時言葉~ある車掌の証言~
この作品は、本編「時言葉」の一部となっています。
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ある晴れた早朝のことだった。その日も平戸奈々は、帽子を目深に被り、後ろ髪を一つにまとめて、リュックを背負っていた。乗っているのは、近所を走るローカル鉄道。数年前に高架したその路線は、通勤・通学のために混み合っていた。その先頭車両、一番前に乗っていた。
「『とな』、もうすぐポイントだな。」
同乗していた大手太一も、帽子を目深に被っていた。
「うん、『てた』もよろしくね。」
「おう。」
この二人、とある目的でこの列車に乗っていた。その目的が、もうすぐ達成される。
「来た……。」
まだ乗客の誰も気付いていなかったが、ひときわ大きく揺れたことで数人も気付く。
「地震だ! でかいぞ! 何かに掴まって!」
太一が指示を出す。
一方で運転する車掌は、いつも通り運転していた。しかし目の前の高架橋がぐらりと揺れる様子に血の気が引き、動けなくなってしまった。
「車掌さん! ブレーキ‼」
何処かから、声が聞こえた。ハッとした車掌は急いでブレーキをかける。
急停車で重心が持っていかれる。乗客達は悲鳴を上げた。ようやく止まった車両を、地震の揺れが揺さぶる。悲鳴は引き続き聞こえている。
メリッ、メリメリメリ……
大きな音がして、停車した目の前の高架橋が横倒しに崩れた。巻き込まれていたら一大事だった。車掌は、冷や汗をかいて、ふと、ブレーキを促す声をかけてくれた人物を探した。しかし、そんな人物は見当たらなかった。
高架橋を、元の駅まで歩いて避難する群衆に溶け込んで、二人は避難していた。
「何とかなって良かったね。」
「間一髪だったな。」
この後、二人は高架橋を降りたら、住居の下敷きになって発見が遅れる可能性のある人達の救助に向かう。
「長い一日になるね。」
「俺には『視えない』から、頼むぞ。」
「わかってるよ。けど、私も助かってるのよ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
平戸奈々は、夢を視ることができた。過去も、未来も。
正義感の強い彼女は、悪用しようとは考えたこともなかった。不幸な出来事を防ごうと、日々奔走している。
幼馴染みの大手太一も、それを知って、手伝いをしている。どうやって手伝う話になったかというと、それはまた、別の機会にお話ししましょう……。
本編「時言葉」は、準備ができ次第、連載予定です。