坊 Ragazzo
会場に到着した俺たち三人。一息する暇も無く、係の人にオレンジ色の安全チョッキを渡された。
交通警備員が着ているようなリフレクターの帯が付いているものだ。
それを着ながら会場に入ると美梨ネエが俺に言う。
「ヒーロは山岡と向こうに行って指示を受けて!」
「りょ」
毎度のことながら朝一番は慌ただしい。ちなみにシルビーさんはキアーラさんに連れられ、自分の在籍をする高校へ向かった。てか、高校生だったのか…。
「おはようヒーロ!」
「おはようございます!」
「毎回ボランティアをやらせられて、お前も可哀想にな」
「あはは。そう思うのなら、今日と明日のお昼をお願いしますね」
「オッケーだ。その代わり美梨は連れて来るなよ。アイツが来ると俺の財布が空になるからな」
「はーい!」
今、俺と会話をしたのは田中さんと言って、美梨ネエの勤める会社の上司で、この会場の中では唯一の男性の知り合いだ。
女性ばかりの現場で、息苦しそうにしている俺に気遣いをしてくれている。
俺は駐車場へ向かい、場内の案内を始めていた。
次から次へと来る車。会いたスペースを見つけ、誘導する俺。今回の大会は中学校と高校が一緒のため、来場者が異様に多い。
やがて開会式が始まる頃になると、車は落ち着いてきたようだ。
俺は駐車場の入り口に行き一息つくことにした。
すると、どこからとも無くマリーさんが俺に話しかけてきた。
「Hey,ragazzo!」
(おい坊や)
「Ragazzoって…」
「名前を知らないんだ、教えてもらえるかい?」
「Io sono…, Io Il mio nome è Hiroshi Naruse.」
(俺は…私の名前はヒロシ ナルセです)
「フィロシ?」
「浩です」
「オッケー、フィーロ」
「…」
もういいや…。
「ところで、フィーロだけ忙しそうだけど俺も何か手伝うぜ」
「いやいや、大丈夫ですよ」
「ヘイ! 車が来たぜ! あの車はどこに差し込むんだい?」
「差し込むって…。あの大きな木のところが空いてます」
「オッケー! 任された!」
そう言って駆け足で車に向かい、その車を誘導するマリーさん。この人ってマジでイケメンだな。
車を無事、誘導し終わり、俺のところへ戻ってくるマリーさん。
「どうだいフィーロ? 俺ってスゲーだろ?」
「はい。Perfetto!」
(とても素晴らしいです!)
「Hey,hey,hey! È un modo di dire senza emozioni!」
(心ここに在らずな言い方だな!)
マリーさんはそう言って俺の頭を撫でた。
「あはは、Mi dispiace !」
(すみませんね!)
何だこりゃ、恋人同士かよ!
「あなた達なんなの? 男同士で気持ち悪いわね」
俺とマリーさんを見るなり、開口一番にキアーラさんが言い放つ。どうやらマリーさんを迎えに来たようだ。
「だってキア、フィーロって可愛いじゃん?」
「はいはい…」
首を横に振りながらキアーラさんはあきれた様子。そしてキアーラさんまで俺の頭を撫でながら話す。
「ところで、フィーロ。シルビーの面倒を見てもらってありがとう。あの子ってイケイケでしょ?」
「あはは。日本人にはいないタイプですね。でも素敵な女性だと思いますよ」
「あなたって不思議な子ね。話し方が14歳には思えないわ」
そりゃそうですよ、半年以上も社会人をしたんですから…。
「考え方が老けて…。Il modo di pensare è vecchio」
(考え方が老けているんです)
「Bambino davvero divertente」
(本当に面白い子だわね)
そして、痺れを切らしたようにマリーさんが言う。
「Andrai presto dalla sua ragazza?」
(そろそろこいつの彼女を見に行かないか?)
「Sì, andiamo via, andiamo」
(そうね、行きましょう)
そうねって…。随分サラッと受け応えるな。
「sei la mia famiglia?」
(アンタは俺の身内か?)
「Ahahaha!」




