エピローグ
「何考えてんですか」
報告書を読んでいた店長は、怪訝そうに顔をあげた。
「何が?」
スッとぼけた物言いに、俺は堪忍袋の緒が切れた。
「何がって、アキラですよ。アキラはただの十九歳の女の子ですよ。あんな目にあって、ダメージ食らわない方がおかしいでしょ」
あれからアキラは「なかよしマート」御用達の、怪し気な病院に入院させられている。
アキラは、クラッシュした紗英子に、紗英子の父親と母親が殴り殺されるのを、その目で見ている。
浄化は、対象が実際にクラッシュしないと、許されない。そして、クラッシュすると、その常軌を逸した破壊力に、周りに犠牲者が出るのが常だ。
つまり、本人が自殺の場合を除いて、クラッシュしたら、浄化する前に一人や二人は死んでいる。この仕事をしている限り、その場面に遭遇することが多いのは当たり前だし、自分が撒き込まれて死んでしまう可能性だって高い。
これで何度目だ?
「あんた、アキラが可愛くないのかよ?」
上司である白井に敬語も忘れて、俺は詰め寄った。アキラは白井の親戚らしい。詳しいことは訊かなかったが、アキラに引き合わされた時に、そう言われた。俺の娘みたいなもんだから、大事にしろよ、と。
「可愛いよ?」
白井は涼しい顔でそう答えた。
「だから、アキラが望むことに応えている」
この仕事をアキラがしているのは、本人の希望らしい。それは聞いた。だが……
「死んじまうか、壊れちまうか、どっちかだぞ?」
すごんでやると、白井は鼻先で笑った。
「それをさせないのが、お前の仕事だろう?」
「それに」と、俺が何か言う前に、白井は続けた。
「お前の相棒は、アキラじゃないと務まらん」
「は?」
意味が分からない。
俺が誰だったか、知っているくせに。
俺が睨みつけると、白井は平然とその視線を受け流した。
「アキラがまだ十九歳だとか言っているが、お前の初仕事は何歳の時だ?」
「……」
黙り込んだ俺に、店長は部屋を出るように手を振った。
「大丈夫だよ、お前となら」
いいセリフを言っているように聞こえるが、要するに丸投げだ。だが、どうしようもない。
俺には何の権限もない。
俺は黙って、部屋を出た。




