3話 二つあわせると甘いよりしょっぱいですよ
「カノ!おさんぽ行こう。おさんぽ」
あむっと甘酸っぱいマンゴーとクリームチーズのムースを口に入れて、むふふと味わっていたところにダッシュが学院から帰宅。勉強後のおやつタイムだというのに。今、ソファーに座る私の前にははトレー兼ローテーブルに鎮座するおやつ様。使われているのはもちろん母様の名をもつユーク種マンゴー。外部では栽培されていないスペシャルなフルーツです。私でも食べ放題ってわけではないですよ。
「・・・どうぞ」
「いいの!?カノはやさしーね」
だってソファーに座らずに私の正面に直にしゃがんでこっち見てるんだもの。一口くらいあげないと罪悪感がすごすぎです。私の勉強する時間は学院の時間に沿ってるので、彼は授業が終ると同時に文字通り飛ぶように帰ってくる。うっすら汗までかいて、私からおやつをもらう事になにを見出したんだろうね。思えば今日のおやつの盛り付けも子供が食べやすいように平面的になっていて、子供用スプーンがあるのになぜかもうひとつロングスプーンがあった。そして彼は口を開けて待っている。おそるおそるムースをのせて差し出そうとすると
「あーん」
自分で言って口を開けた。はいはい。自分から近づいてスプーンを口にする。それでいいんだね。満足そうだよ。子供用の味付けで酸味も抑えてあるし、甘さも控えめ。さらに風味にお酒も使ってないのに。物足りないより、もらえることがいいんだね。でも飾りのイチゴはあげないよ。
昨日のおやつの2段重ねミニパンケーキも怪しかった。ネコさんの顔がチョコで描いてあって、耳の部分が三角形にあらかじめ切ってあったのね。食事は全てマナーのお勉強でもあるからナイフとフォークで小さく切って食べようとしたとこにダッシュは息を切らせて帰ってきた。お皿の横にはこれみよがしに大人用フォーク。
「カノ、ただいまっ!おいしそーなにおいだね」
「・・・どうぞ」
耳にもホワイトチョコクリームで陰影をつけてるのでそのままフォークでぷすっと差し出す。段取りがよすぎです。ニコニコで食べたあと、「おかえし」と言いながら私にもネコ耳を差し出した。ここで作為を感じるのは私の口には少し大きいということです。2回3回と分けて食べるとお鼻にもクリームが。そしてしょうがないなぁという顔+にやけた目で鼻クリームを指で取って口にした。
ごつん
そんな擬音が心の中でした。はて?とくに痛みはないし、いやな気もしない。だとしたら気にならないということかな。じゃぁスルー。という回想しながらマンゴームースちゃん完食でっす。で、おさんぽでしたっけ。はい、りょうかいです。
私たちの住んでいるところ「離宮」は王族が住まい、賓客が宿泊なさる所です。マラストーリス国の王都には主要な建造物が4つあります。ここ以外は「王城」「騎士団本部」「王立学院」でして、そして騎士団にも4つ種類があります。位置関係は
「離宮」 「王城」
「騎士団本部」 「王立学院」
「離宮」から「王立学院」までの距離は徒歩30分、馬車だと10分。それをダッシュは走って10分かからない。間に民家や商店がないとはいえ、通りがかりでご迷惑かけてないかと心配になります。私がまだ幼いのでおさんぽコースも「離宮」周辺でして。ここはマラストーリスの歴史と見栄のてんこ盛りな場所ゆえそれはもう広大でうつくしいのですよ。まだほかの場所見てないのでわかりませんが。真っ白な壁がまぶしい本館は2階建てで、中央に主塔と四方に小塔が4つあり屋根は鮮やかな青です。
さて「離宮」を一歩出れば色取りどりな花で飾られた庭園があり、・・・あるのですよ。まだ着いていませんが。おさんぽとは部屋を出たらはじまると思ってましたが、「着くまでに疲れちゃうからね」と言ってだっこされました。たしかに外まで遠いですよ、私の部屋は。住んでるとはいえ、謁見室や貴賓室のほうが利用頻度が高いのです。警備面から見ても奥になるのですよ。だから大広間や警備室前を通り抜け、日光を浴びる頃にうとうとするのも仕様なのです。だっこされてゆらゆらゆれると、くゎ~、むにゃ
お花のにおい
風が顔をなでていく
まだまぶたがおもい
あったかくてきもちいい。んにゅ、どこ?ここ。
顔を上げると、おや、ダッシュのおひざをまくらにしてたのね。彼もぐっすりねむってる。私に制服の上着をかけてくれてたから寒くなかったんだ。ここがベンチなのはいいとして、建物はどこだろ。目の前には色とりどりの花たち。オレンジ・赤・白のチューリップと黄色いフリージアを中心に青・紫のパンジー、白いデイジー、ピンク色のフロックス。一言でいえばかわいい花ばかり。後で聞いたらこの場所は、小規模のお茶会ができるガゼポという景観を楽しむ建屋があったそうです。私が生まれたとき、ガゼポを一旦解体してこの花畑を作ってくれたのです。ベンチの背もたれに手をかけて見わたすと人がいました。知ってる。あちらはニコっと笑ったので手をふりました。ちゃんとごあいさつしないと。
お疲れダッシュに上着を返し、そーっとベンチからおりました。その人は3mくらい先にいますが植え込みの先にいるので、今日だけごめんなさい。回り道しないでまっすぐつき抜けます。ガサゴソ枝をかき分けると、また目があいました。ひざまずいて待っていてくれたのです。さすがメドヴィルおじ様のお友達。そしてなぜここにいるのかというと
「こんにちは、サクリアスさま。いつもダッシュについてきてくれてありがとう」
「こんにちは、カノ姫。気にしなくていいよ。卒業したらここが職場になるからね」
「はい、そのときはおせわになります」
黒い髪ときれいな紫色の目。サクリアス・ボールディ、彼はヴィルおじ様とおなじ16才で学院を卒業する2年後に騎士として「離宮」にきます。それは紹介されたときに聞いていたけれど、やはり申し訳ないのです。
「でも毎日わたしのおやつ食べに早く帰るのはたいへんだと思うのです」
「それだけカノ姫がだいすきなのですよ」
「それに・・・聞いたんです、私の贈り物にいきものは大反対したと」
「いきもの」犬猫含め使い魔も使役獣もだめだという。それをかわいがるなら自分がやると。なんだか餌付けしているようにかんじたのは正解でしたか。そして私はついこぼしてしまいました。
「甘やかすと甘える。二つあわせると甘いよりしょっぱいですよ」
*サクリアス・ボールディ 白獅子団団長 25才 メドヴェルの友人
後書きの紹介は1話時点でまとめてますので、肩書きや年齢は合ってないです。
ネタばれという名のフラグでまき餌です。どうか自爆になりませんように。