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ロストアンガー  作者: さら更紗
4 罪
18/25

4 罪 -7

 

「あら、真田さん、タバコ吸うんですね」

 店の裏でこっそりタバコを吸っていると、急に声をかけられて、俺は反射的にタバコの火を消そうとした。

 高校生か、俺は。

 思いとどまって、顔を上げる。

「矢島さん。店長には黙っといてくださいよ」

 そう懇願すると、冴子は「ふふっ」と笑って俺の横に座った。

「わたしにも下さい」

 そう言って、手の平を差し出す。

 俺は面食らって、「は?」と言ってしまった。思わず目が彼女の腹辺りを見てしまう。

「……吸ったことあるんですか?」

 俺がそう訊ねると、冴子は首を横に振った。

「じゃあ、止めといたほうがいいですよ。吸えるようになっても、いいことないし。金と健康が失われるだけ」

 冴子はムッとしたように、口を尖らせた。そういう表情もできるらしい。

「じゃあ、真田さんもやめればいいじゃない。こんなとこで、コソコソ吸って。高校生じゃあるまいし」

 やはり、そう思われていたらしい。

「俺はもう無理。吸わないと、ストレスで死んじゃう」

 そう言うと、冴子は急に真顔になった。

 しばらく黙った後、ポツリと言った。

「じゃあ、やっぱり吸っとけばよかった」

「え?」

「わたしも死んじゃうわ」

 俺はまじまじと冴子を見た。

 俺はアキラじゃないから、見ただけで彼女がバケモノだとは分からないが、確かに冴子はロストアンガー施術を受けたバケモノだ。

 バケモノは自殺出来ない。

「……なんか、悩みがあるんですか?」

 何気ないふうを装って、そう訊ねてみる。

 吹いた煙が景色に解けていった。

 冴子はほんのり笑った。だけど、その目は凍っていた。変に歪んでしまった感情が、瞳に現れているような、凍り付いた目。

 これがアキラの言う「バケモノの目」だろうか。

「悩みって言うか、罰ね。これから罰が下されるんです。罪は罰で贖わなければならないでしょう?」

 罪と罰。

「罰って……」

 言いかけたところで、店長が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ、戻らなきゃね」

 冴子に言われて、仕方なく俺も立ち上がった。

 罰。

 今から何が起こると言うのだろう?

 俺の見ている前で、冴子は自分の腹を一瞬触った。

 罰、という言葉に、俺は眩暈がした。


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