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第2話「音域の化物」①

『アキ、だめだよ、そんなの、アキが死んじゃう!!』

『そうかもしれないな』


 青年はそう言った後、もう1人の人物に告げる。


『もし俺が死んだら、あとはよろしく頼む』





 そこで目が覚めた。


 俺……森千秋はしばらくボーッとしてから頭を抑える。

 先日、転校生である香光善に「お前は俺の前世の相棒だ!!」と言われ、何が何だかわからないまま俺の能力とやらが目覚め、「やっぱり君はアキだった!!」と言われたが、正直まだ信じてない。目覚めたのはあくまでも能力であって、記憶ではない。

 その能力がたまたま名前の似てた俺に来ただけかもしれないしな。


 ……と、思っていたのだが。


 能力が目覚めてから、こういう夢をよく見るようになった。

 たぶんこれは『森下秋』の記憶で、俺に『お前は森下秋の生まれ変わりなんだ』と言われているようで腹が立つ。


 腹が立つ、のだが……。

 ……その記憶を、『ゼン・フロライト』との楽しかったような……そんな記憶を見るたびに、変に懐かしくなる。


 ……というか、本当に俺が『森下秋』の生まれ変わりなのならゼンみたいに記憶を残してくれれば話が早いはずなのに。

 まぁ、俺はまだ『森下秋』の生まれ変わりであることを認めていない。


 ……そろそろ母親に呼ばれそうなため、この話は一旦終わりにしよう。





 教室に入ると、何やら人だかりが出来ている。

 その中心には、ゼンがいた。


 先日の「お前は俺の前世の相棒だ!!」という言葉にクラスメートはドン引きしていたが、ゼンの人柄もあってかアイツはあっという間にクラスの中心人物となっていた。


 ……本当に、何で俺なのか、疑ってしまう。

 影で生きるような俺が、なぜこいつの前世の相棒なのか。


 ……いや、認めては無いがな!?


「あっ、アキ!! おっはよーーー!!」


 そしてゼンが俺に気づき手を振ってくる。

 ギクッとなる俺に対し、ゼンは満面の笑みを見せていた。


 目線だけでクラスを見回すと、その反応は案の定。「何でアイツが」「どうしてこんな陰キャとこの人が仲がいいんだ」とか、大方そういうものだろう。

 ……それは俺が1番聞きたい。


 とりあえずゼンを無視して席に着くと、クラスメートの「感じ悪ーい」という声が耳に入る。ご丁寧に、俺にも聞こえるように。

 感じが悪いのは自覚があるしわざとだから、今更その悪口に対して何も思わないが。


 またその集団達が自分たちの話に戻ったタイミングを見計らってチラッ、とゼンのことを見る。


 すると輪の中心にいるゼンと目が合った。

 その瞳はどこか悲しそうで、とても……綺麗で。


 目を合わせていられなくて、慌ててヘッドフォンをつけ、五感をすべて遮断した。





「もー、アキってばどうしてああなの? クラスメートの皆、良い人達じゃん。どうしてああいう態度取っちゃうわけ?」


 帰り道、コイツにこうして絡まれながら帰るのにもだいぶ慣れてしまった自分に少し腹が立つ。

 俺が聞こえないふりをして無視をしていると、ゼンが俺の目の前に立って言った。


「ねぇアキ、聞いてるんでしょ?」

「……うるせぇ」


 俺はそう言ってそっぽを向く。


「……誰と仲良くしようが、俺の勝手だろ」

「誰とも仲良くないくせに」


 ゼンの言葉に俺は無言を返す。

 まあ……図星だからだ。


「……アキは」

「……何だよ」

「1人でいるのが、好きなの?」


 再び無言を返す。


 そうだ。俺は1人が好きだ。

 1人でいれば、俺は……。


「……誰にも感情移入しなければ、俺は傷つかないですむ」


 言ってからハッとなる。


 俺……今、何を言った?


「じゃあアキは、1人でいいの?」


 ゼンがそう、真面目な顔で告げる。

 俺は合った目がそらせなくて、その目をずっと見つめる。


 またこれだ。コイツの雰囲気に、飲まれてしまう。

 何も言えなくて黙っていると、ゼンは少し苛ついたような声で言う。


「……アキは昔からそうだよ。誰とも関わりを持とうとしないで、いっつも1人で……そんなの、悲しいだけじゃん」


 俺はその言葉に少しイラッとし、吐き出すように言う。


「……お前に俺の何がわかるんだよっ」


 その言葉に一気に場がシン……となる。

 少し言い過ぎたと思って口を開きかけた、その瞬間。



「ほらゼン!! やっぱりソイツがアキでも、私はゼンの隣にソイツがいることを認めない!!」



 頭上から声が聞こえた、と思った瞬間俺は誰かに頭を踏みつけられ、そのまま沈められていた。


「アキ!?」

「いっ……つ……」


 俺がうめきながら顔を上げると……こちらを見下ろす、少女がいた。


 長い金髪をツインテールにし、色々派手な服を着てこちらを睨みつけている。

 その背中には……。


「……小学生?」

「あっ、アキ、その言葉は地雷……」

「……だ〜れ〜が〜小学生ですって!?」

「いや、お前だが」

「はっきりしすぎだよアキ!?」


 目の前にいる赤いランドセルを背負った少女は顔までも赤くして怒っている。


「とにかく!! 森千秋!!」

「……何で俺の名前知ってるんだよ」


 そう言いつつ立ち上がって、その顔をしっかり見て、俺は気づく。

 ……あ、コイツ、今日の夢に出てきてた……。


 いつも登場するのは『ゼン・フロライト』ばかりだったのに、今日突然知らないやつが出てきてたから、不思議に思ってたんだよな。

 ……じゃあコイツも、前世がどうとかいうやつ?


「アキがあの学校にいるって教えてくれたのは、他ならぬこの子だからね」

「……えっと、キャンディ……だっけ?」

「アキ、結構人の名前覚えてるよね……興味はないくせに……」

「ほっとけ」


 俺達の会話を聞いていた小学生……キャンディは俺達の間に割って入るようにゼンに抱きつく。


「森千秋!! ゼンからすべからく身を引きなさい!!」

「すべからく……」


 ……最近の小学生は難しい言葉を知ってるんだな……いや、前世があるからか……?


「アキー、いい加減キャンディが可哀想だよー……」

「え? ああ……いや、身を引けと言われても……」


 引けるものなら引きたいのだが。

 俺が言葉を選んでいると、コイツの頭の中でどういう結論が下されたのか、キャンディは俺を指差す。


「じゃあわかった!! 私と能力で勝負しなさい!!」

「えっ、キャンディ!! さすがに今は……」

「大丈夫、ちゃんと人払いするし、それにこいつは能力に目覚めてるんでしょ!?」


 ……ダルいな……。

 でも、コイツはもう何言っても聞かなそうだし、今逃げてもまた来そうだしな……。


 俺は少し考えてから腕を組む。


「わかった」


 俺の言葉に2人は顔を上げる。


「ゼンのことはどうでもいいが」

「そんなはっきり言う……?」

「断るほうが怠そうだから、その勝負を受ける」

「いやでも、アキ……!!」


 ゼンはなぜか顔を青くしてオロオロしている。


 ……たぶん、前に来たバイオリン男ほどのレベルなら俺でも対応できる。

 ……問題は、能力がちゃんと発動してくれるか、だが……あの後自分から使おうと思ったことは無いし……。


 キャンディはニッと笑う。


「後悔しないでね、森千秋!!」

「いや2人ともマジ……!?」


 ゼンに構わず、キャンディが手を真上に掲げる。

 するとその姿がみるみる変わっていった。


 カジュアルな服はフォーマルなドレスに変わり、髪型もツインテールをおろした形に変わっている。

 このまま舞台に出ても、違和感はゼロだ。


 ……ただ。


「……楽器が無い?」

「あちゃー、アキ、死なないように頑張ってね?」

「は……? どういうことだよ」

「キャンディはね。声楽家なんだよ」

「声楽家……?」


 ゼンは頷き、苦笑いのままキャンディを見つめて言う。


「そう。前世ではめちゃくちゃ有名で、知らない人はいないと言っても過言じゃない。何故そこまで有名なのか……理由は簡単」


 ゼンはそこで区切ってから言う。



「音域が広いんだ。人間の出せる音域は平均2オクターブ半なのに対し、キャンディは7オクターブ……音域の、化物だ」



「何だよそれっ……!!」


 人間の限界を超えてるじゃねぇか……。


 そこでキャンディが俺の方を見て、口を開く。

 やばい、と思って備える暇もなかった。


 歌声が、耳をつんざく。

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