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依代さん  作者: 塩谷凪
1/1

1.依代さん

僕は、依代さんのかたちを知らない。


正確に言えば、依代さんをいつも()()ことはできるのだけれど、会うたび会うたびに違うかたちをしているから、依代さんの「ほんとうのすがた」というものがわからない。少女だったり、サラリーマンだったり、おばあさんだったり、外国人だったり。声も服装も様々である。

でもなぜか、「あ、依代さん」とわかってしまう。依代さんは、どんなかたちでも不思議と「依代さん」なのである。



依代さんとはじめて会ったのは、日本橋高島屋の屋上だった。


今では趣味として百貨店の屋上をめぐるぐらい屋上が好きだが、当時はそうでもなかった。

職場のひとと散歩の話をしていて

「百貨店の屋上がいいよ」

と言われるまで、百貨店の屋上というものは裕福な家族がショッピングの合間に子供を遊ばせる、自分には縁のない場所だと思っていた。

屋上があるということは知っている。でもそれ以上の関心は無い。

「お子さん遊ばせるのに、よさそうですね」

僕が言うと、職場のひとは、「うーん」と少し考えこんでから、

「子供にもいいんだけど、わたしも好きなのよ」

と笑った。

それで初めて、屋上に行ってみようか、と思った。



11月の屋上は、少し肌寒かった。風が吹くと、むきだしの首には厳しい。

立ち並ぶビルの前にある、少し開けたコンクリートと芝生。噴水と珍妙なペリカンの石像。その右側にある、小さな日本庭園。緑と人工物のまざりあった、不思議な空間。美しさよりは可愛さか。変な場所だと思ったが、何とも言えない安心感もある。なるほど、確かにいいところだった。


日本庭園には、小さな川がある。そこにかかる短い橋を渡ると、小さな建物がある。その建物は宗教的なビジュアルで、屋根の下には、七福神の名前を書いた木の札が等間隔で付いていた。高島屋の屋上には、七福神がいるらしい。満足して引き返そうとしたとき、知らない顔にぶつかった。ぎょっとする僕。愉快そうににんまりする男。それが、僕と依代さんとの出会いである。

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