表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストアンガー  作者: さら更紗
2 冴子
7/25

2 冴子 -5


「入るだけって言わなかったか?」

 俺は先輩らしく、厳しい顔をして、アキラを見た。アキラはすました顔で、メロンジュースを飲んでいる。

「DVD借りた方が、自然でしょう?」

 カードも作りました、とカードを見せてくる。俺はがっくりと頭を落とした。

「レベル2になったんだよ」

 呻くように言うと、アキラは「そうですか」と答えた。

「初期警戒レベルだ」

 重々しく言うと、アキラも深く頷いた。

「矢島さんの隣にいた…店長らしいのですが…店長が、やたらと矢島さんに近かったです」

 アキラが全く違うことを言ったので、一瞬反応しそこなったが、俺は息を吐いて訊いた。

「矢島さん?」

「矢島冴子、っていうのが今の名前みたいです。社員証を首にかけていました」

 俺は頷いて、先を促した。

「店長は他の人と一緒にカウンターに入っている時は、そうでもなかったんですが、矢島さんと一緒の時だけ、妙に近かったです。パーソナルスペースを越えてました」

 アキラが厳しい顔で言った。アキラはこの手の話には厳しい。

 俺は頷き、一枚のコピーをテーブルの上に出した。地方紙の小さな記事。よく見つけたものだと我ながら思う。

 野島紗英子は七年前に、ストーカーされた相手の男をバットで殴り、傷害の罪に問われた。ストーカーといっても、男性は紗英子に一目ぼれをし、話しかけたい一心で、紗英子の後ろを歩いていたらしい。それが紗英子にとっては、つけられていると感じ、しばらくすると恐怖となり、それを断ち切るために相手を攻撃した。男性は下半身マヒとなり、車いすの生活を余儀なくされている。男性が紗英子の家までついて行くことを躊躇し、途中で後ろを歩くのを止めていることから、ストーカーに対する正当防衛だという主張が却下され、紗英子には実刑判決が下った。

 事件の概略はそんなところだった。

「店長にセクハラ受けて、そのトラウマがノイズになった?」

 アキラが不満そうな顔で言った。納得していない顔だ。

「そんな単純じゃないでしょ」

「そうだな。それじゃ、もっとたくさんノイズ事例があるはずだ」

 セクハラ、ストーカー、トラウマ。どのキーワードも見飽きるほど、見慣れている。

「あ……」

 アキラが小さな声を上げたので、俺もそちらを見た。野島紗英子、改め矢島冴子が店の裏口から出てくるところだった。帰路につくようだ。

 俺とアキラは黙って、会計に立ち上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ