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王女、愛を誓う

「お兄様。お呼びとのことで参りました」

 マレーナはノックをするとフレデリクの執務室に入った。

「マレーナ。色々決まったことがあるから説明するよ」

 フレデリクはマレーナ誘拐事件の責任者だ。きっとそれについてだろう。事件からちょうど1週間。そろそろ動きがあるだろうと待っていたのだ。

「まず、アロイス王子の元を訪れた船の持ち主は、アロイス王子の母親の実家、つまり伯父だな。クレメンタール王国で、第一王子であるアロイス王子と第二王子のどちらが後継に相応しいか決める為の審査を国王が設けたのは知っているだろ?使って良い予算も同額渡したらしい」

「ええ。その為に長々と旅をしていたんでしょ?あの王子は」

「そう、半年も国を開けて、まあある意味外交とも言えなくはない視察旅行でお金を使っている間に、第二王子はまず王都の庶民たちの要望を集めた。

 クレメンタール王国の王都には真ん中に川が流れているらしくて、渡る為の橋を増やして欲しいという意見が多かったらしい。回り道をしなくてはならないから大変だと言ってな。人と台車が通れるくらいの幅の橋で良いから欲しいと。

 それで第二王子は王都で建設業をしている3つの業者にそれぞれ橋を作る案を出すように指示した。価格は第二王子が決めた予算内で、それでいて頑丈な物をと。もちろんそれだけの事業だから国王から渡された金額では収まらないが、第二王子は任されていた領地の経営が上手く言っていてそこそこ資金があったらからそれも使ったらしい。

 3本の橋の建設という国の事業を請け負う上、王都民に喜ばれて評判が良くなるからと、喜んで業者は参加して色々な案が出たらしい。

 結局、全ての業者が1本ずつ作ることになったそうだ。更にそれぞれの橋にその業者の名前が付くと第二王子が言ったら更にかなり安くなったらしい。

 もう半分以上完成してるそうだ。というか今頃完成しているかもしれないな。4か月経ったところで国王が第二王子の事業に関心を示した。王都の国民が完成を待っているってな。

 それまで王都の橋は馬車が通れる幅のものばかりだったらしく本数も少なかったらしい。それが細い橋を作ることで庶民の生活がしやすくなるんだ。それに新しくできる橋は馬車との接触の心配もない。しかも大きな橋と違って建設費用はその3分の1以下。気になって当然だ。

 更に一か月後。国王が橋の建設現場を視察しに行った。それぞれ意匠が細かくされている美しい橋が出来上がりつつあるのに驚いたらしい。渡した金額ではとても作れるとは思えない橋だ。

 それで何故かと第二王子に聞いたら、橋に業者の名前が入るってことで、より自分たちの評判を上げようと宣伝効果も考慮して、採算度外視の橋を各業者が作っているそうだ。それを聞いて国王は第二王子の機転に飛んだ方法を大いに喜んで感心したらしい」

「素晴らしい案ね。安くて安全で美しい橋。業者はここで採算が取れなくても評判が良くなれば次に繋がるものね。しかも1本ずつ作らせるなんて競えと言っているようなものだもの。それは採算度外視するわよ」

「そうなんだ。で、そうなってくると、外交といって出掛けたまま帰って来ない第一王子の評判はどうなるか。言わずもがなだな。それで心配になった伯父が、大体の行程を聞いていたからたぶん今頃うちにいるだろってことで、船で急いで迎えに来た。このままでは第二王子が王位を継ぐことになる。自分は次の国王の伯父になる予定だったのにってな。

 早く戻らせて何か手を打たないとならない。まあ、それでアロイス王子はマレーナを連れて帰ることで王女が妃になるというのに王位を継げないのは相手国に失礼だということにしようと企んだようだな。

 全く。第二王子が優秀で良かったな。クレメンタール王国は」

 フレデリクは少し疲れているのか眉間を揉んでいる。

「それで、処遇はどうするの?」

「アロイス王子とその伯父は高位貴族が入る裁判所の裏の施設に監禁中。護衛たちは王女に剣を向けたとして通常の牢屋だ。王女の誘拐だからな。極刑にしたいくらいだが、とりあえず全員生かして帰らせることにした。後からクレメンタール王国から言われても嫌だしな。

 まあ向こうの返事待ちだが、こちらとしては賠償金を払ってもらって引き取って欲しいところだ。さっさと迎えに来いってな。まあ遠いからまだまだかかるだろ」

「そうね。あちらでどんな裁きを受けるかは知らないけど、とにかく二度とインデスタ―王国の土を踏ませたくないわ」

「それから、イルマ嬢だが、修道院行き。ハーバラ侯爵家は爵位と領地を没収。王家所領に居を移してそこで半軟禁で生涯過ごしてもらう。イルマ嬢は最後まで自分は関わっていないと言い張っていたが、それは通じないからな。アロイス王子も共犯を認めているし」

「へえ。あの状況で関わっていないなんてよく言えるわね。もう会わないで済むなら良かったわ」

 マレーナはそんなことよりとフレデリクに話しかけた。

「ねえ。今日はコンラードはいないのね。ちゃんとお礼が言えていないから言いたかったのに」

「ああ、コンラードなら父上と面会中だ」

「そうなの?色々大変ね。お兄様やお父様のところに行って。お休みはちゃんと取らせているのかしら?」

「失礼だな。ちゃんと休暇はあるぞ。毎月予定を組んで休んでいる。基本日曜も休みだしな。僕だって休みたいし当然だよ。まあ、おまえは楽しみにしていれば良いさ」

「何を?」

「いずれわかる」

「そう?よくわからないけど。お兄様の言うことだから何だか楽しみね」

 マレーナはそう言って微笑んだ。

「体は大丈夫なのか。かなり無理をしただろ?医者からは大丈夫とは聞いているが」

「大丈夫よ。公務にそろそろ復帰しようかと思ってるの。お父様に打診中よ。ただユリアナお姉様が毎日私のところに来て泣きながら抱きしめてくれるから、もう少しこのままでも良いかななんて思っているわ」

「本当に仲がよろしいことで。お兄様は羨ましいよ。僕だって毎日抱きしめてもらいたいよ」

「ユリアナお姉様を毎日抱きしめて寝ている人がよく言うわ。変わらないじゃない」

「いや、変わる。全然別物だ!」

「はいはい。じゃあ話は終わりね。戻るわ」

 ユリアナの話になると長い惚気話になるので逃げるのが得策とばかりにマレーナは執務室を後にした。


「馬鹿王子たちは極刑ですよね?」

 ミレアが怖い顔で聞いてくる。マレーナが部屋に戻るなり聞いてきたのだ。

「ではないわね。賠償金をもらって帰らして終わりよ。二度とインデスタ―王国の土は踏めないけどね」

「生温いです!マレーナ様を誘拐したんですよ!」

「まあまあ。外交問題にもなるからね。国民も今回の事件を知らないから穏便に済ませるみたいよ。その代わりかなりの額の賠償金を請求したらしいわ」

 マレーナはミレアを落ち着かせようと笑って言った。

「マレーナ様はお金で変えられる存在ではありません!誰もしないなら私がこの手で制裁を加えます!」

 顔を真っ赤にして怒るミレアにマレーナは抱きついた。

「ミレア。あなたの手を汚す必要はないわ。クレメンタール王国に戻っても碌な人生を送れないはずよ。王位なんて以ての外だしね。

 自分の力で王位を取ろうとした第二王子と他人の力で王位を取ろうとしたアロイス王子。どっちが相応しいかなんて誰から見ても明らかよ。私が例え連れて行かれたとしても、きっと第二王子が選ばれていたでしょうね。だって私、誘拐されたって言うもの。

 アロイス王子は私を見誤ったのよ。王女は非力で戦えないってね。それに例えあの時にクレメンタール王国まで連れ去られて、その時に純潔を奪われたとしても。そしてその時に子どもが宿っていたとしても、私はインデスタ―王国に必ず帰ったわ。

 誰とも結婚せずに子どもをこの国で産んで育てたわよ。だって家族もミレアもいてくれるから父親がいなくても問題ないわ。

 ダメな父親より優しい祖父母と伯父夫婦。そして頼もしい侍女と暮らす方が子どもだって幸せよ。従兄もいるしね」

「マレーナ様・・・」

「だけど、絶対に助けに来てくれるって思ってたから諦めず頑張って逃げたのよ。直ぐに気づいて追いかけてくれるってね。その通りだったでしょ?」

 怒りを収めたミレアが今度は涙を流し始めた。

「マレーナ様にそのようなことが起こったとしても、このミレアがずっとお側におりますから」

「もう止めてよ。終わったことよ」

「それでも、あの日お戻りになられたマレーナ様のお姿は、あまりにも危険を乗り越えたのが伝わるものでしたから、誰が許しても私だけは一生憎み続けます」

 そう言いながらポロポロと涙を溢すミレアにマレーナは温かいものを感じた。ミレアは衝撃的だったに違いない。誘拐と知らされただでさえ心配していたのに、戻って来たマレーナのドレスはスカート部分が切り取られていたのだ。よからぬことが起こったと考えてもおかしくはない。さすがのミレアもマレーナ自ら切り裂いて海に飛び込んだとは思わなかったのだ。

 号泣して抱きついてきたミレアの感触を覚えている。泳ぎやすいように自分でやったのだと伝えてやっと落ち着いたかと思ったら、今度は海軍の船が見えていたのなら、助けが到着するまで何故待てなかったのだと叱られてしまった。おみ足をこんなに人目に晒してと。

 更に危険を顧みなかったとも言われた。海で溺れたらどうするのだと。マレーナは実際溺れかけたので言い返すことができなくて、ひたすら謝ると言う不思議な時間が続いたのだった。

「忘れるところでした。こちらがマレーナ様に届いております」

 そう言ってマレーナが一通の手紙を渡してくれた。

「え?コンラードからだわ」

 差出人の名前を見てマレーナは慌てて封を切り中身を取り出した。

「今夜の晩餐の招待ですって!」

 マレーナは顔がパッと明るく輝くと同時に跳び上がった。

「まあ!良かったですね。あの日以来お会いできていませんものね。それはそれは丁寧にマレーナ様をお連れになられてましたから、きっと楽しい晩餐になりますよ」

「そうかしら?荷物のようだったわ」

 マレーナが頬を膨らますとミレアが笑った。

「とんでもない!国宝を運ぶようでしたよ」

「そう見えた?それなら良いけど・・・・」

 マレーナが赤い顔で俯くのをミレアは微笑ましく見ていた。


「じゃあ行って来るわね」

 マレーナは招待されたレストランに行く為に馬車へと乗り込んだ。コンラードは少し遅れると連絡が入り、マレーナが先に一人で向かっているのだ。

「もう。迎えに来てくれても良いのに」

 そんなことを馬車の中で呟きながらも心は躍っていた。久しぶりにゆっくりコンラードに会えると思うと嬉しくて堪らない。窓から流れる景色を見ながら、何を話そうかとそんなことを考えているとあっという間に着いてしまった。

 レストランに着くと支配人がマレーナを奥の個室へと案内してくれた。そして、支配人が扉を開けてくれたので中に入ろうとしたら、部屋の中央にコンラードが片膝をついているのが見えた。

 マレーナはその姿に唖然とした。仕事で遅れると言っていたではないか。しかもじっとマレーナを見ている。マレーナは静かにコンラードに近づいた。

「何をしているの?真面目な顔して」

 マレーナの問いかけにコンラードがマレーナの左手を取った。

「マレーナ。僕の一生を捧げるからどうか僕と結婚してくれないか?」

「え・・・・・」

「マレーナの側にいさせてくれないか?そして生涯愛し続けると誓うから、どうか僕の妻になって欲しい」

 そう言ってコンラードはマレーナの左手に口付けた。

「うそ・・・・。からかってるの?だって、そんなのあるわけないじゃない・・・・・」

 マレーナは信じられないと思い左手を引こうとしたがびくともしない。

「マレーナ。もう誰にも触れさせたくない。奪われたくないんだ」

 そう言ってもう片方の手でポケットからブレスレットを取り出すと、そっとマレーナの腕に嵌める。

「そんな。嘘でしょ?本当にコンラードが私と・・・・」

「僕ではダメか?」

「ダメじゃない!ダメなんかなじゃない!コンラードが良いの!」

 マレーナはコンラードの胸に飛び込んだ。

「本当に私で良いの?」

「もちろんだ。マレーナが良いんだ。マレーナこそ僕で良いか?」

 コンラードが優しく抱きしめてくれる。

「ずっと好きだったの。ずっとよ。ずっと。でも他国に嫁がないといけないと思ってたから諦めていたの」

「僕だって諦めていた。マレーナは美しくて賢いから、きっと王妃になるべく他国に嫁ぐだろうって。いつからかなんて覚えていない。いつの間にか妹のような存在から、かけがえのない愛する存在になっていた。

 僕を選んでくれてありがとう。マレーナ」

「違うわ。私を選んでくれてありがとう。こんな幸せが来るなんて思ってもみなかった」

「僕もだ。だから僕はマレーナが国内で結婚相手を探すと聞いた時からこの日を夢見ていた。フレデリクに許可をもらい、ユリアナ様に許可をもらい。今日やっと陛下に正式に許可をもらった。三回目の挑戦でやっとだ。マレーナが僕を選んだら、その選択を尊重するっておっしゃってくれた」

「三回も!?」

「そうなんだ。大切な娘だからって色々課題を出されてね。やっとマレーナに結婚を申し込むことが許された」

 マレーナの気持ちを知っているくせにきっと父はコンラードが本気か試したのだ。私が後から傷つかないように。マレーナはそんな父と、何度も挑戦してくれたコンラードの愛に包まれているのを感じた。

「ありがとう。コンラード。でも、私と結婚しても兄を支えて欲しいの。今のまま側近でいてあげて。兄には信頼できる側近が必要だわ。時々公務で私と一緒に出掛けてくれればいいから」

「わかった。ただ無理だけはしないでくれ。この先マレーナは一人で解決できることの方がたくさんあるだろうけど、時には僕に頼って欲しい。一人より二人の方が楽しいこともたくさんあるから」

 コンラードがマレーナを抱えて立ち上り椅子へと座らせてくれる。

「わかったわ。結婚したら毎日一日の出来事を報告しあいましょう」

「そうだな」

 二人は目を合わせると笑いあった。そこへ給仕が料理を運んできた。どれもマレーナの好きな物ばかり。

 けれどマレーナは嬉し過ぎて幸せ過ぎて、味をちっとも感じられなかった。ただとにかく美味しい食事ということだけ。大好きな人食べる食事はこんなに美味しいんだと改めて思い知ったのだった。


「コンラード。私、コンラードに永遠の愛を誓うわ」

「ありがとう。マレーナ」

「それからね」

「ん?」

「結婚したら、毎日抱きしめて眠ってあげるからね」

 その言葉にコンラードは目を丸くし、マレーナは笑い声をあげた。

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