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ロストアンガー  作者: さら更紗
5 罰
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5 罰 -4

 

 俺も裏側から塀を飛び越し、敷地内に入った。光が漏れているリビングの方には行かずに、明かりの(とも)った二階の部屋を目指して、屋根に上がった。

 部屋の外に声は漏れていない。その部屋にいるかどうか、音だけでは分からなかった。

 位置からして、奥の部屋だと思う。アキラから報告があった、外鍵の付いた部屋だ。

 アキラが浅く息を吸って吐いた。

 ザッという音が一瞬した。

 ドアを軽く撫ぜて、耳をつける。

 見ていなくても、大体分かる。

 アキラの呼吸音はしなくなった。よく聞こえるように、息を止めている。

 俺は足音が響かないように、屋根を伝って、明かりが漏れている方に進んでいった。

「もう少しだから、待て」

 俺は小声でアキラをそう制したが、アキラからの返事がない。

 あと少しというところで、ドアが乱暴に開く音が聞こえた。


 ブルートゥースから女の声が聞こえた。重なるように、男の狼狽した声。

「だれ?」

「だれだ、お前は」

 その後に、アキラの張り詰めた声。

「何をしている?」

 その声は爆発を予兆させる声だった。

 俺はそのまま、屋根の上を駆け抜けた。

「何もしていない。俺と娘のことだ」

 開き直ったような男の言葉に、冷や汗が出る。その言葉は、アキラの傷を抉り、怒りを呼び覚ます。

「お前は……まさか」

 アキラの震える声にかぶせるように、男の罵り声と、最初とは別の女の金切り声が大音量で聞こえてきた。

「やめて!お父さんを怒らせないで!」

 イヤホンを引っこ抜きたい衝動に耐えながら、明かりが漏れた窓を蹴破る。二重ガラスではなかったようで、ガラスはあっさり割れた。


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