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五帝本紀より 黄帝 その一

 獣使い(ビーストテイマー)。本邦では桃太郎でお馴染みの職業(クラス)であるが、世界に目をむければその歴史はさらに古く、旧約聖書によればレメクの子ノア、史記によれば少典の子黄帝にまでさかのぼる。


 姓は公孫、名は軒轅(けんえん)。のちの黄帝である。

 台湾のゲームで軒轅剣というものがあるが、彼から名前を取っている。たぶん。

 むかし某動画サイトで軒轅剣参外傳のねっとりプレイ動画を視聴したが、しっかりしたゲームだった。興味のある方は調べてみてね。なお私は一切関係ありません。


 閑話休題。黄帝は生まれたときからスピリチュアルに目覚めていて、幼いのにおしゃべりで几帳面、大きくなると情に厚くて賢くなった。


 このころは神農氏の治世の終わりで、諸侯が争いあっては民をいじめていた。黄帝は神農氏の長、炎帝にしたがって軍を率いこれを鎮めた。


 諸侯の中でもっとも手ごわいのが蚩尤(しゆう)で、彼は(れい)氏という九つの部族を(たば)ね、頑強に抵抗していた。なお蚩尤はWikipediaによると目が4つあって腕と脚が合計で6本あるらしい。なに言ってんだか。


 さて炎帝は争いを武力で解決し、終いには領地を侵略するので次第に諸侯から嫌われ、替えて黄帝に信任が集まるようになった。これを炎帝は怖れ、ついに黄帝と敵対し、干戈を交えることになった。後の世にいう阪泉(はんせん)の戦いの始まりである。


 黄帝陣中。黄帝が使役(テイム)するトラ、クマ、オオカミがたき火を囲っている。


「いよいよ明日は決戦トラねぇ」

「今日はたっぷり食べて精をつけるワン」


 トラとオオカミが肉にかぶりつく中、クマはひとり笹を食べている。


「おいクマ吉。そんなもん食べてたら元気でないトラ」

「いやあ最近は歳のせいか脂っこいものが受け付けなくて……」

「おまえ、本当に肉食獣トラ?」

「クマは雑食なンダな」

「よくみると白髪が増えたトラねえ。耳以外、頭真っ白トラ。目のまわりなんかこんなにクマができて、明日戦えるトラ?」

「頑張るしかないンダな」


 と、そこへ仲間のタヌキが青い顔してやってきた。


「タヌ公。どうしたワン?」

「大変だ……」


 見れば脂汗で全身びっしょり。


「なにが大変トラ?」

「……抜けなくなった」

「なにが抜けなくなったワン?」

「黄帝様からいただいた褒賞の玉が、抜けなくなっちまったんだ!!」


 トラとオオカミは互いを見合わせた。


「どこにハまったトラ?」

「とってあげるワン」

「本当か!?」


 タヌキの顔がパァっと明るくなる。


「ここなんだが」


 と振り向きケツを向けると、見事な玉が肛門にミッチリはまり込んでいるではないか!


「お、おま、それ、どうしたトラ?」

「いやあ、おいら宝石とか好きじゃん? 出し入れして遊んでたら抜けなくなって……」


 たき火に照らされキラリ光る玉。トラとオオカミはドン引きである。


「さあ、早くとってくれ!」

「トラさん。どうするワン?」

「俺の爪じゃあタヌ公の肛門がズタズタになるトラ。ここはワン太がやるしかないトラ」

「えぇ……」


 トラに威圧されたオオカミは、


「仕方ないワンねえ」

「おお、助かるぜ、友よ」

「ひとつ貸しワン」


 不承不承、タヌキの尻の前にお座りした。恐る恐る爪を隙間にひっかけた瞬間、


「ンホー!!」


 タヌキの絶叫が響いた。


「変な声だすなワン! 玉が奥にいってしまったワン!!」

「そ、そんなこといったって///」

「騒ぎを聞きつけて皆集まって来るワン」

「それは困るよぉ。そうだ! トラさん。おいらの口をふさいでくれ!!」

「えっ。嫌トラ」

「頼むよぉ。このままだとおいら、あんなことやこんなこと、口走っちゃうかもしれないよぉ」

「……しょうがないトラねえ」


 トラが正面に回ってタヌキの口を押さえる。


「いくワン!!」

「こいトラ!!」

「ン”、ン”ホ”ーー!!」

「前門のトラ後門のオオカミ、なンダなあ」


 小一時間ほど格闘したが、結局玉は取りだせなかった。


「そ、そんな……。おいらは二度と出し入れできないのか!?」


 タヌキは声をあげて泣いた。


「明日、ウサギ先輩からケ〇ナ〇ナ確定なって言われてんのにどうしよう……。あの先輩怒ると川に突き落としたり火をつけたり。ああ、まずい……」


 そこへ黄帝があらわれた。


「タヌ公、どうした?」

「……なんでもないっす」


 タヌキもまさか賜った玉をケツにいれたら取り出せなくなったなんて言えるはずもなく、平静を装った。


「そうか。なにかあったら言ってくれ」

「はい」

「黄帝様、なにか御用ワン?」

「皆に相談したいんだが、今回の炎帝との戦い、なにか策謀めいたものを感じるんだ。皆はなにか感じないか?」


 トラ、クマは首をかしげる。と、オオカミが、


「そういえば、少し前に炎帝様のところで変な角の生えた男を見たワン」


 思い出したように言う。


「角?! バッカモーン。そいつが蚩尤トラ!!」

「本当か!? ワン太!!」

「本当ワン。間違いないワン」


 トラとクマは見合わせる。


「もしかしたら今回の炎帝様との一件、裏で蚩尤が糸を引いている可能性があるトラ」

「野心家の蚩尤のことだから、良からぬ企みで間違いないンダなあ」

「蚩尤の狙いはなんだろうか?」

「「それは……」」

「二虎競食の計トラ!!」「駆虎呑狼の計なンダな!!」

「どっちだ?」


 トラ曰く。


「昔、ひとつの肉をめぐってトラ同士が争い、双方力尽きたトラ。今回の戦いは炎帝様と黄帝様を戦わせて互いに共倒れさせようという蚩尤の謀略トラ」


 クマ曰く。


「昔、ワン太がねぐらがなくて困ってたとき、トラの穴にヒョウをけしかけて追い出し、その間に穴に入って寝てたンダなあ。つまり炎帝様と黄帝様を戦わせている間に、蚩尤が黄帝様の拠点を奪う作戦だと思うンダなあ」

「?! あの時、寝込みを襲わせたのはお前だったトラね!!」

「ちょっ、クマ吉さん。それは内緒だって?!」

「許さんトラー!!」


 トラとオオカミは取っ組み合いのケンカを始めた。


「止めなさい!」


 黄帝が一喝する。


「とにかく炎帝との戦いはすばやく終わらせる必要があるな。お前たち。力を貸してくれ!」

「まかせるトラ」

「やるンダなあ」

「頑張るワン」

「ウッス」


 その後、黄帝はタヌキらの奮闘もあって、炎帝と三度戦った後に勝利を収めた。

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