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ロストアンガー  作者: さら更紗
4 罪
19/25

4 罪 -8

 

「ピンポーン、よ」

 ガブから電話がかかってきたのは、勤務が終わってバイクに跨ろうとした時だった。冴子は遅番で、今日は俺の方が上がりが早い。

「被害者の名前は市井(いちい)直樹。当時、野島紗英子が事務職として働いていた職場の、取引先の営業マンだったみたいよ」

「知り合いだったのか?」

 俺が呼んだ記事では、接点のない男が一目ぼれしたふうな書き方だったが、少なくとも顔見知りだったわけだ。

「市井から好きになったのは本当みたい。でもそれだけで、ストーカーしてたわけじゃない」

「?」

「二人はいいところまでいってたらしいのね。実際に何度かデートしてる。付きあうまで行ったかどうか分からないけど、そう思っていた人もいたみたいよ。だからあの事件は、二人の周りの人たちを驚かせたみたい」

「……そうか」

 答えはしたが、余計に分からなくなった。

 紗英子にあんな凄惨な行動をさせたのは、一体何だったのだろう。

 ここから先は、冴子本人か、市井に訊かないと分からないかもしれない。

「それとね」

 ガブの声のトーンがさがったので、俺も身構える。

「なんだ?」

「最近、市井が闇サイトにアクセスした形跡があったの」

「闇サイト?」

 不穏な言葉に、思わず声が尖る。

「依頼を受けて、代わりにターゲットを襲撃するってやつ」

 急に辺りが暗くなってきた。

 最近、陽が傾いたかと思ったら、暗くなるのが早い。気づいたら、真っ暗な夜になっている。

「それで、市井は依頼したのか」

 息を詰めて訊くと、ガブは「ええ」と肯定した。

「複数人の男で野島紗英子を襲って欲しいって依頼してる。事件のことにも触れて、彼女のせいで、身体も人生もめちゃくちゃになった、復讐して欲しいって」

 心臓がひとつ、ドクンと鳴った。だが、そこで抑える。

「それ、いつだ」

「先月の十日」

 最初のノイズが出たころだ。

 冴子の言う罰は、これのことか?

 それではまだ、これからがあることになる。

 ……これから罰が下されるんです。

 冴子の言葉が、不吉な予言のように、頭の中で響いていた。


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