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 兆 sign


 九月に入り、三年生が各部活を引退する。俺のいる美術部も三年生が引退をした。

 そして、何度かコンクールで入賞をしている俺は、美術部の部長となった。と言っても、部員のほとんどが幽霊部員のため、部室に顔を出すのは数名しかいない少人数の美術部だ。

 しかも、俺自身があまり顔を出さないのが現状だったりして・・・。


 そして今日は部長会議。流石に今日は出席をしなければならない。

 各部の部長と副部長が出席をするのだが、副部長って誰だか知らないんだよな。


 俺は部長会議が行われる視聴覚室に行く前に、美術部の部室へと向かった。


 部室に入ると一斉に立ち上がる四名の一年生。「こんにちは」と声をそろえる後輩たちに、「お気遣いありがとうございます」と思う。


「こんにちは。ところで副部って誰?」

 俺の質問に答えたのは一年の時に同じクラスだった岩城いわき 成美なるみ

「ああ、私。もう会議の時間かな? 成瀬はあんまり顔を出さないから、私が副部だって知らなかったんでしょ?」

「ゴメンって…。そういえば岩城いわきだったね。 迎えにきたんだけど? 会議に行こうぜ」

 バレバレの言い訳を言う俺。

「うん」

 俺の言い訳に笑顔で答えてくれた岩城だった。

 


 視聴覚室に入ると、結構な人数が集まっている。

 文化部と運動部に分かれたテーブル。俺と岩城は美術部の札に座る。

 美術部は文化部と運動部の境界線の為、隣は新体操部だ。そして俺の隣に座ったのは中山だった。


「中山って部長になったんだな」

「違う違う。私は副部。部長はタマコだよ」


 そう言った中山の隣には本田がいた。

 本田ってタマコって呼ばれているのか?


「タマコ?」

本田ほんだ 麻子あさこでしょ? 本を抜いて、田麻子タマコだよ。ところで成瀬は部長?」

「ああ、うん」


「タマコ、成瀬は部長だって。確かに朝礼で何回も表彰されているもんね」

「うん」


 中山よ。タマコが痛々しいからもうやめてくれ。


「おおナッツ、久しぶりだね。タマコは部長なの? 私は成瀬に部長の座を取られたよ…。内申をプラス1にできなかったよ…」


 中山はナッツか。夏菜だからか?

 それに付けても本田さんよ、俺の方を全く見ないな。さすがに傷つくぞ?


「それでは部長会議を始めます!」

 生徒会長の一声で、室内が静まりかえった。


 何時までやるのかな…。



 会議後に次の司会と書記を決めるため、部長だけが残された。決め方は古典的な方法の()()()()()。優秀な部長の俺は次も出席だけで済んだぜ。ウェーイ!


 部室に戻ると、岩城が戸締りをしている。


「ああ、お疲れ。次の司会は何部になった?」

 窓を閉め、カーテンを引きながら岩城が言う。

「新体操部と演劇部。」

「おお。成瀬はクジ運がいいね。助かったよ」

「いえいえ。戸締りだけど、あとは俺がやるから先に帰っていいぜ」

「成瀬は鍵の置き場を知らないでしょ? 今日だけ一緒に行ってあげるよ。()()()()()

「強調するね。それじゃ頼むわ。()()()()

 


 岩城と部室の鍵を返却し、二人で正門を出る。


「お? 成瀬じゃん」

 ああ、めんどくさい女が居やがった。江川が取り巻きたちと、門の前で井戸端会議をしている。


「成瀬、今度は岩城にアタックか? それとも中山か?」


 中山? なんで中山が出てくるんだ?


「ねえ江川、そういうのやめなよ。モテない女みたいでカッコ悪いよ?」

 取り巻きの一人が江川に向かい、そう言うと江川は「うるさい! 帰るよ!」と言い、その場を去った。

 何なんだ? あの女は?


「あのさ、成瀬。」

「ん?」

「江川って昔から、あんな感じなの?」

「あんな感じって? 負け犬の去り方?」

「あははは! うまい! あははは!」


 そんなに面白いか?


「ふぅ…。ねえ成瀬」

「ん?」

「突然だけどタマコの事、まだ好きなの?」


 何で知ってるの!?

 って江川が言いふらしているからな…。


「うん」

「そっか…」

「まだフラレた訳じゃないし…。今、告ったら前の時より酷くなりそうだから、卒業したら告るつもりでいる」

「もし、タマコに彼氏ができちゃったらどうするの?」


 何でそんなこと聞くんだ?


「そしたら、そこで俺の初恋は終了だ」

「そうか…」


 どうした?

 岩城ってこんな感じだったんだな。

 去年は同じクラスだったけど、何度か会話をする程度だったからわからなかった。

 とりあえず、ここにいても始まらねえし、帰るか。

「それじゃ岩城、また明日」

「あ、うん。また明日…。って、部活に来なさいよ!」


 返事をしたくなかったので、俺は振り返らずに手だけで合図をした。

 


 そして俺が帰宅をすると、思いがけない訃報が入っていた。


 父親が死んだ…。



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