首を傾げているのがわかる。だけど、駄目だ。今顔を見られるのは困る。ものすごく困る。

 というか、そんなことポンポン言うんじゃねぇよ……!!


「……アキ?」

「少女漫画の中の王子様かよお前は……」

「えっ? 何の話?」


 ……くそっ、顔が良すぎて見れない……。


 俺が一人で悶ていると、ゼンが言った。


「……ね、それ何?」

「……え?」


 俺は楽譜をどかす。すると目の前にはゼンの顔。反射的に顔が赤くなるのがわかると同時に、ゼンが指差しているのは俺が持つ楽譜だということがわかった。


「……が、楽譜」

「それは流石にわかるって。何の曲? ってこと」

「あ、ああ……」


 俺は楽譜に目を落とし、呟く。


「……ドヴォルザークの、交響曲第九番ホ短調、『新世界より』だ」

「へー、有名な曲だよね」

「ああ」


 前奏とメロディー、誰もが聴いたことのある曲だろう。その名の通り、新たな場所へと連れて行ってくれそうな、冒険心をくすぐるような、そんなメロディーが楽しい。強弱の付け方がポイントとなってくるだろうか。


「……お前が言ってただろ」

「ん?」

「持ち曲、考えた方がいいって」

「あー、そうだね」

「……何となく、ピンと来たのがこれだったから……っつっても、しっくり来てるわけじゃねぇけど」

「うん、色々考えてみなよ」


 ゼンがそう言って微笑む。その横顔に顔が赤くなるのを感じながら、俺は彼から視線を外し、頷いた。

 それからまた顔を上げる。


「そうだ、ゼン……」


 ずっと言おうと思っていたことを言おうと口を開いた。俺の言葉にゼンが続けて顔を上げた、その瞬間。



「Meister!!」



 ……そんな声とともに、誰かが音楽室に飛び込んできた。その声、その単語には聞き覚えがある。声の主は……。


「……や、えん……」

「! お前は……!! 森下秋……!!」


 俺と八遠が固まっていると、ゼンが急に立ち上がった。そしてゼンは無造作に八遠の頭を掴むと、ガバッと俺に向けて頭を下げさせる。


「……え?」

「アキ!! ほんっとーにこの度は、俺の弟子……いや元だけど、元弟子が、失礼しました!!」

「……あ、はい……」


 戸惑っている俺に構わず、目の前でゼンは八遠に、ほらお前も謝れ、と言って八遠には無視されている。その頭をゼンが思いっきり叩いた。漫才のツッコミみたいな叩き方だった。何だろう、愛があるというか。そんな感じがする。


「……俺別に、悪いと思ってませんし。こいつがそれを望んでたから俺が叶えてあげようと思ったんですよー。だってこいつにピアノを続ける資格なんて無いし。こいつ自身もそう思ってたわけですし」


 八遠は悪びれることもなくそう言い放って、はあ、とため息をついた。


「……でもあんた、もう気にしてねぇって顔してんな。ムカつく」

「え……っと」

「はあ、やっぱ、あん時ちゃんと指断っとくんだったな……」


 真顔で怖いことを言う八遠に俺はドン引きしつつも、八遠にもうそこまで敵意、殺意が無いことに気づいて、安心する。二度とあんな目に合うのはごめんだ。


「とにかくアキ、これからはヤーコプとアキ、絶対二人っきりにさせないようにします。ヤーコプはいつ気が変わるかわかんないし。二度と変な気を起こさせないよう約束します。……色々、俺の責任なので……」

「あ、いや、別にお前がそこまで気にしなくても……でも、ありがとう……」


 ゼンが俺を安心させるように、優しい笑顔を向けてくる。俺も釣られて微笑んで、頷いた。……ゼンのその心遣いが、素直に嬉しかった。


「……いや、Meisterは俺と森下秋を二人っきりにさせたくないだけでしょう……俺が取るわけないでしょうに……」


 何かをボソッと呟いた八遠は、ゼンに今日一番の強さで頭を引っ叩かれていた。音がとても痛そうだった。大丈夫か。というか何言ったんだお前。


「……ヤーコプは、前世でも、前みたいにアキのことを殺そうとしたの。だから俺は、ヤーコプを破門した」


 突然暗いトーンでゼンが話し出したため、俺は顔を上げる。ゼンは、困ったような顔で笑っていた。


「ほんと、甘いよねぇ、俺」


 ごめんね。とゼンは続ける。俺はその顔を見つめて言った。


「……お前は、コイツのことも大事なんだろ。そして、コイツがお前のことを大事に思っていて、考えているのもわかってるから、それ以上が出来ないんだろ」


 俺の言葉に、ゼンは微かに目を見開く。その間抜けな顔に、俺は笑いながら言った。


「大丈夫。わかってるから」


 するとゼンはしばらく黙ってから、はぁぁぁぁ、と盛大なため息をついて呟く。


「……ほんと、アキってズルすぎ……」

「は? 何が」

「……森下秋、やっぱりお前はここで殺しておくか」

「お前はすぐ殺そうとするな!!」


 ゼンは何故か顔を赤くしたままそう叫んで、それから俺の方を見る。


「そうだ、アキ。さっきこいつが来る前に、何か言いかけなかった?」

「あ……」


 そういえば、と俺は思ってから、一瞬視線を外し、それから笑った。


「……いや、また今度でいい」

「……そう?」


 ゼンはそう言って首を傾げる。俺は頷いた。


 ……そう、今じゃなくてもいい。急いで言うことでもないし。

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