第14話「証明開始」①
タタタンタンタン
タッタタタンタタン
その音に、周りから視線が集まる。しかしその音を発する主は全く気にせずに、その音を鳴らし続けた。
ヘッドフォンをし、ひたすらに机を指で叩く。
その姿は、まるで……。
「……ねぇあいつ、何してんの?」
「めっちゃうるさいんだけど……」
「なんか……ピアノ弾いてるみたいだね」
「あいつ、ピアノなんて弾けたっけ?」
しかし彼にはその声も耳に入らない。
自分だけの世界。その中心で、愛を語りかけ続けている。
「……あの、その……心配かけて、悪かった……」
放課後の公園。俺……森千秋の声に、俺の目の前に立つキャンディと、俺の幼馴染みである日下部和奏は、何も答えずにジッと黙っていた。……いや、怖い。怖すぎる。静寂が怖いんだが。
「千秋……」
「……はい」
和奏の低い声に俺は返事をする。すると、上から声が降ってきた。
「おかえり」
その言葉に、俺は顔を上げる。和奏は、少しだけ呆れたように笑っていた。
「まっ、不本意だけど、こいつに任せて良かったみたい」
「えっ不本意って何だよ」
「は? そのままの意味ですけど」
言い合いを始めたゼンと和奏に対し、またかよ……と俺が思っていると、キャンディが呟く。
「おかえり。アキ」
「……うん」
俺は頷いた。それを見てキャンディは、素直、と笑う。
「私も聞いていい? アキがピアノをやめた理由」
俺は黙って、そして、頷いた。……キャンディだけに話さないっていうのも、不公平だしな。
「……俺は……」
長い話をして、ずっと相槌を打ってくれたキャンディは、話し終わるとニコッと笑った。
「……まあ、誰しもそれなりの事情を抱えてるものね」
「感想それかよ……」
「……確かに、私もそんなことあったら歌やめてたかも。……奏の言うこと、良くわかるわ」
キャンディはそう言って俺に背を向け軽く伸びをし、再び俺のことを振り返って言う。
「……改めて、そんなことがあったのに帰ってきてくれてありがとう。おかえり」
俺は目を見開いて、それから笑った。
「……ただいま」
するとそこで、キャンディの顔つきが変わる。何かをからかおうとしているような表情だった。思わず俺が固まると、キャンディはズイッと顔を寄せてくる。
「……それでアキ。ゼンと何かあったみたいね」
「なっ、何かっ……な、ななな何言ってんだよ……」
「誤魔化すの下手か」
今度はキャンディは呆れたように苦笑いを浮かべて言った。
「好きなんでしょ? ゼンのこと」
その直球の言葉に俺は言葉に詰まりつつも、もう誤魔化せないと悟り、ため息をつく。
「……何でわかるんだよ」
「わかるよ。顔見てれば」
「……そんなにわかりやすいか?」
「大丈夫、本人は全然わかってないから」
「それもそれでムカつくな……」
「……特大ブーメラン乙……」
「何か言ったか?」
「何も?」
キャンディはそう言ってクスクスと口元を抑えて笑った。良くわからないが、馬鹿にされたことはわかる。俺が眉をひそめると、キャンディは言った。
「……応援してるよ」
「……ありがとう」
俺は視線を横に向ける。まだ喧嘩をしているゼンと和奏がいた。しかし喧嘩をする二人の横顔はどこか楽しそうで、少しだけ胸が締め付けられるような思いになる。
ズキン、ズキン、と胸が痛みの音を鳴らす。嫉妬か。はたまた、別のものか。
……恋をするなんて初めてだから、わからない。
「……なるほど、恋愛童貞」
「小学生が何言ってんだよ……あっ」
思わず口答えをして、口を滑らせたことに気づいた。恐る恐る横を見ると、キャンディが笑顔で拳を構えている。いや、待て、と言う前に。
「……歯ぁ食いしばれ☆」
「笑顔で言うことじゃねぇだろっ……」
キャンディの拳がみぞおちに入り、俺はその場に崩れ落ちた。……いや、身長的に本当にみぞおち入りやすいんだよ。そんなこと言ったらまた殴られるだろうから、言わないが。
あの日、ゼンとピアノを一緒に弾いて、俺は自分の気持ちに気づいて。
……その時は自分でその気持ちを抱いていることに動揺し、慌てて今日は遅いからもう帰ろう、と言ったのだった。帰り道は、全くその顔を見ることが出来なかったことを覚えている。とにかく緊張した。声を聞くたび存在を感じるため、こんなにドキドキする。そんなこと、初めてで。全てが初めてで。
……そりゃ、キャンディに「恋愛童貞」と言われても仕方ない、かもしれない。
だって、今まで恋愛なんて自分には無縁だった。俺のことを好きになる物好きなんていないし、そもそも女子に興味を抱いたことすら無かった。……初恋が、高校生。しかも、男。俺はゲイなのか? だから今まで恋愛なんてしてこなかったのか? ……いや、でも同性をそんな目で見たこと無いわけだし、やっぱりゼンが特別なのだろう。
……俺はいつから、ゼンのことが好きだったのだろう。たぶん、勘だが、あの時好きになったわけじゃない。もっと、前……。
……思えば初めから、その言動にドキドキして、そういえば、キスするかもってなった時に全然嫌じゃなかったり、そもそも初対面でフェンスで壁ドン(?)されたしな……。
……。
……あれ、俺、もしかして初めから、ゼンのことだいぶ好きだったのでは……?
うわぁ、と思って俺は一人で悶る。恥ずかしい。何とは言わないが、恥ずかしい。
そんなことを、一人音楽室にこもりながら考えていた。




