4 罪 -4
野島家の最寄りのコンビニで、アキラは待っていた。
「お疲れっす」
適当な挨拶を寄こして、アキラがコンビニを親指で指した。
「先に夜ご飯買っていきましょうよ」
「緊張感ないな。いつ動きがあるか分からんのだぞ」
俺も腹が減っていたので異論はなかったが、一応先輩らしく小言を言っておく。しかし、アキラは全く聞こえなかったのか、聞こえたが無視したのか、反応すらせず店内に入って行った。
「……」
馬鹿らしくなって、俺もアキラに続く。
弁当コーナーで真剣な顔で吟味しているアキラを横目に、俺はビールを何本かカゴに放り込んだ。そのまま、つまみは何にしようか考えていると、後ろから手が伸びてきた。
ビールを取ろうとしたらしい手は、どうやら届かなかったらしい。
俺が振り返ると、三十代くらいの車椅子に乗った男性が、腕を伸ばしていた。
「あ、すみません」
俺は慌てて、場所を譲った。男性は更に腕を伸ばしたが、届きそうになかった。
「あ、どれですか?取りましょうか?」
俺が伺うと、男性ははにかみながらビールの銘柄を言った。
「あ、思い出した」
コンビニの向かい側にあるマンションのエントランスに入ると、アキラが藪から棒に声を出した。
野島家から近いこのマンションを、俺たちは当面の基地にしている。立派なマンションだが、俺たちの部屋には、寝袋と電気ポットくらいしか生活用品はない。後は「なかよしマートのおもちゃ」に付随する器材に占領されている。
「なんだ?」
俺が驚いてアキラを見ると、アキラはすっきりしたような顔で、俺を見上げた。
「さっきの車いすの男性ですよ。なんか、どっかで見たことあるなと思ってたんですよね」
「この近所なんじゃないか?冴子ん家張ってた時に、見かけたとか」
何も不思議な事じゃないと、俺が言うと、アキラは首を振った。
「あれですよ。冴子が病院に行った日、ビルから出たところでマルさん待ってたじゃないですか?わたし、ビルから出る時に、車いすの人とぶつかりそうになって……その人に似てた気がする……」
「……似てた、だろ?だいたい、そんな一瞬じゃ、顔なんか見なかっただろ」
「まぁ、そうなんですけどね」
アキラははっきりしない口調で、すねたように言った。
「だけど、その人、冴子の後ろをついていったように見えたんですよね」
「へぇ?」
はっきりしないくせに、妙に気になることを言う。
「なんで、その時言わなかったんだよ?」
いや、だって……とアキラは弁明するように言った。
「その時は何にも思わなかったんですよ、距離もあったし。だいたい人の流れっていうのは同じ方向でしょ?……ただ、後で、あの人急に方向変えたな、と思って」
車いすだから、目についたのだという。
だがそれだけで、深くは考えなかった。
「そういう気づきは、バンバン言って欲しかったな」
俺はそう苦言を呈したが、その男がコンビニの車いすの男と同一人物かどうかも分からない。
……車いすか。
「まぁ、似てる、程度じゃ、どうしようもないな」
俺はそう言うと、アキラは「ですよねぇ」と頭を掻いていた。
それが同一人物であったことは、数日後に判明することになる。




