7話 きちんと説明しないと
くぅぅ~~
時間切れです。もう無理。眠気より食い気が勝ってしまいました。ところでここはどこでしょう?客室って感じでもないです。私が寝ていたのもベットでなくソファですし。そして目を開ければ見知らぬお子様4名から見つめられてました。しかも至近距離に同い年くらいな男の子の顔が青い目をきらきらさせてますよ。この子?さっき私の髪おいしそうとか言ったの。
「おひめさま、おなかすいた?」
「すぐご用意いたしますわ。」
少し年上で利発な女の子がいそいそと出ていきました。お恥ずかしい、頼みます。部屋に残ったのは3人の男の子たち。年齢はばらばらだね。1番の年長さんが膝をついて目を合わし2人をやさしく諭します。
「ウィル、ジェノと向こうの部屋に。姫は私がお連れする」
「はい」
ジェノ君はじ~っと名残惜しそうに私の髪を見つつ、2番目に年上なウィル君に連れられて部屋を出ました。残ったのは私とあと一人。ソファに座り直して彼を見つめた。
エドと呼ばれた男の子。年齢はダーシュハルトに近そうだけど色んな意味で違いが大きい。纏う色も相まってとても落ち着いた雰囲気です。額にかかる黒灰色の髪からのぞく濃い青の瞳は普段見慣れたダーシュと真逆の印象で、この差はなんだろう。というか彼は何かを言いたいようです。とても切羽詰った表情で膝をついたままで頭を下げました。もしもし?私3才の幼児ですよ。
「どうか・・・どうか教えてください。『王印』が暴走した時のことを」
そっか、聞いちゃったんだ。さっきの2人のことが心配なのに今まで顔にださなかったのはえらいね。うん、きちんと説明しないと。マラストーリスの姫でなく私『カノアリィ』の言葉で。するりとソファから降りると彼の前に立ち、そっと頭に手を触れる。
「エイドリアン、立ってください」
この時の私には少しも余裕がなかった。だから名を呼んだ声が明らかに子供のそれでなかったことや、その位置が高い所からしたのにも気づかなかった。痛くなるほど目を閉じどんな事実にも耐えようとしたからだ。やさしい声が耳に届き、意味を理解したら全身が歓喜に奮えた。痺れが取れてうっすら目を開けると向かいに立つ人物の足元が見える。
白い薄絹から見えるのは爪先。爪?ぼんやりしていた頭が冴えてきてようやく気づく。ゆっくり顔を上げていくと全体像が見えてくる。着ているのは貫頭衣と呼ぶものだろうか。真っ白で艶やかだ。腰を細い金糸の混ざった紐で巻いている。淡いオレンジ色の巻き毛は長く、身体に沿って腰の細さを強調している。
無心のまま顔を上げると妙齢の女性がいた。心配そうな青の瞳と見つめあう。まだ見たことのない明るい海の色。お互い話すタイミングが合わなくてしばらく沈黙が漂った。すると顔以外の情報にも気づき
「・・・」
「・・・」
(うわっ)
思わずまた頭を下げてしまった。鏡を見ずともわかるくらい自分の顔に熱が集まる。
ただ目が合っただけではない。彼女は少し前かがみだったのだ。身に纏っているのは夜着よりも心もとない衣装だ。
・・・その、うっかり見えそうで。色々とまずい。
「あらあら」と言う戸惑った声と衣擦れで、彼女の戸惑いがわかる。
「びっくりさせてごめんなさいね、こっちの方が話しやすいと思ったのだけど・・・」
だんだん語尾が小さくなり気を使わせてしまったと恐縮するが、ちがう解釈をされたので心までは読めないことに安堵した。今度は慎重に目線を上げないように立ち上がる。身長は同じくらいか。でも体つきは華奢で年は成人したくらいに見える。最初見た慈愛に満ちた表情とちがうが一目で真摯な人となりがわかる。だからあえてこの姿になってくれたのだ。
「いえ、大丈夫です。」
いまだ未熟な自分は深呼吸をして聞く体勢を整える。まっすぐに見つめ話を待つ。姫は「そう?」と首をかしげてこちらを見てる。まだ顔に熱が残っているが気にしていられない。ウィルとジェノを守るためだ。気を引き締めたのがわかったのか、姫は穏やかでいてなお凛とした声音で告げた。
「結論から言いましょうね。ウィルバート王子とジェノス王子の『王印』が暴走することはありません。」
「王伝編集官」よりエイドリアン様のおでまし。
・・・13才、思春期ですかね。自分には食い気しか覚えがないのですよ。