最終話 Delitto e castigo. 罪と罰
結局、麻ちゃんは翌日に息を引き取った…。
実際は2〜3日過ぎたのかもしれない…。
せめて…。
せめて最後くらいは手を握りたかった…。
抱きしめたかった…。
見つめながら、愛していると言いたかった…。
礼服を着た人たち。
Vaffanculo....
(ふざけやがって…)
しめやかに執り行われる葬儀。
Vaffanculo....
(ふざけんじゃねえよ…)
座席に座り、放心状態の俺。
「Vaffanculo.....」
「ヒーロ? 何? どうしたの?」
隣に座る美梨ネエが俺に話しかける。
「Sono stato rinunciato da Dio.」
「何を言っているのかわからないよ…」
次々とお焼香に向かう人たち。
「立って、ヒーロ。私たちも行くよ」
美梨ネエは俺を無理やりに立たせ、列に並ばせる。
麻ちゃんの両親にお辞儀をすると、俺の両目からは一斉に床へと雫がこぼれ落ちる。
この一瞬で、床に水溜りができる勢いだ…。
俺の姿を見て、麻ちゃんのお母さんも、再びシクシクと涙を流し始めた。
美梨ネエが祭壇に向かい、お焼香を始める。
俺の左手はうまく抹香を掴めない…。
俺は横隔膜が痙攣し、ヒックヒックと変な声を出している…。
そんな俺を見て、麻ちゃんのお父さんが俺の隣に来た。
「浩くん、来てくれてありがとう」
そう言って俺の震える左手に手を添えて、お焼香を手伝ってくれた。
「美梨さん、浩くんを遺族の間に通してあげてくれるかな? 少し休ませてあげて」
「はい。ありがとうございます」
美梨ネエが俺の右腕を支え、祭壇の間を後にする。
そして振る舞いの間を抜けた時、中山が俺に近づいて来た。
「成瀬…」
中山の俺を呼ぶ声に、違和感を覚える。
「中山…」
「成瀬、無理をしないでね」
「中山、俺は神に見放され…」
俺はそこまで言い、全てを思い出した。
そうだ!
前回もこの祭場だ!
エントランスを抜け、しばらくすると雨が降りだしたんだ!
俺は美梨ネエの手を振り払い、外に飛び出す。
暗くてもわかるぐらいの厚い雲が立ち込める夜空。
今にも雨が降り出しそうだ。
「ヒーロ? どうしたの?」
美梨ネエが不思議そうに俺に聞いてくる。
「もうすぐ雨が降るんだ! そうすれば、また戻れるんだ!」
嬉しそうに夜空を見上げる俺に、美梨ネエは遺族の間に連れて行こうとする。
「どこに戻るのよ。ここにいたら、他の人に迷惑でしょ? とりあえず中に入るわよ」
「ダメなんだ! もうすぐ雨が降るんだよ!」
「雨が降ったら濡れちゃうでしょ? ナッツンも手伝って」
美梨ネエと中山は俺を建物内へと押し込んだ。
尚も騒ぐ俺は美梨ネエに頭を力一杯に叩かれた。
その後、俺は渋々、遺族の間へと入った。
◇
時が流れる。
あっという間だ。
俺は高校生になった。
推薦のあった芸術高校には行かずに、俺は都内の自宅から近い都立高校へと入学をした。
前回の16歳とは違い、甘いエスプレッソも無く、甘いヌテッラも無い、平穏無事な食生活も送れている。いわゆる穏やかな毎日なわけだ。
だが、この高校には二人、めんどくさい人がいる。
「buongiorno firo!」
一人目はこのイタリア人女性のシルビーさんである。
以前、狭山パーキングエリアで俺をラガッツォと言った、キアーラさんの親戚のお嬢さん。実は血の繋がらない妹との事だ。
今は留学生ではなく、この都立高校へ転入したらしい。
したがって、俺は今回の人生でもマリーさんの仲間たちと付き合いをしている。
「ヘイ、フィーロ。今日はクラブがない日よ。帰りは私と一緒よ。オーケー?」
「俺は美術部に行きますんで。シルビーさんは気にしないでお帰りください」
「Va bene. それでは私も美術部に行きますわ。それじゃ放課後会いましょうね」
自分が言いたい事だけを言い、俺のいる1年生のクラスに勝手に入ってきて、勝手に出ていくシルビーさん。
「めんどくさい人だな…」
まったく、クラスメイトの男子どもの視線が俺に突き刺さるのですが…。
「成瀬君って、イタリアに留学とかしていたの?」
話しかけてきたのは後ろの席の佐藤くん。
「違う違う。あの人のお姉さんの恋人と仲が良くて。シルビーさんとは、たまに見かけることがあっただけだよ。」
「へー。あんな綺麗な人と知り合いとか、男冥利に尽きるね。うらやまけしからん」
「うらやまけしからんって…」
放課後。
俺は美術部の部室、美術室にいた。
相変わらず記憶が飛びそうになる時間の歪み。だが、最近ではすぐに記憶を辿れるようになってきた。
「こんな時間の進み方じゃ、あっという間におじいちゃんだな…」
誰もいない美術室で、俺は独り言を言った。
「何がおじいちゃんなの?」
ん?
屋上?
いきなりぶっ飛んだな。
てか、なんでフェンスの外にいるんだ?
中山?
「ねぇ成瀬、落ち着いて。変な気を起こさないで」
俺…。
飛び降りようとしているのか?
記憶がさかのぼれない…。
どうしてこうなった?
「成瀬、近くに行くけどいい?」
なんだよ…。
来たきゃこいよ。
って、声が出ないじゃん!?
「捕まえた」
そう言って、フェンスごと俺を抱きしめる中山。
「死んじゃダメだよ。タマコだってこんなの望んでいないよ…」
俺から離れろ中山。
マジでめんどくさい女だな!
そう、こいつが二人目のめんどくさい女だ!
クソッ! 声がでねぇ!
「暴れないで聞いて。飛び降りたって過去には戻れないよ?」
中山の一言に、俺の全身の力が抜けた。
「なんで過去に戻りたいの? 何で私じゃダメなの?」
何を言っているんだ?
なんで過去に戻るとか?
「何回も何回も何回も! なんで私じゃないのよ! 何で先にタマコに会うのよ!」
「ナ.カ.ヤ.マ.....」
絞り出したような声しか出ない。
「もう嫌だ! 一緒になれないんだったらもういい! やりなおすんだから!」
中山は俺にそう言うと、二人もろとも屋上から飛び出した!
体が軽い…。
無重力状態…。
「ヒーロ君、大好きだよ…」
中山がそう言ったと同時に、頭に衝撃がはしる。
中山が何かをしていたのか?
麻ちゃん、中山はダメだ…。
仲良くしちゃダメだ…。
中山が何かをやっているみたいだ…。
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「初めて本田を見た時から好きになりました! だってさ! あははは!」
はっ?
この声!?
「僕の恋人になってください! うぅわっ! キッモ!」
江川?
本田?
本田が廊下で蹲っている?
奇跡か!?
「麻ちゃん!」
俺は麻ちゃんの手を握りその場を走り出した。
「佐藤ごめん! 麻ちゃんは俺が連れていく!」
「ごめんチカちゃん! 後で連絡する!」
俺たちはそのまま、学校から近い公園まで走り抜けた。
「やった! 戻れた! 麻ちゃん!」
そう言って俺は麻ちゃんを抱きしめた。
「痛かった…。苦しかった…」
麻ちゃんも俺に抱きつく。
「俺も痛かったー! バリ激痛だったよ! 高校の屋上から中山に突き落とされて、一緒に死んじゃったよ!」
「えっ? ナッツが?」
「うん。中山が何かを知っている感じだった。だからこれからのことを考えよう! 」
俺たちは劇的な再会を果たした。
そして、ベンチに座ろうとしたその時、佐藤が来た。
「あれー? 何で成瀬も記憶があるのかなー?」
「チカちゃん?」
「麻子ちゃんダメだよぉ。今度こそ成瀬はナッツンと結ばれるんだから…」
俺たちは佐藤から離れ、麻ちゃんの手を握りしめた。
「何度、繰り返したって同じだ」
「それは残念ね…。でも私がやれば記憶も消せるのよね?」
俺の言葉を遮るように、高校生くらいの女性か現れた。
もしかして山岡さん…?
やっぱり何か隠していたんだ…。
ゆっくりと俺たちに近づく山岡さん。
「本当に可愛い子…」
「Smettila....」
(やめてくれ・・・)
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continuare
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
続き(2nd)は途中まで書き上げているのですが、本職が忙しすぎてなかなか執筆が進まない状態です。
それと最終話は長文となりすみません。
今後とも青紙 ノエを宜しくです。




