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後悔する事になるのはあなたよ

「困ったわねえ。お姉様の事、学園で聞かれたらなんて説明したらいいのかしら?」



 妹がわざわざ後を追ってきて私に話しかける。

失望しているであろう姉が悲嘆にくれるのを見たがっている事は明白である。

先程は私が必死に婚約破棄の事実に耐えているとでも思ったのかもしれない。

どうやったらこの年齢でここまで醜く歪むのか。

私は無視して別棟の寝室へ向かって歩き続ける。



「まさかお姉様が嫌で私を選んだ何て言えないでしょう?

適当な事を言ってごまかしてもいずれ判ってしまうし。

何ていえばいいのかしらね、ふふふ」



 妹は16歳で私の一つ下の年齢だ。

しかし正確に言うと誕生日は私と一年離れていない。

つまり父は私の母と同時期にあの義理の母親と浮気していたという訳である。

妻子がいるのに堂々と父と付き合っていたサンドラと実にお似合いだ。

そんな屑達の娘はやはり屑らしい。


 廊下を曲がった所で私は歩を止めた。

首だけ少し動かして後方をチラ見し、妹に答える。



「くだらない。ホントに子供ねぇ。好きに言えば?」


「何ですって!?」


「あなたの言う通り、私の婚約破棄は隠し様の無い事実だしね。

私を貶めたければ貶めればいいわ」


「……さっきもそうだけど、お姉さまのくせに随分と強気ね。

このお屋敷の皆も学園の人達も、私の味方なんだからね!」

 

「だから何? 忠告しておくけどこれからは何事も覚悟してやる事ね。

もう黙っていないから」


「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ」


「もう後悔なんてしないし、虐められるのに飽きただけよ。

それに、私が貴方に怯えたりしなければいけない理由なんてそもそも無いから」


「どういう事よ」


「だってそうでしょ?

お父様は入り婿だから唯一侯爵家の血を継いでいるのは亡くなったお母様が産んだ私だけ。

貴方には上級貴族の血は流れていない。一滴もね」


「……っ!」


「あなた達の扱いが酷くて今はこんなに痩せて酷い容姿になってしまっているけど、生活改善すれば私の見た目もましに変わるでしょうしね。

頭も容姿も性格も血筋も私より全て劣る妹になぜ怯えなければいけないの?」


「な……なっ……」


「理解できた? それともその足りないオツムじゃ事実認識も難しいかしら?

いずれにしろ、あなたと会話するのは本当に時間の無駄だわ」



 そう挑発したら妹の顔がみるみる真っ赤になるのを確認した。

その様子を見て私は薄笑いを浮かべ踵を返した。

この後の妹の行動は既に読めている。



「待ちなさいよ!」



 私の肩か腕か服か、どこかをつかもうと手を伸ばした妹を躱す行動をとる。

左に振り向きつつその回転を生かして左の後ろ手で妹を壁側に押し出した。



「あっ!」



 妹が小さい声を出して壁に寄りかかると間髪を容れずに私は大きく足を蹴りだした。



ドゴン!!



 大きい音を立てて私の右足かかとが妹の顔の10センチ横の壁に激突する。

室内用とはいえそれなりに高めのヒールが折れてしまった。



「ついでに貴方が生きているのも無駄かしらね」



 寧ろ悪役令嬢的なセリフを吐いて私は妹を睨みつけた。

左手で妹の首元をつかんで眼前に持ってくる。

何が起こっているのか理解できないのかドロテアの目は見開かれたままだった。 

私は右足を妹の顔面の真横に置いたまま目を細め一段声を低くして警告する。



「くだらない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ」



 妹の顔から血の気が見事に引いていくのがわかった。

水音が聞こえたので視線を下ろすと足元に小さい水たまりが出来ている。



「あら、こんなところで粗相するなんてね。貴方、何歳?

貴族どころか人として何とも恥ずかしいこと」

 

「……あ、あんた、誰……?」


「おやおや、人として全ての要素が劣っているだけじゃなくて目も悪かったのね。

何処からどう見てもあなたのお姉さまじゃない?

きちんと下着を換えて寝なさいよ。風邪ひくわよ? じゃあね」


 そう言って私は寝室に立ち去った。 

向こうの廊下から誰かの足音が聞こえた。

私の壁への蹴りは思った以上に響いた様だ。


 改めて言うが、私の前世はどこにでもいる日本の平凡なアラサーOLである。

空手と柔道が黒帯なだけの。

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