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 序 Introduction


 どうする? 直接、渡すか?



 初めて書いた手紙。大好きな子に渡すために書いた手紙。いわゆる、一つのラブレターだ。

 友人の祐一ゆういちそそのかされて書いたラブレター。


 事の成り行きは先々週にさかのぼる。ある日の放課後、祐一の家に遊びに行った時だ…。


「なあひろし。お前に相談があるんだけど」

 いつになく緊張した様子の祐一。

「何?」

「お前にだから言うんだけどさ…。あぁ、でもなぁ…」

 祐一は緊張からか、どうにも歯切れが悪い。

「なんだよ? どうした? ウ○コか?」

「チゲーよ、バカか!」

「あはは。冗談だ、どうした? 好きな子でもいるのか?」

「悪いか…」


 マジか!?


「悪くはないけど、俺に相談しても…」

「浩は好きな子はいないのか?」


 そう来たか!

 実は俺にも好きな子はいる。小学6年生にもなれば、恋心なんんて芽生えるものだ。


「いなくは…無いけど?」


 俺の言った言葉に、祐一の表情は明るくなった。


「マジか! 誰だよ!」

「お前が先に言えよ」

「ふ…藤野ふじのだよ…」

 祐一が照れくさそうに言う。


 ほぉ。なるほどなるほど。


「浩は誰だよ! 言ったんだからお前も言えよ!」


 くっ  言うのか? 恥ずかしいぞ?


「言えよ!」

「ほ…本田…」

「ほぉ。なるほどなるほど」


 こいつ、俺の心の中と同じリアクションじゃないか。なんか嫌だな…。


「告白しようぜ」

「はぁ?」

「はぁ? じゃねえよ  告白しようぜ、一緒に!」

「嫌だよ!」

「このままで良いのかよ!」


 良いも何も、俺なんてダメだろ? 告白したって俺なんかダメに決まっている…。

 俺なんて頭はよくないし、運動ができる訳でも無い。それに俺の家は貧乏だ。親父が病院を出たり入ったりしている。その都度、相当なお金が出ていっている。子供ながらに、そのことは理解している。


「俺なんかダメだよ」

「わかんねえだろ。それを決めるのは本田じゃねえか!」

「てか、祐一は自信があるのか?」

「ねえな」

「即答!」


 祐一のこういう所はすげえと思う。


「俺は直接、会って言うつもりだ。浩は自信が無いんだったら手紙にしろ」


 いやいやいや!

 なんだか、俺まで告る流れになっているのだが?


「ほら」

 そう言って、テーブルに投げられたレターセット。それはピンク地に、小さな白いクマが散りばめられた可愛らしい便箋だ。

「姉ちゃんがくれたやつだ。これを使え」


 すげーな。高校生になると、こんな可愛い便箋を使うのか。

 てか、恵姉めぐねえがこんな可愛い便箋を使うのか? 金髪でチーマーっぽいのに笑えるな。


「とにかく浩はこれで本田に手紙を書け」



 

 てな感じで、俺は本田ほんだ 麻子あさこにラブレターを書いたわけだ。

 初めて書いたラブレター。手紙すら書くことが初めてなのに、大丈夫だろうか?

 俺の緊張は今朝からマックス状態。

 ちなみに祐一の告白は失敗に終わっている。もちろん女子たちからは、笑い者にされている。

 俺もきっと笑い者にされることだろう。朝から笑い者にされるくらいなら、放課後の方がマシだな。

 そんな安易な考えで、俺は直接、本田に手紙を渡す事にした。

 帰りのホームルームが終わり、皆がランドセルを背負い始め、一人、また一人と教室を出て行く。

 そして本田も友達と教室を出た。本田の友達、佐藤が邪魔だが、佐藤が1人いるだけならと思い、俺は本田に話しかけた。


「本田」

「ん?」

「これ、読んで。できれば後で読んでくれると助かる」

「うん」


 この時の俺の顔は、アメリカザリガニのように()()()()()だったと思う。

 ちなみに本田も恥ずかしそうに、少し顔が赤くなっていた。


 俺は恥ずかしさのあまり、足早にその場を去ると、笑い声が聞こえた。

 一軍女子の江川えがわが、本田から手紙を奪い、大声で読み上げていたのだ。


 教室に残っていたクラスの半数が笑う中、本田はその場でうずくまり泣いている。

 そういえば、祐一が藤野に告白した時も、江川に邪魔をされていたことを思い出した。


 さあどうしたものかな。

 なぜか本田を泣かせたのは俺のせいになっているし? ここで本田に謝るのも変だし?

 帰るか…。


 全てが秒殺で終わったな…。


 

 


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