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第9話「対立組織【後編】」②

「尊経派……つまりここ、『コン・アニマ』のライバル的組織の名は……『グラーヴェ』」


 はい。と手を差し出され、俺はその言葉の意味を言った。


「……『重々しく、荘重に』」

「うむ。正解だ。勘は鈍っていないようだな」


 勇林は満足げに何度も頷く。俺はそれを見ながら考えた。


 ……これも、音楽用語の付いた組織なんだな。しかも、これも意味が意味なだけ……。


「これも先程言った通り、経済面を尊重する組織だ。大衆的に、機械的に、ただ〝売れる〟音楽を作り出す。個性なんて、売れなければ即刻捨てさせる」

「……要は、完璧主義ってところか?」

「つまるところ、そうなるな。数字だけしか見ないから、同じような音楽になる傾向が強い。それだけなら勝手に内輪でやっていてくれ、と思うが、それを外にも求めてくるから、困ったものだ」


 そう言って勇林は腕を組む。本当に困っているようだ。


「この世に完璧な音楽以外いらない。それがやつらの信条だ」

「……本当に困ったやつらだな」

「全くだ」


 勇林は本を閉じ、俺のことをジッと見つめてくる。


「そして『コン・アニマ』、『グラーヴェ』、この二つの組織の大喧嘩こそ、かの『ウィーン音楽聖戦』だ」

「大喧嘩……」

「ああ。お互いの理想の押し付け合いだ。そんなもの、いたちごっことなるだけなのに……それでどれだけの人が悲しみ、亡くなってきたことか」


 勇林は吐き捨てるようにそう言って、近くの本のタワーの頂上に、持っていた本を積み上げた。


「……そして我々は、『コン・アニマ』についた。『グラーヴェ』よりは、そちらの方がまだマシだったからな。だがその戦争に参加しているうちに、どちらも間違っていることに気がついたのだ。……喧嘩をふっかけたのは『コン・アニマ』。しかし『グラーヴェ』のやり方には頷きがたい。……私たちは、その狭間で無力だった」


 勇林はそう言って俯く。太陽の光に漬けたような淡く色を放つ茶髪が、サラリと揺れた。


「戦争は起こってしまった。そして私たちはそれをどうすることも出来ないまま、死んだ。……そういうことだ」


 そして勇林が顔を上げ、俺に向けて微笑む。優しく、悲しい笑みだった。


「……話は、こんなところか。聞きたいことはあるか?」

「……いや、情報量が多すぎて、整理が追いつかん……」

「はは、それもそうだな」


 心がズキズキと痛む。恐らくゼンたちは、その『コン・アニマ』にも『グラーヴェ』にも追われているのだろう。二つの組織に、片手で数えられるほどの個人。しかもアイツらは強いし、どちらが先に手中に収めるかという勝負にもなってきているのだろう。

 ……その中でアイツは。アイツらは、俺を守ってくれた。


 だから俺が、ただ一つ言えることは。



「……強くなりたい。アイツらに守ってもらわなくてもいいくらい、強く」



 隣で戦うと、決めてしまったのだから。

 だから俺は、強くなりたい。守ってもらわなくてもいいと言ったが、いっそ俺が他のやつも守れたらいいって……そう、思う。

 ……アイツの隣に、俺はきっと立ち続けたいから。


 ……何でそう思うかまでは、たぶん心の方が追いついていないが。


「……そうか、アキ……いや、千秋。それがお前の答えだな?」

「あ、ああ……」


 勇林はクスクスと楽しそうに笑う。そして俺を見つめた。


「わかった。お前の意志、その目でよくわかる。……本当に、お前たちといるとこの老いぼれ、死んでも死にきれんぞ」

「……今のアンタは、小学生の見た目だけどな……」

「ふっ、それもそうだな」


 なあ、と呼ばれる。


「アキ……じゃなく、千秋」

「あ、いや、別にアキでもいいが……」

「そうか? なら、お言葉に甘えさせてもらおう。……アキ。お前は……」


 俺は、勇林の言葉を待った。勇林は、告げる。



「ゼンがいかなる事情や問題を抱えていようと、隣に立ってくれるか?」



 俺は目を見開いた。そして首を傾げる。その口調だと、まるでゼンに事情や問題が山積みであるようだ。しかもそれを、他人の口から聞くとは。……よくわからないが、まあ。


「立つよ」


 俺ははっきり言う。


 事情や問題なんて、そんなの今更だ。アイツに出会ってから、俺の人生は狂わされた。目の前に問題なんて、それこそ山積みだ。それが増えるのは、別段大差ない。……たぶん。実際目の前に来たら、どうなるかわからないが。


「俺は、アイツの隣に立ちたい。それが似合うようになりたい」


 後ろにも、前にも立ちたくない。立ちたいのは、隣だ。

 アイツ以上の力を持って、隣にいたい。


 勇林は、微笑んだ。そして、小声で、何かを呟く。


「……その優しさ、あいつには毒にもなり得るな……」


 よく聞こえなくて、俺が聞き返そうと口を開いた、その瞬間。



 ヒュンッ!! と顔の真横を何かが通った。



「…………………………ん?」


 俺の頬を冷や汗が流れる。横目で背後を見ると、壁が僅かに抉れていた。


「ふむ、右耳くらいを拝借しようと思ったが、しっかり避けたな」

「は、拝借、って……」

「見たところ、ようやくマシに能力を使い始めたというところのようだ。……どれ、この私が直々にレッスンしてやろう」

「お前殺す気満々だったじゃねぇか……!」


 また攻撃が来て、俺は再び避ける。また壁が抉れ、天井からはその衝撃からか、パラパラと粉が落ちていてきた。


「なぁに。耳が一つ取れたところで死にはせん」

「何かコイツ怖いこと言ってるんだが……!?」

「本当の敵は、お前の生死に構ってくれんぞ。……アキのピアノのレッスンも私がやっていたんだ。それと同じことをするまでさ」


 ピリッ、と頬に痛みが走る。触ると、血がついていた。軽く切れたらしい。


 ……やるしかなさそうだな。はぁ……。


「……ようやくやる気になったか? アキ」

「仕方なさそうだからな……」


 俺はフォーマルな服に身を包み、ピアノを構える。

 そしてそんな俺を見据え、勇林が……指揮棒を片手に、不気味に、怪しく、不敵に……美しく、微笑んだ。

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