家督を継ぐ
どこかに住む作家が創った作品が、本当にメッツェンたちの住む世界であるならば。
「ここは敢えてメッツェンと呼ぶけれど、平民と貴族の結婚は珍しくはない。その場合、貴族が平民になることがほとんどだけれども」
「・・・そうですね」
貴族の跡取りとなる男性以外は、どこかの貴族と結婚して資格を引き継がなければ平民となる。
女性も嫁ぎ先によっては平民となる。
王族は王位を継がない者は爵位を賜るが、『王族だから』というだけしかないため、世代が変わる毎に爵位が下がると定められている。
「我が家はさすがに後を継がないからといって平民になることは難しいのだけれど、今回はその調整もあって、中身を取り替えることになったんだ。嘘をついているように感じることもあるだろうけれど、貴族の世界は嘘ばかりだから、あまり気に病まないでほしい」
「そうしてみます」
「それと、明日家族に会えば分かるのだけれど、俺は公爵家長男だけれど、後継者は弟だ」
「え?作品の中では当主でしたよ?」
高位貴族は褒賞として爵位を与えられることがあり、跡継ぎではない子どもたちに譲ることも可能だそうで、今回はこのルールを使って、スタンツェ様もスティーブン様も貴族の扱いが続くことになる。
そして、私は貴族の家に輿入れした平民なので、準貴族の扱いになるのだ。ラスパトリウム様は貴族の娘から、貴族の夫人の扱いになるが準貴族の扱いは同様になった。
ソファに座って、スタンツェ様は体が傾いた状態で私に抱きつく形になっている。
首を傾げる動きも、普段以上に伝わってくる。
「そうなのか?・・・我が家は少し特殊でね。俺もそうだけれど、父の兄も、祖父の兄も特殊な能力をもつ体質だったようだ。だから、我が家では長男、というより特殊体質が出た者は安全を考慮して、後継者にはならないことになっている」
「皆様、生まれたときから体質が分かっていたのですか?」
「ううん。成人してから分かった者もいるし、様々だ。ただ、どの時期に発現しても、その能力を後継者を支えるために使ってきたんだ」
「なるほど」
「弟が跡継ぎということは本人と周囲は知らない。弟が生まれたくらいの頃には、諸々のことに慣れたから、弟は俺が心を読めることも知らない」
「慣れた・・・というよりは、諦めたのですね」
「・・・そうだね。という訳で、家の事情は理解してもらえただろうか?」
「何となく、理解しました」
そういうものか、と理解は出来た。
――――爵位のことよりも、特殊な能力を持つ血筋として生まれてきたことでの、ご苦労が心配だわ。
「・・・君はそうやって、いつも周囲の人間の心を気に掛けてくれるんだよね」
「えっ?意識していませんでした」
――――近しい人が心の不調であったり、体調の不良があれば、心配するものではないの?
「そう思わない人間も多いんだ。笑顔で罵っている者とか、嘘泣きをしながら嘲笑っている者とかも、沢山見てきた」
私がスタンツェ様を抱きしめる形のまま、お話を伺っていたけれど、体を離し姿勢を直したスタンツェ様はいつもより柔らかい表情で微笑む。
急に顔が熱くなるけれど、紅茶を飲み込むことに集中して、何も考えないように頑張った。
「・・・さっきの姿勢は何となく安心感があったから、もう一度しても良いかな?」
「はい・・・え?」
紅茶に集中していたため、聞き取れないのに返事をしてしまった。
何を言われたか確認しようとする時には、スタンツェ様が抱きついてきた。
「やっぱり、大型犬・・・」
「君の夫だよ・・・」
紅茶が零れないようにカップを抑えているため、抵抗出来ずにスタンツェ様は距離を縮めてくるのだった、
甘くしたいのに、甘くならないこの空間!
頑張れ、筆者。
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