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謝罪からのお願い

主人公のメッツェンと執事のスティーブン、若奥様のラスパトリウム登場回。

 三階の使用人部屋から出て、二階の若奥様の主室に向かう。

午前中に整えていたその部屋に、今はいらっしゃると考えられる。

部屋の前に執事長のスティーブン様が立っていらっしゃるのが見えて、絨毯敷きではあるが足音を消して近づいた。


「あぁ、メッツェン。目覚めたのですね」

「はい。ご心配をお掛けいたしました」

「君があのくらいで意識を失うのは珍しいことですが、後遺症はありませんか?」

「・・・先ほど少し体を動かしましたが、軽い背中の痛みのみで、動きづらさは感じませんでした」


 執事から侍女への問いかけとして、それはどうなのかと疑問に思うが、ランゲンベック家は代々騎士団長を輩出する<武>の家系なので、従業員も戦う術を習得することが必須になる。

メイドですらも走り込みや護身術を学び、何かトラブルがあったときには迅速に動けるようマニュアルを頭に叩き込まれるのだ。

普通のメイドには必要のない知識や技術であるため、その分を給料に上乗せしてくれるのだから、私は喜んで学んだものだ。

そう、学んでお給料が貰えるなんて、ありがたい話です。

 護身術以外にも、テーブルマナーや跪礼、ダンスなどいくつものカリキュラムがあり、平民と貴族の使用人で取れるカリキュラムに差はあるけれど、資格給が追加されるのだから、取っておくに限る。

安定した高収入を自分自身の努力で勝ち取れるなんて、本当に良い職場です。



「・・・ご令嬢は君が意識を失ったことで責任を感じて泣いていらっしゃる。少し一人にして欲しいとのことだったので、ここで待機しているが、声を掛けてみますか?」

 スティーブン様は執事として公爵家に長く勤めており、今は長男スタンツェ様のお屋敷で働かれているが、現当主様と同じ年代だ。

ブロンズの髪をきっちり纏め上げ、深緑の瞳は優しげ、スマートな身のこなしに柔らかい物腰は憧れるし、公爵家の護衛としても凄腕だと聞いている。

「入室の許可はいただけないかも知れませんが、声だけは掛けてみます」

 個人的な挨拶は部屋に移動してからとしていたため、個人の認識などしていないだろうに、使用人を気に掛けてくださるとは、若奥様はお優しい人柄なのだろう。

 それと、嫁いできたらいきなり階段から落ちるわ、助けてくれた人は失神するわ、貴族令嬢としては衝撃以外の何者でもないだろう。


 そっとノックするが返答はない。

深呼吸をしてから大きな声にならないよう、でも聞こえるだろう声量で、柔らかい声になるようにして声をかける。

「お嬢様、先ほどご迷惑をおかけしました侍女のメッツェンと申します。お詫びに参りましたが、また次期を改めてさせていただきます」


食事や入浴の湯を運ぶために何度か訪問するつもりだから、今は受け入れて貰えなくても良いのだ。


執事長のスティーブン様に視線を送ると、小さく頷かれたため、退席しようと体の向きを変える。

一歩歩き出したところで、カツンとドアノブに手を掛けた音がして、顔だけ振り返る。

ほんのわずかだけれど隙間が開き、弱々しい瞳がこちらを覗いていた。


扉を開けてくださったことにホッとした。

「改めまして、侍女のメッツェンと申します。先ほどは大変驚かせてしまいまして、大変申し訳ございませんでした。お体の調子はお変わりございませんか?」

「・・・はい。・・・あの・・・ラスパトリウムと申します。メッツェン様に守ってもらいましたので、大丈夫です。・・・あの、申し訳ございませんでした」

 努めて朗らかな笑顔になるように自己紹介してみたのだけれど、悪夢の中で見た作品と同じようにラスパトリウム様の様子は弱々しい。

腰まである銀髪、黄色の瞳は穏やかに揺れていて、目の周りは少し赤くなっている。

馬車から降りてきたときにも感じた儚さと相俟って、あと少し心労が重なれば、容易く心も体も折れてしまわれるのだろう。

作品の中の私は、よく虐めようなんて考えたな。


 ご挨拶を返してくださったのはありがたいが、こちらは平民の身なので慌ててしまう。

「・・・若奥様、使用人には謙る必要はございません。どうぞ頭を上げてください」

「申し訳・・・」

スティーブン様の指摘に、更に恐縮してしまうラスパトリウム様の図に、気持ちを切り替えないといけないと感じる。


「あの、若奥様、お部屋で不足しているものはございませんか?紅茶を準備いたしますので、何かご入り用のものがあれば教えてくださいませ」

「・・・はい。分かりました。・・・えっと部屋に入ってもらって構いません」

「ありがとうございます」

「では、私が紅茶を取って参ります。メッツェン、若奥様の側に」

「畏まりました」

 優雅に歩いているようで、風のようにいなくなってしまったスティーブン様に、紅茶を任せて、主室に入らせていただくことになった。


 ここからが一つの山。

これからもこのお部屋に出入りしても良いと思って貰えるようにしなければ。

目指せ、私の安定した高収入生活!

ラスパトリウムとメッツェンはほぼ同じサイズですが、走り込みや護身術の稽古を受けたメッツェンの方が少しだけがっしりしています。

メイド服姿で登山出来るレベルは習得済みです。はい。

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