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留侯世家より 張良 その一

 令和の世にあって過大評価されるもの多し。――そう書きだすと、武闘派の張良ファンがウォーミングアップを始め、目敏いものはタイトルに「その一」を見つけて著者が書き逃げしないよう退路をふさぎ、また徳の高いものは「昔はヤンチャだったのよ」と弁護するかもしれない。

 だが、あえて書こう。中国史上一の天才軍師(との呼び声高い)張良は過大評価である。(そしてヤンチャなのだ)

 所以(ゆえん)を記そう。


 張良。字は子房(しぼう)。韓の名族の生まれである。

(※子房と言えば、三国志の荀彧(じゅんいく)を思い浮かべる方もおられるだろう。曹操は彼を「わが子房」と呼んだが「魏公」を称することに反対したので干した。一説によれば自殺に追いやったという。ああこんなところにも過大評価の被害者が)


 韓は戦国七雄最弱の国家で、兵器製造に定評はあるもののそれ以外にいいところのない国である。

(※史記では老子韓非列傳で申不害(しんふがい)という優秀な人材もいたと書いている。ただ知っている人はかなりの中国史マニアに限られるだろう。すごい)


 張良の祖父張開地、父張平はともに韓で相国(しょうこく)(※王の次に偉い。丞相の上の役職)を務めた。

 父張平が死んで二十年後に韓は滅亡した。このとき張良はまだ若く官職についていなかったと史記には書かれている。

(張良は生年は不明ながらもこのとき二十歳に達しているはずである。祖国が滅亡の危機に瀕しているのに名族の子が官職にも就かずどこをほっつき歩いていたんでしょうね?)


 さて、張家は良家でお手伝いさんが三百人もいたが、張良は弟の葬式すらせず、家財のことごとくを売り払って秦王を暗殺するテロリストを雇い、祖国の仇をとらんとした。

 後の世に云う「(はかりごと)帷幄(いあく)の中にめぐらし、勝ちを千里の外に決す」張良が秦王を暗殺するために選んだ方法とは


――ハンマー投げである。


 およそ常人には思いつかない手法であるが、緻密な彼の脳はこれを最上の策と見極め、実行した。

 まずはかつて淮陽(わいよう)(※三国志的にはあの袁術の出身地)に礼を学びにいった際に知己を得た倉海君に会い、力士を得た。(※倉海君という名の力士だったという解釈あり)


 この力士に重さ百二十斤(※斤は時代によって重さがまちまちで、当時は一斤あたりWikipedia日本語版では226.67g、中文版では248g説を採用している。つまり30kg弱)もある鉄槌をぶん投げてもらって暗殺しようとしたのだ。


 オリンピックのハンマー投げの重量が7.26kgで世界記録が86mだから、そんな重いものを狙った的に当てられるのか、また当てられたとして射程はどのくらいか? まさか秦王の目と鼻の先でハンマーをグルグル回すわけにもいかないであろうから、敵から隠れて投擲(とうてき)しなければならないなど問題山積の、まさに常軌を逸した作戦であるといえよう。

(某漫画で天下を獲るため大型甲鉄艦を全財産の五分の三をつぎ込んで買ったという話があるが、それに比べるとすばらしい独創性である。事実は漫画より奇なり)


 秦王も驚天動地であっただろう。そして結果は――残念。失敗である。


 非常に惜しかった。ハンマーは秦王(この頃には「始皇帝」と皇位についていた)の副馬車に当たってしまった。

 力士はナイスファイトである。難しいシチュエーションながらしっかり目標を捉えた。ただ狙いが悪かった。そう、張良が目標を見誤ったのだ。後世の創作では老獪(ろうかい)な始皇帝に(あざむ)かれただのなんだの描かれているが、とどのつまりしくじったのである。

 暗殺というテロリズムに走りながら失敗するという安〇根、山〇以下の汚名を被った彼は、ブチ切れた始皇帝の追手から逃亡し、名前を変え下邳(かひ)(※呂布が最後に負けたところ)で(かくま)われたという。


 ここから張良のサクセスストーリーが始まるのだった。

注釈が多くてすみません。といいつつ今後もやっていきたいと思っています。

なにかあればコメントください。あと、こんなのを書いたあとで恐縮ですが、

書いて欲しい人物などコメントいただけると優先して書きます。

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