5 罰 -5
「キャハハハハハハハ」
けたたましい金属のような笑い声が響いた。同時に、つぶされたような声。
クラッシュ!
「アキラ!」
部屋に飛び込むと、涙を流したアキラが振り向いた。その腕には父親らしい半裸の男。頭がつぶれて、血糊が付いている。
俺はアキラの腕から父親をはがし、床に転がした。母親は部屋の隅に横たわっていた。ピクリとも動かない。
頭上に重たい影を感じて、アキラを抱えて横に転がる。間近に振り下ろされたのは金属バットだった。
「キャハハハハ」
冴子は笑顔でそれを振り回していた。とても女性が振り回せるスピードではない。クラッシュの時は、常人の何倍もの力が出るという。
父親に殴られたのか顔は腫れあがり、服はほとんど着ていなかった。股の間から血が流れ、太ももから伝って血だまりをつくっていた。
腫れた瞼の下から覗く目は、焦点を失っていた。それでも笑顔なのが禍々しい。
俺は一瞬目を閉じた。それから心を決めると、冴子の顔を真っすぐ見た。
「もう、罪を重ねるな」
俺は腰から銃を引き抜くと、まっすぐ彼女の眉間を狙った。
パスッ
銃弾は野島紗英子の眉間に吸い込まれていった。
紗英子がゆっくり倒れていった。腕が伸ばされ、何かを掴もうとするように宙を掻いたが、そのまま身体の横に落ちた。
「……」
静かになった室内では、アキラのすすり泣きだけが響いていた。
「アキラ、もうこの仕事辞めろ」
俺が何度も繰り返してきたセリフを言うと、アキラはぼんやりした顔で俺を見上げた。
「……赤ちゃん」
俺は紗英子の亡骸から隠すように、アキラを抱きしめた。
「あの出血じゃ、もうだめだ。死んでる」
アキラは何も言わなかった。
俺はそのまま、スマホをポケットから出した。
「あ、店長?浄化終了。後始末を頼みます」
スマホからは、ご苦労様という店長のねぎらいと、アキラを気遣う声が聞こえてきた。




