戯 dalliance
夏休み二日目。
結局、俺は夏休み期間中に一時、日本へ帰国する事にした。
今はパレルモからローマへ向かう飛行機の中だ。
それと言うのも、こちらからの直行便はローマまで行かないと無いからだ。
「Come si sente?」(気分はいかがですか?)
「Grazie mille」(ありがとう、大丈夫です。)
この会話、何度目だ?
子供の一人旅と思われているのだろうか、心配そうにC.Aが変わるがわる、俺に話しかけてくる。
「Sei in viaggio a Roma?」(ローマへは旅行ですか?)
今度は隣の女性が話しかけてきた。
「sbagliato.Tornerò temporaneamente in Giappone」(いいえ、日本へ帰国しようと思います)
「Wao! Ti auguro un buon viaggio」(良い旅になりますように)
「Grazie」(ありがとうございます)
俺は先程から、おばちゃんやC.Aに度々話しかけられる。
日本人の16歳はそんなに子供に見えてしまうのだろうか?
それとも俺が不安そうな顔をしているのか?
どちらかと言うと、今の俺は意気揚々としているはずなのだが…。
あぁ。しっかし、往復で18万円弱か…。高いな…。
でも、今回ばかりは仕方がない。こんな莫大な旅費をかけていく用事。
それは一昨日の晩にかかって来た電話が原因となっている…。
「Pront. Io sono firo.」(はい、フィーロです)
「あの…」
ん? 日本語かな? 小さい声だな…。
「Pront? Mi scusi,ma la sento lontano?」(声が聞こえないのですが?)
「プ、プロント?」
「Pront.」(はい)
「本田です。タマコです」
「本田!? なんで?」
「あの、美梨さんに電話をしてもらって…」
「え? 美梨ネエに? 美梨ネエがなんで?」
「…」
本田は黙ってしまったが、受話器の向こうが何やら騒がしい。
「もしもし? 本田?」
「あの、成瀬…」
「何?」
「あの、会いたい! 私も成瀬が好きです! 小学校の時からずっと好きです!」
「Davvero…。了解した! 水曜日に日本に行く! 」
「え?」
「水曜日に会に行く! 本田、大好きだ!」
「オッケーだよー。それじゃ日本に着いたら私に電話してねー」
「みっ美梨ネエ!?」
「モニターでナッツちゃんと新体操部の監督も聞いていたよー。うけるねー、バイバーイ!」
ブヴィ…。ツーーー。
Davvero…。
そんな訳で、ローマに到着。
ここから成田まで12時間か…。
待ち遠しいな。
◇
「本田ー! 顔がニヤけているぞぉー! 気合い入れろー!」
「う…。はい!」
監督、私を楽しそうにイジって…。
「監督はなんでタマコばかりイジっているの?」
流石に私を不憫に思ったのだろう。部長が話しかけて来た。
「部長、違うんですよー。明日、タマコの彼氏がイタリアから一時、帰国するんですよー!」
部長の質問に対して、颯爽と答えたのはナッツ。
「ちょっ、ナッツ!?」
「マジでかー!?」
ナッツが部長にバラした途端、練習どころではなくなってしまった。
「タマコの彼氏ってイタリアの人なの?」
「何歳?」
「一時帰国って何? お金持ちなの?」
皆からの怒涛の質問攻めが始まった。
「ああ…。あの…」
「違うんですよー。彼氏の名前は成瀬 浩くんといって、向こうのワイン農家で働いているんです。イタリア語なんかペラペラですよー」
「マジでかーー!!」
一斉に声を揃える部員たち。
「明日、学校が終わったら会うんだよねー?」
「…うっ…うん…」
ナッツ!
あんたの時も仕返ししてやるんだから!