来 Verranno
圏央道を走り抜け、あっという間に首都高速に入り、地元付近に近づいた。
どうやらここでも時間軸が歪んでいるようだ。
自分に覚えのない山岡さんとの会話が蘇ってくる。
そんな中、山岡さんの携帯が鳴った。
おそらくLINEのようだ。
「ねぇヒーロ君。姉さんからのLINEみたいだから見てくれる?」
「いや、それはちょっと…」
「大丈夫よ。恥ずかしながら、私は彼氏もいないし、来るメッセージのほとんどは姉さんからだから」
「えーっと。それでは失礼します」
俺はそう言って、ダッシュボードに置かれた山岡さんの携帯を手に取る。
「スマホの画面を見ると、送り主はナッツンと表示されている」
は?
まさか中山じゃねえよな?
「あれ? 表示されてるのはナッツンってなってますけど、山岡先生のことですか?」
「ああ、姉さんじゃなかったか。友達だった。あはは…」
山岡さんが信号待ちで携帯を見ている。
暗闇に浮かぶ山岡さんのその横顔に、なぜか不信感を感じた。
そして俺たちは自宅に到着する。
山岡さんに挨拶をし、俺は美梨ネエを呼びに行った。
俺は美梨ネエとともに再度お礼を言い、俺だけ家に入る。
家に入ると、リビングでは寝転がる親父。どうやら寝る準備を万端にしてから、晩酌をしていたようだ。
「ただいま」
ダイニングテーブルで、お茶お飲みながらテレビを見ている母さんに言う。
母さんは俺を見るなり、眉間にシワを寄せている。
「麻子ちゃん、どうなの?」
「意識は戻ったみたい。今日は夕方に近かったから、ほとんどの検査技師がいなかったみたいで、明日の朝から再検査するって」
「まぁ…」
不安そうな顔をする母さんをよそに、親父は「フガァ!」と、中途半端ないびきをしていた。
◇
ふと気がつくと、俺は制服を着て歩いている。
俺の横には中山が歩いていた。
「…でしょ?」
中山に何か話しかけられている。
なんだ?
突然すぎてわからねえ…。
「あ、うん」
「また聞いてなかったでしょ?」
「ごめん…」
「もう。今日は着替えてからいくでしょ?」
少しぶっきらぼうな言い方をする中山。
ああ、そうだ。今日は麻ちゃんのお見舞いだ。地元の総合病院に転院したんだ。
昨夜、麻ちゃんのお母さんから連絡があり、病院名と病室を聞いた。
麻ちゃんからの伝言で、中山も来てほしいとの事だった。
今回は丸一日ぶっ飛んだな…。
◇
放課後。
俺と中山はバスで病院へ向かう。およそ20分ほどで到着し、麻ちゃんの病室へと向かう。
総合病院だけあって、院内は夕方にもかかわらず、たくさんの人がいた。
そんな中、俺と中山は病室へと入った。
4人部屋だが、この部屋に入院しているのは麻ちゃんだけのようだ。
「麻ちゃん」
ピンク色の可愛らしい服を着た麻ちゃんはベットの端に座り、外を眺めている。
俺の呼びかけに力なく振り返る麻ちゃん。
「ヒーロ君」
俺を呼ぶ声も気力がない。
「ちょっとタマコ、 私もいるんだけどぉ」
中山の一言に、少し微笑む麻ちゃん。
どうやら具合が悪いようだ。
「麻ちゃん。起きていて大丈夫? 横になるのを手伝うよ」
「ありがとう。お願いをしてもいい?」
俺は左腕で麻ちゃんの両肩を支え、右手で背中を支えつつベッドに寝かせてあげた。
麻ちゃんがこんな状態の時に、抱き締めることは意に反するが、麻ちゃんの表情は穏やかだ。
「ヒーロ君、ありがとう。大好き」
そう言って俺に抱きつく麻ちゃん。
だが力なく俺を抱き締めている。
麻ちゃんのそんな行為に、嬉しいはずの俺はなぜか涙が溢れそうになっていた。
「ヒーロ君、会いたかった…。不安だった…」
俺は麻ちゃんも泣いていることに気がつく。
俺たちはそのままどの位、抱き合っていたのだろうか。
麻ちゃんはしばらくしたのち俺から離れ、落ち着いたように中山に話しかける。
「ナッツにお願いがあるの」
30分ほど無視をされていた中山だが、嫌な顔もせずに麻ちゃんに答える。
「何かな? しばらく2人きりになりたいの?」
冷やかすような顔で言う中山。
「成瀬じゃなく、ヒーロ君って呼んでもいいよ」
「本当に? やったー!」
どうしたんだ?
「その代わり、私が死んじゃったらヒーロ君をお願いね? ナッツにだったらヒーロ君を任せられるし…。それに、前からヒーロ君のことが好きなんでしょ?」
「ちょっと! 麻ちゃん、何を言い出すんだよ! 麻ちゃんは死なないよ!」
病院内にもかかわらず、大声を出してしまった俺。
「えへへ。タマコにはバレちゃってたか…」
照れ臭そうに麻ちゃんに言う中山。
そんな中山の目にも涙が溢れていた。
「中山もいい加減にしろよ!」
「ナッツはヒーロ君のことをずっと見ていたもん。わかるよ…。でも今はダメだよ」
「大丈夫だよ。わかっているって」
中山と麻ちゃんは手を握りしめながら見つめ合っていた。




