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ロストアンガー  作者: さら更紗
2 冴子
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2 冴子 -2


「あれかな」

 アキラが急に止まったので、バマホを見ながら歩いていた俺は、まんまとアキラにぶつかった。

 アキラはよろけてたたらを踏み、俺を振り返って恐ろしい目つきで睨んでから、彼女の方に目線を送った。

 彼女は本当に立ち尽くしていた。

 ランナーたちが走る道より少し土手を下ったところで、直立不動と言っていいほど真っすぐ立ち、川を見つめていた。

 俺は慌ててバマホの画面を見た。ドンピシャリ、彼女だ。

このまま彼女が川に突き進んで自殺すれば、俺たちの仕事は終わりだが、そうなりそうにはなかった。

レベルはまだ1。ロストアンガー被施術者は、クラッシュしない限り、自殺することはない。

 恰好はランナーのそれではない。ロングスカートに白いブラウス。上にはカーディガンを羽織っている。どう見ても、走りそうにはない。

 早朝のこの時間に、川を見つめて立っている姿は異様だが、彼女が少しも動かないこともあって、道行くランナーたちは気が付かないふりをしているようだった。

 俺たちも彼女の後ろを通り過ぎた。

 顔見知りでもないのに、突然声をかけるわけにはいかない。不審に思われてしまう。

「どうするんですか」

 イライラしながら、アキラが小声で訊いてきた。

「どうするったって、ここでナンパするわけにいかんしなぁ」

「だからって、どこで見張っとくんです?こんな見通しの良いところ、隠れるところなんてありませんよ」

 俺はしばし考えると、アキラを引っ張って行って、道を逸れた。土手の芝生に座らせる。

「冷たっ!」

 アキラは抗議の声を上げた。

「何するんです、マルさん!昨日の雨で、まだ草が濡れてますよ!」

 俺はアキラの隣に座り、心底嫌そうなアキラの肩を抱いて、囁いた。

「俺たちは愛を語り合って、待とうか」

 アキラは軽蔑を込めた目で俺を一瞥すると、呪いのようにブツブツと唱え始めた。

「ああイヤだ。もうイヤだ。なにこのオッサン。マジ信じられない。ていうか、これセクハラだろ?」

 座った目で恨み言を繰り返すアキラ越しに、俺は「野島紗英子」盗み見した。ほっそりした身体と、肩甲骨の辺りでそろえられた黒髪。着ている服からしても、荒んだ様子は見受けられなかった。きちんと自分の家があり、きちんと食べられているようだ。

 バケモノになった者は、憲法に保障されている、健康で文化的な生活を送れない者も多い。ロストアンガーを受けて、普通の人間として、ポイッと世間に投げ出されるので、職に就けない者もよくいるのだ。欲というものを抜かれているので、尚更だ。

 家族がいて、家族が受け入れてくれているか、うまく就職できたか。とにかく「野島紗英子」は、きちんと生活できているようだった。


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