考 Pensare
ランドセルを背負う俺。そんな俺の中身は16歳。
緑色の通学帽には募金をした際に頂く、赤い羽がついている。
なんだか恥ずかしいな…。
ところで今日は何月何日の何曜日だ?
家には誰かいるのか?
家の鍵を持ち歩いているから、家には誰もいないだろうな…。
んな事より。なんで家に帰るのに、こんなにも時間がかかる? 俺ってこんなに小さかったか? 背の順で並ぶと、後ろだったよな。
歩いても歩いても、家に着く気が全くしねぇな。
本田と会話を終わらせた公園から、どのくらいの時間が経過したのであろう。
徐々にだが、歩く視界の中に懐かしい風景が見えてきた。
ああ、家だ…。
背中が痛い…。
クッソッ! 江川の奴、思いきり投げやがったな!
仕返しをしたいけど、今の俺じゃ全く勝てる気がしねえ…。
でもまあ、本田と晴れて付き合う事ができたし、今日はラッキーデイだな。
家の前に到着。
玄関に鍵を差し込む。
軋む音とともに、玄関ドアを開けた。
お?
こりゃマジで懐かしいぞ。
そのままリビングに行くと、テレビボードの脇には色褪せたポスターが貼ってある。
うひゃー! ミッシェル・ガン・エレファントのポスターじゃん! 美梨ネエが大好きだったな、ウケるんだけど!
俺は一人で笑いながら、そのままリビングに座った。
座ると同時に、玄関から鍵を開ける音が聞こえる。
「ヒーロ? 何しているのよ! 外で女の子が待っているけど?」
美梨ネエ? 若っけーなオイ! って誰が待っているんだ?
「女の子?」
「本田さんって子」
「Davvero!」
(マジでか)
「はぁ? 何て?」
急いで玄関に行くと、本田が家の前で立っている。
「本田? ごめん、気がつかなくて」
「あっ、違うの。私の携帯の番号を渡してなかったから…」
携帯って…。小学生で持っているのか? すげーな…。
「ああっと、ありがとう。でも俺は持ってないんだよね、携帯」
すると、玄関が開き、美梨ネエが登場した。
「はーい。二人とも中に入ってー。お茶を淹れたよー」
◇
美梨ネエを交えて、三人でテーブルを囲む。
「本田ちゃん、名前は?」
美梨ネエが楽しそうに本田に質問をする。
「あ、麻子です」
「へー。私は美梨です。小さいからミリで覚えてね。私の栄養はヒーロに全部持っていかれちゃったのよ。ヒーロって学年でも大きい方でしょ?」
「はい」
「本田、ごめんな。美梨ネエがいて」
「ヒィーロォー。私がいなかったら悪いことをする気でしょー? 私がいてよかったねー、麻子ちゃん」
小学生で何をするんだよ…。
本田が苦笑いをしてんじゃねえか!
「あはは…。あの、成瀬」
「何?」
「はーい。」
「いや、美梨ネエじゃないから!」
「だって私も成瀬だよー」
「ごめん本田、何かな?」
美梨ネエは無視だ。
「突然、来ちゃってごめんね」
「ううん。平気だよ」
「うん。大丈夫だよ」
「いや、だから美梨ネエじゃないから」
俺と美梨ネエを見て、本田は笑っている。
「もう、麻子ちゃんの笑顔が可愛すぎ!」
「そんな、私なんて…。美梨さんの方が大人っぽいのに可愛らしいです」
本田はそう言って、下を向いてしまった。
「本田、ごめんね。美梨ネエが話しちゃって。何か聞きたい事があったかな?」
「えっと…。あのね。私もヒーロって呼んでもいい?」
「えっ? 別に構わないけど」
「えへへ、ヒーロくん」
「きゃー! 麻子ちゃんカワユス!」
そんな会話をしながら時間が過ぎて行った。
夕方の五時に近くなり、薄暗くなったので、俺は本田を家まで送って行った。
そして自宅の近くまで送って行き、再び帰宅をする。
時間は午後五時半を過ぎた頃。
母さんも仕事から帰っていた。
母さんと美梨ネエが、キッチンで夕飯の支度をしている。
この光景を見ると美梨ネエは家庭的に見えるが、実際は夕飯のメニューは自分で作っていた訳だ。
確か大会が近い時などに、監督から渡されたメニューで食事をしていた。
そう言えば、あの日、本田からの電話で美梨ネエの事を言っていたな…。
あと、通夜の晩にいた女性…名前を忘れたけど、なんだかあの人って気になるんだよな…。
「おかえり」
「ただいま。母さんもお疲れさん」
母さんと美梨ネエが顔を見合わせている。
「ヒロ? どうしたの?」
母さんが不思議そうに俺を見る。
「はあ? 何が?」
「お疲れなんて、初めて言ってくれたね」
「そうだっけ?」
「ヒーロ、テーブルを片付けて」
そう言って美梨ネエが俺に布巾を投げた。
なんだか懐かしいな。美梨ネエがこうやって布巾を投げるんだったよな…。
「bene.」
(了解)
「ついでにお皿も並べてねー。」
「Volentieri」
(任せてくれ。)
「ヒーロ? さっきから何を言っているの?」
母さんと美梨ネエが、不思議そうに俺を見ていた。




