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王女と補佐官   作者: 卵星店長代理


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5話 またお散歩につれてきてくれる?

「そろそろ下が騒がしくなりますね」


 空の滞在は10分ほど。うん、でもダッシュが泣いてそうな姿が想像できる。もう一度ぐるりと一つ色の景色を見渡し海に目をとめた。カストルファン大陸の内海には白い海鳥が舞い、きらきら日を受け止めた水面のその向こう。私が行きたがっているのを察したムイル様に問われた。


「お渡りになりますか?」


「今はまだです。もう少し先。そう学院に入るころかしら」


「仰せのままに。時が来ましたらお連れいたしましょう」


 もうすこし待っててくださいね。・・・様


 再びムイル様の腕に抱き上げられる形をとりながら、ゆっくりと降下する。きれいな、緑豊かな大地を抱きしめているみたい。そう思えてうれしい。にこにこしながら戻った私は、さっきの想像が現実となり笑顔のまま固まった。うあ、ほんとに泣いてる・・・大人びてきていた顔はまるで幼児のごとく泣きじゃくり、それがただ事でない事態であると告げている。


「カノ!僕が飛ぶから!だから置いていかないで!」


 私はダーシュハルトに壊れそうなほどの強さで抱きしめられた。でも感じるのは身体の痛みではなく、彼の震える全身から注がれた喪失感。それを埋めるべくスキルが発動する気配を感じた。私の背中にまわされた右手から熱と脈動・・・


「これは『誓約』!」


 それは右手に王のしるし「王印」を持つものだけが使えるスキル。国を守るために「王印」固有のスキルを使うと誓い、それが神に認められることで「王印」のもつ全てのスキルが開放されるのだ。それがこんな風に感情の乱れで意図せず発動すれば彼の心は壊れる。このままでは「王印」が悪用されないための仕組みが仇となってしまう。私は『誓約』の発動を止めるべく、彼の頭をゆっくりなでながら声をかけた。


「ねぇ、ダッシュ。私は空を飛ぶより、ここでお花を見るのが好き。またお散歩につれてきてくれる?」


「・・・ほんと?」


 彼にとって後半はあたりまえなのだろう。しばらく私の服を涙でぬらして上げた顔には虚ろな瞳。私は彼の顔を両手でつつんで見上げた。その瞳に映る私は我ながらいい笑顔だ。


「だから今は『忘却の眠り』をあなたに」


 その直後、ダッシュの全身から力が抜けそのまま・・・


 お・重い!この体勢で意識なくなったらそーなるか。全体重をかけて倒れてくるダッシュに巻き込まれ、みごとに尻もちつく私。幼児な私に支えられませんね。面目ありませんわ。とりあえずこの件、報告しないと。


「サクリアス様、お爺様とお父様に使いをおねがいします」


「承知しました。彼は自室に運びますか?」


「えぇ、話はそちらでしますとお伝えください」 


 それまで心配そうにこちらを見ていたサクリアス様は、私の指示を受け職務モードになり騎士の礼をして立ち去った。その間、ムイル様がダッシュの下敷きになりじたばたもがく私を救出してくれました。立ち上がり服についた土をぱたぱた叩いて一呼吸。それがため息に聞こえたらしく、ムイル様はほんの少し悪戯っぽく微笑まれた。 


「それこそ、まだ始まったばかりですよ」


 サクリアス様が去った庭園のまだ甘い花の香り漂う中、両手に私とダッシュを抱きかかえたムイル様は音もなく舞い上がる。やはり、先ほどの派手な飛び方は演出でしたか。風を切る音もなく、でもすばやく部屋まで運ばれる。長椅子に横たえられた彼の横には座らず、テーブルを挟んで向かいの長椅子に座った。次々とやってくる人たちがダッシュを着替えさせたりお医者が診ているのをながめつつ、私も濡れた服の替えをもってきてもらい着替えた。そのうち眠ってしまったようです。


 


 目が覚めると室内にはすでに予定していた人たちが集まっていた。両親と祖父母、ヴィル叔父様。あとムイル様とサクリアス様。私の向かいの長椅子に祖父のマラストーリス国王フェルダー。50も過ぎたが壮年と呼べるところはどこにもない。ただ普段ない眉間のしわが、このままだと消えなくなりますよ?と思うほどには見えた。そうそう、最近鼻の下のヒゲを剃ったのは私に頬ずりして思わずいやそうな顔してしまったのを


「え!?初めて見る表情がそれ?」


 と、えらくショックを受けたらしい。威厳が激落ちしたのはヒゲのせいだけなのかは誰も語ろうとしない。こちらをちらちら見るだけで。だってほんとに痛かったんですもの。こほん、失礼。話がそれてしまいました。室内の空気が重かったもので・・・


「お待たせしてしまいました?お爺様」


「かまわんよ。夕食後の茶をしていたところだ。カノもここで食べなさい。」


 お爺様がテーブルにあるベルを鳴らすとワゴンにのった料理が運ばれてきた。今日は白身魚のソテー、マッシュポテト、緑野菜を使ったショートパスタ。デザートはオレンジゼリー。量はともかく、だいぶ大人メニューに近づいてきた。私の専属料理人のヴィクス、彼の努力の賜物です。食べやすく食べきれる量と栄養バランス、毎日食べるとこを観察してるからこそとも言えますね。ありがとう、今日もおいしかったです。ごちそうさま。


「さて、カノ。報告は受けたが仔細を聞かせてくれ」


「『誓約』のことですね。」


「普通ならこのような発動はないはずだが。我らは「王印」の認識にまだ不備があったのだろうか」


「不備ではないでしょう。対象が私だから、ですかね」


 うんうん、うなずく周囲。そこは否定してくれませんかー? 


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