8.臨時収入とクリスマスプレゼント
葵さんの誕生日やクリスマスなど、お祝い事が近づくとプレゼントのリクエストが娘から妻に伝えられる。毎度の出費に妻はぐずぐず言いながらも顔は嬉しそう。そんな具合に葵さんのプレゼントは妻に任せている。
実際は葵さんが欲しいのか娘が欲しいのかは何とも言えないのだけれど。
昨年の暮れに臨時収入があった。馬券が当たったのだ。既に葵さんへのクリスマスプレゼントは妻が購入済ではあったのだけれど、サプライズで何か買ってやろうと思った。
色々考えた結果、服を買ってやることに決めた。小さい子はすぐに大きくなってしまうから、高価なものはなかなか買えない。だったら、そういうものをボクが買ってあげればいいかも知れない。そう考えたわけだ。
東京駅の大丸に子供服の有名ブランドの店がある。クリスマスイヴ当日、仕事帰りに立ち寄った。店内を見て回り、良さそうなものを選んだ。ダッフルコートとその中に着る上下の服の3点を購入することにした。そしてそれをレジへ持って行った。
「これをお願いします」
「お子さんへのクリスマスプレゼントですか?」
「ええ、まあ…。孫なんですけどね」
「そうでしたか。それは失礼しました」
店員さんは電卓をたたきながらにっこり笑う。合計金額が提示されてそれをこちらに見せながら代金を伝えてくれた。
「4万…」
「えっ! そんなにするの!」
まさか子供服がそんなに高いものだとは思わなかったので、値札も見ずに選んでしまったことを一瞬後悔した。けれど、今更引っ込みがつかず、代金を支払うことにした。まあ、可愛い葵さんの喜ぶ顔が見られるのなら、安いものだ。そう自分に言い聞かせて財布を取り出した。
帰宅すると、クリスマスイヴだということもあり、娘たちは家族で食事に出かけていた。部屋のクリスマスツリーの横にこっそり買って来たものを置いてきた。帰って来てそれに気が付いた娘が飛び上がって喜ぶ。
「いや、葵さんのだから」
「葵も嬉しいよね。じーたんにありがとうって言って」
「じーたん、ありがとう」
葵さんより娘の方が喜んだ。まあ、いいか。