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6話:そしてその日、俺はコロナさんと初夜を迎えた。

雑すぎたなと

 そしてその日、俺はコロナさんと初夜を迎えた。


 なんてことになる機会があったとしても、仮にそんな世界線が存在したとしても、流石に童貞と命では等価交換とは言いがたいし、全力でノーサンキューな訳だが。

 というかよくよく考えるとどっちも俺が失っているという。

 交換どころか搾取だ。処女くらいで吊り合いとれるかこのやろう。


 さておき。


 なにやら血迷ったことをほざいたコロナさんに詳しく話を聞いてみたところ、まあ案の定というかその発言の真意は、どこぞに付き合えという意味合いだった。


 もちろん俺はラブコメ畑の人間でもなく、またその手の病気じみた精神性を有する主人公などには魂レベルでなれないだろう至って平凡なる人種であるから、勘違いする余地などありはしない訳だが。まあ確実に精神に疾患を抱えているだろう若干一名からの熱い視線に胸の高鳴りが抑えられなかったりはしたが、吊り橋効果にだって限界はあるだろう。


 ……いや、さすがにあれは違う……はず……?

 くそう、なんだこの、なんだ……くっ、未だに一人でするとき指も入れられないくせに……!


「……んだよ」

「はい?」

「…………いや、なんでもねえ」


 ……鋭いな。ずっと周囲を警戒しててこっちを向いてすらいないというのに。流石はなんでも屋の生き字引といったところか。伊達に長生きしていない。


「……」


 おっと、睨まれたぞ。不思議だなあ。


 まあともあれ。


 なにはともあれ命の危機は過ぎたと安心した俺に、コロナさんはそして言った。


『今度依頼で行商についてくんだが、お前、一緒に来い』


 ……ほんと、俺の借金を増やす気かと。

 まあ、狂信者による凶行はコロナさんが上手いこと鎮圧してくれた訳だが。


 それから話を聞くにどうやらコロナさん、俺の料理の腕をご所望らしい。


 料理の腕。


 とはいえ俺は別に料理が上手いということもないし、マヨネーズだって作れない。天然酵母もまた然り。異世界で食文化に革命を起こせそうなあれそれは、だいたい読み飛ばしていたおかげで軒並み無理だ。こんなことならもう少ししっかり読んでおけばよかったと、今となっては後悔しても無駄と知りつつ、思ってしまうほど無能である。そりゃあ一人暮らしで自炊をするに最低限度、つまりだいたいレシピがあれば作れるしものによっては目分量でだいたい食べれるものが作れる程度のスキルはあるが、それだって所詮不器用なりの頑張りでしかなく、例えばあれで文化レベルが人並みなスーラさんなんかと比べれば鼻で笑われる程度のものだ。


 つまりひっくるめるとコロナさんがなぜ俺を選ぶのかまったく分からないのだが、そう言ってさりげなくスーラさんあたりを薦めてみると、なんだろう、久々に萌えという概念を魂に刻まれるくらい魅力的に、頬を赤らめて顔を背けながらコロナさんは言った。


『言ってたろ、外に行きたいっつってな』


 危うく結婚を申し込みそうになるくらいの衝撃もあって、なにを言ってるんだと正直ちょっと思ったが、なんとか我に返りつつ少し考えて、初対面、なんやかんやと話している中でそんな話をしていたことを思い出した。

 それはそんな程度の、自分ですら忘れていた些細な言葉で。

 にも関わらずコロナさんは律儀にも覚えていて、更に叶えようとしてくれているらしかった。


 なんだこの聖人。

 さては主人公のパーティーメンバーか現地妻的なポジションが待っているんじゃなかろうかと邪推してしまうのもやんぬるかなというくらいの人の良さ。というか、思えばコロナさんの容姿は他の女性と比べても抜きん出ているし性格もいい、少なくともこの世界ならここまでそういう関係になったことがないらしいというのは不思議なことで、割と冗談抜きにそういう類いの人間だと思う。


 そんなコロナさんにそこまで言われてしまえば、まあ俺にそれを拒む理由などなく。


 あとは少し距離をとっておきたいということもあって、結局今、こうして二人、コロナさんと顔見知りという行商人の護衛ついでに馬車の旅なんかしているのだった。

 もっとも護衛といっても俺にできることはない。すでにいくつかの村を回って数日が経過しているが、なんなら料理すらそう何度もやった訳じゃない。そりゃあ考えてみれば村や街に寄るのだからわざわざ俺が用意する必要があるタイミングなどそうそうないよなあと。一応、これまでの収入の積み重ねで購入できた鉄製の短剣を腰に吊ってはいるが、恐らくゴブリンにすら敗北するだろうという自信がある。それに他は普段着、そこら辺の町人が身につけているような『ぬののふく』だし、まあぶっちゃけ、無用の長物みたいなものだった。


 そんなだから当然なんだろうが、御者をしている商人(オーダンさん)の娘さんであるコリーニちゃん―――十歳くらいだろうか―――のフードの中からのぞく視線が初日からずっと痛いのなんの。エコーさんのおかげでそこそこ耐性がついていたとはいえ、流石にこんな少女からとなるときつい。多分最初のコロナさんの紹介が酷すぎたというのも多分あるんだろうが、間違ってない以上―――なんなら率先してそれを実証してしまったことだし―――否定できなかった。


 もうあの時点できっと終わっていたんだなあと、つい遠い目にもなる。


 いやそりゃ、急に野党とか言われたら誰でもビビるだろうに。そして即座に最高戦力たるコロナさんに丸投げするのも至って当然の判断だった。もし今また同じシチュエーションになったとしてもまったく同じことをするという確信がある。

 などと言えば視線の温度が更に低くなりそうだから、言わないが。

 ……そろそろ本格的に視線に慣れそうな自分がむなしい。

 ケツの痛みには慣れる気がしないというのに、一体これはどういうことなんだか。


 などなどコリーニちゃんの冷凍ビームを受けつつ暇を全力でもてあそんでいるうちに、どうやらずいぶんと進んでいたらしい。


「見えてきましたぞヒビキ殿」


 もうこの時点でかなり気が遣われてるんだよなぁ。

 というかコロナさん声を殺して笑ってやがる。誰のせいだ誰のっつって全部無能な俺のせいだよこの野郎。あとコリーニちゃんはもういっそそろそろ興味を失え。


 などなど思うところはありありだったが、もはや心を殺すことなど慣れたもの、さも『おっと、ついに着いたのか』という新鮮なわくわくを抱いているかのように目を輝かせながら御者台の方に顔を出す。


「おお、本当ですね」


 もっとも、まず見えてきたのは畑の群だったが。

 遠目からでもなにやら働いているらしいのが分かるが、ほんの豆粒にしか見えない。にも関わらずこの広さということはどうやらかなり広い畑らしいな。無駄に平たいだけのことはある。


「あれはなんの畑なんですか?」

「確かモロロですな。向こうにはトルネやケーネもあるはずですぞ」

「ははあ、なるほど」


 なるほどなるほどと頷いてみせたところで、なにひとつ分かりはしない訳だが。

 どうしてこう、中途半端なんだ翻訳機能。類似品は大人しく日本語に置き換えやがれと言いたい。まあジャガイモみたいな感じで地名から来てるのの扱いとかに困りそうではあるが。


 さておき。


 そんなこんなをオーダンさんと話しつつ進み、なんやかんやなく村へと着く。

 畑に囲まれ、柵に囲まれた村。よくもまあこんな村であの規模の畑を運営できるものだと感心してしまう程度の―――二十世帯くらいだろうか、家の数からしてその辺りが限界だろう―――本当に小さな村だ。それにしたって、それを作るための木々をわざわざ持ってきたと考えると十分に大規模なのかもしれないが。


「やあこれはこれはようこそいらっしゃいました」

「いつもありがたいねえ」

「しょーにんのおっちゃん!」

「おっちゃー!」


 相変わらず、こういう村でも馬車という異物はどうやら十分に村になじんでいるらしい、老若男女、わらわらと出迎える人々が停車した馬車を取り囲む。その光景にコリーニちゃんは未だに若干びびっているようだが、まあ商人の娘なのにどう見ても人見知り入ってるからな。の割に俺にはシンプルに蔑みを向けてくる辺りなんだかなあという感じだが。


 それはさておき、まさか歓談するために来た訳でもなく。

 とくに俺やコロナさんのような護衛とは違って見習い的な意味で連れられているらしいコリーニちゃんなんかは重要な顔見せの機会だ、村人からの興味や慈しみなどの視線の中オーダンさんと一緒に挨拶を交わし、すぐに行商の準備に取りかかる。


 それを手伝っている俺にも奇異の視線が集まるが、まあ普段いない顔だから少し気になっただけだったのだろう、せっせこ働いているとただの下働きだとでも判断されたようで、じきに視線も……ん?


 なにやら一人そうじゃないのがいるみたいだが……あの男は旅人か?どう見ても村人とは思えない、というかがっつり戦士的武装して腰に剣まで吊ってやがる。なんでも屋の支部のないここにいるってことはどうせ身体強化魔法だって使えるのだろう、ははは死ねばいいのに。


 などという邪気が漏れた訳でもないんだろうが、俺が気づいたことに気がつくと、そいつは顔をゆがめてどこぞへと去って行った。なにやら厄介ごとの気配がする顔だったが、まあコロナさんもいることだし俺に危険が降りかかることはないだろう。……まあ、殺人事件の第一被害者枠に収まりそうなモブであることは否定できないから、一応気にはとめておくが。できればワトソンくらいには……いやあの人もあの人で色々あれか。


 さておきそんなちょっとしたことがあったとはいえ、流石にオーダンさんも手慣れたもの、行商の方はつつがない様子だった。コリーニちゃんも、優しい村人達に可愛がられながらも接客をこなしている。

 さすがは商人の娘といったところか。

 などと感心すればするほど、遠くで見てるがきんちょどもがフードを外したコリーニちゃんにどぎまぎしているのを眺めるのが楽しいとか思ってる自分が酷く下らないゴミに見えてくるから不思議だ。いや、まあなんの不思議もないのかもしれないが。


 さておけ。


 そんなこんなで、まあつまりこれまで通りに商売を終えて。

 どうやら今日はここで昼食をいただくらしい、護衛の方も是非とか誘われたら、まあ敢えて断る理由もなく。というか一応護衛なんだからあまり依頼者と離れるのも得策じゃあないだろうし、むしろ食わないとしても傍に控えるくらいの勢いでいくんだろうが。


 なんにせよここでも俺が腕を振るう機会がないということは間違いなく、やれやれこれじゃあ本格的にただのタダ飯ぐらいだよなあと。


 ■


 俺が気を抜いていたせい……だなどと、自分の価値を過大に評価するつもりなど毛頭ないが、それでも今この現状に責任くらいは感じなくもない。

 いや……やっぱそうでもないな。

 多分恐らく、俺の隣で拳を握って血すら滴らせているコロナさんと比べてしまえば俺が責任を感じているなどといえばそれはあまりにも無礼なことであって、それはひどく的外れた同情のようなものであって。


 いやまあ、そんなことはどうでもいいか。


 とりあえず考えるべきはこの状況をどうするべきかということで。

 そしてそれは恐らく俺の出番じゃあないんだろうから、俺は大人しくこの状況におろおろしているとしよう。


 この状況。


「近寄るな!それ以上近づいたらこの娘を殺すぞ!」

「ひっ」


 つまりは冒険者風な彼がコリー二ちゃんを人質にとって刃を向けているという状況。


 ……うん。


 どうしてこうなった。

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