無垢なる喉 2025/09/20 20:09
世界には神など存在しない。もし存在するのなら、無限の命をくれ。世界を、支配させてくれ。力がほしい。
だが現実は、無慈悲だ。 Fランク冒険者の平均報酬は1クエスト3ギラン。パンとビールにすら届かない。モンスターに殺される危険もある。
全ては、ギルド管理局の試験に落ちたせいだ。
管理側なら日給30ギラン。机に座ってるだけで、俺の10倍稼げる。
この世界では、“勉強して管理局に入る”か、“冒険者として上にのし上がる”か。選べるのはその二つだけだ。
――クエストボードを見ると、目を疑う依頼があった。
依頼内容:『村外れの洞窟に出現しているオーク1匹の駆除』
報酬:20ギラン。
おそらく、管理局がEとFを間違えている。無茶な依頼だ。死ぬ可能性すらある。しかし、この依頼を解決すれば6日分の報酬が受け取れる。
「どうする。受けるか。」
「あの……」
振り返ると、クエストボードの隣で縮こまっている小柄な少女がいた。黒いローブに肩までの焦げ茶色の髪、ぼさぼさの前髪の隙間から、怯えたような瞳がこちらを見ている。
「……その依頼、わたしも、一緒に……」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「……は?」
「い、いや、あの、えっと……その……ごめんなさいっ!」
少女は首を振って、後ずさりしそうになったが――俺はすぐに反応した。
「待ってください。今、なんと?」
「……その依頼、一緒に、やりたいんです……!」
彼女は、目を瞑って叫ぶように言った。周囲の冒険者たちがちらりとこちらを見て、すぐに興味をなくしたように目を逸らす。
彼女の胸には、Fランクのバッジが着いていた。俺と同じ最底辺。
「……名前は?」
「デヴォリア、です。回復魔法と精霊魔法が、少し……」
なるほど。パーティを組めば多少は戦いやすくなる。何より、ソロで挑むには相手が悪い。
「分かりました。僕はウィータです。デヴォリアさん、ですね。よろしくお願いします」
「よっ、よろしくお願いしまひゅ!」
プロティオは緊張して舌を噛んだ。震えてはいるが、その足は逃げずに前を向いていた。
オーク退治――Fランクには無謀すぎるクエストに、俺たちは挑むことになった。