童 Enfants
踊り場で話す俺と祐一。
三時間目の鐘が鳴っても俺たちは踊り場にいた。
未来では本田が死んだ。
そんな突拍子も無い話。精神がおかしくなった人の戯言。そんな話の内容にもかかわらず、祐一は俺の話を聞いてくれた。
「正直に言うと、浩の言っている事は信じられない。でも、藤野の事や恵姉の便箋のことは疑う余地がない。それに、浩はたまに変な言葉を使うからな。英語か?」
「イタリア語だ」
「話せるのか?」
「向こうで半年くらい暮らしていたからな」
「マジか? スゲーなおい! 段々と現実味が出てきたな。でも、今はそれ以上のことは何も言えないな…」
「ああ。俺も祐一には聞いてもらいたかっただけだ」
俺が祐一にそう言うと、突然右手を差し出してきた。
「握手だ。今の話は誰にも言わない」
「ありがとう、助かる」
俺たちは授業中の静かな校内を こそこそと教室に戻った。
引き違いの入り口をそおっと開ける。
「お帰りなさい、小ネズミちゃんたち。この時間は後ろで立って授業を受けなさいね」
俺たち二人は担任の山岡の笑顔で言った表情に、恐怖を感じていた。
そして放課後、職員室に呼ばれ、こっぴどくお叱りを受けたのだった…。
◇
それから年が明け、俺は本田の家にも顔を出すようになった。
本田のお父さんは商社に勤めているようで、年明けからはパリとローマの間を行ったり来たりの繰り返しをしているらしい。
お父さん的には娘に彼氏がいることに対し、面白くないようだ。だが、まだ小学生なので、少しだけ安心はしているように見える。
本田のお兄さんとお母さんは歓迎ムードのようだ。特にお兄さんは 弟のような存在 の俺を可愛がってくれている。
お母さんはイタリア語の話せる俺を高く評価している。
そして今日は冬休み最終日。俺は本田の家のリビングで理科の自由課題、発酵についてのレポートを二人で仕上げていた。
「ヒーロ君はなんでワインのことを知っているの?」
「ふっふっふっ。ただの物知りなだけですよ、タマコさん」
「麻子だもん」
「タマコだもん」
「もう本当にラブラブね、あなた達は」
俺たちのやりとりを見て、キッチンからツッコミを入れる本田のお母さん。
「もぉ、話に入ってこないでよ」
本田が照れたように言っている。
マジで可愛い…。
そして、レポートも終盤に差し掛かった頃、本田の携帯が鳴った。
「あっ、ナッツだ。ちょっと電話に出るね」
そう言って、本田が部屋を後にした。
ナッツ? 中山のことか? 学区が違うのに知り合っていたんだな。
俺が一人でレポートを仕上げていると本田のお母さんがコーヒーを持ってきてくれた。
「ヒーロ君は小学生なのになんだか大人びているわね? コーヒーもブラックとか」
「甘いものが苦手でして。でも、タマコママの作るスコーンは美味しいから好きです」
「あら、お世辞でも嬉しいわね、ありがとう」
本当に嬉しそうだな。
「ヒーロ君のお母さんもお菓子とか作るの?」
「いえ。姉が新体操をやっていて、スタイル維持のために、家にお菓子とか甘いものを置かないようにしているんです」
「そうだったの? 麻子も中学生になったら新体操部に入るって言っているわよ。美梨さんみたいになりたいんだって」
「ははは。美梨ネエが聞いたらビックリしますよ。私の青春時代は暗黒時代って言ってますから」
タマコママとそんな話をしていると、本田が戻ってきた。
「ねえヒーロ君。ナッツがヒーロ君に会いたがっているけど来てもいい? ああ、ナッツって塾友なんだけど」
「俺がここに居て邪魔にならなければ、かまわないけど」
「ありがとう」
そして早速、携帯で中山に連絡をしているようだ。
「ヒーロ君は麻子の自慢の彼氏なのよ」
タマコママはトレーを抱えながら、俺に耳打ちをした。
「恥ずかしいからやめて下さいよ…」
マジで恥ずいな…。
んなことより、中山か…。
俺に会いたいって、どういうことだ?
ただの興味本位か?




