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王女と補佐官   作者: 卵星店長代理
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1話 補佐官に任命します

 「王伝編集官」の分家として立ち上げました。

向こうで描けない部分も含め、お楽しみいただければと。

 ここは北カストルファン大陸のほぼ中央にあるマラストーリス国。歴史が古く、内海の先にあるアトラドス島にあった世界樹から最初の子株を神子から賜ったことが自慢なくらいに。ただし冷静な第三者がそのときいれば、女神ファディスより「天啓」を授かった神子が、旅立つ事を報告するのに最初に立ち寄ったからだよと言ったかもしれない。史実とは後に美化されやすいものである。


 そのマラストーリス国の王様が住んでるのはお城。4月のさわやかな空に青い屋根の尖塔と白亜の壁がとても眩しい。王様が仕事するお部屋は執務室。そこにいるのは王様と宰相、そしてもう一人。彼らには昼食もそこそこに午後の執務で、急ぎ終わらせなくてはいけない案件があった。長年の友好国、アラスティにて大規模な魔獣討伐が[三大陸会議]と呼ばれる国際機関を通して行われる。この国からも物資・人材を送るための書類が大量にあり、そろそろ白昼夢でも見れそうだと思い始めた頃


 バターーーンと扉が開けられ少女が来襲。ノックも名乗りもない行為による風圧で執務室の机の上にあった書類、公式文書なそれは紙質も厚いのに飛びましたよ。そのときその場にいた人々はのちに振り返る。3人だけの会話で愛情を込めて語る「天災の王女」という呼び名。でも他人様には迷惑かけてませんよ。ほんと。


 とうとう来たか


 いや、教育のせいじゃないぞ


 べつにいいんじゃないかなー


 遠い目をした彼らは自己責任を放棄した。そんな気持ちを気にもせず笑顔の少女。ふわりとした明るいオレンジ色の髪、澄んだ海の青をした目は好奇心でいっぱいだ。背筋を伸ばし堂々とした風貌は12歳とはいっそ大人だと認めなさいよと目だけで押している。そしてこの部屋にいた3人も同じく目で語っている。


 だれが漏らしたんだ


 オレじゃねぇぞ


 そもそもだだ漏れだってー


「そのお役目わたくしに譲りなさいー」


「・・・却下」


「今回はダメ」


「どのみち裏方だから僕でいいんだよー」


 父と叔父2人に凄まれ諭されなだめられ、娘で姪っ子のカノアリィはうなだれた。彼女とてこれ以上の押しはわがままなのは自覚している。ただ友人達が戦うというのに自分がなにもできない状況に割り切れないのだ。それが楽勝であるとしても。


 父、セドリックがやんわり話し出す。


「カノ、知っての通り今回[三大陸会議]では各大陸が均等に人材・物資を提供してもらう。それはその後の利益も均等になるようにとの事だが」


 叔父その1、メドヴィルがばっさりと切り捨てる。


「物資の調整ならまだいい。だが人材は希望者が多くてなぁ。お前を最押しする決めてがない」


 叔父その2、ダーシュハルトが軽~く止めを刺す。


「前線に出れないの、我慢できるかい?行かないほうがいいってー」


 カノがこのほにゃららした叔父ダッシュに子供扱いされるのが、なにより我慢できないのを知ってて言っている。ダッシュがそう思っていなくてもである。8つ上という微妙な年の差のせいだろうか、意識してなくても兄代わりになっていた。その心にあるのは反発心でなく対抗心だ。どう違うかと言われてもそういうものだとしか言えないのだが。3人ともカノがもっと気落ちするかと思っていたが、


「わかってます。・・・失礼しました」


 意外とすっきりした顔をして去っていった少女に3人三様の長いため息。一見わがままを言っていたように見えるが、今の顔と普段の行動からそんな風には思えない。彼女のちぐはぐな行動に理由があるのを知っているから。


「あれから5年か。早いんだか。その前の7年が嘘のようだな」


「完治したとは言えないが、あれでもましか」


「でもさー、これで済むかな?」


 手にした書類を眺めてつぶやく末弟。だれも答えない。それが答えだろう。マラストーリス国の王女カノアリィは生まれてからの7年、ある状態で周囲を悩ませていた。未だに原因は不明だが、笑えなかったのだ。それこそ誕生のその直後から。両親を含めいくらあやしても愛らしい顔に笑みは出なかった。あらゆる医師や魔導士による診察を受け、過去の文献も調べたがまったく変わらなかった。それ以外の成長に関しては問題なく言語・学習能力も優秀で、性格も快活で向上心もありそれゆえ何故という評価がすべてだった。


「カノちゃーん、ほら面白い顔だよー」


「・・・だー」


「反応は悪くないんだけどねぇ、もったいない」


 首も座りだっこもしやすくなると、ダーシュハルトは率先してカノアリィと遊ぶようになった。8才の少年にとってそれは全てであり、人生の命題にすらなっていた。もちもちほっぺをつんつんしたら、くすぐったそうにするのに。そんなかわいいうちのカノがいつのまにか・・・20才にして年寄りくさい感慨にふけるダッシュだった。




 3人は油断しなかった。後日改めて、ノックと名乗りを含め最敬礼の行動をもってカノアリィは執務室に現れたのだ。手には金の縁取りのある書状。それを堂々と見せつけ宣言した。 


「マラストーリス国第2王弟ダーシュハルト、あなたをカノアリィ全権大使の補佐官に任命します」


「よくやった、カノ」


「[三大陸会議」に直談判とか。まったくあの方は・・・」


「ねぇ、俺の意思とかは?聞かないの?」


 

 ―― 登場人物紹介 ――


*カノアリィ    マラストーリス国 王女 王立学院中等部1年 12才


*ダーシュハルト  マラストーリス国 第2王弟 20才


*メドヴィル    マラストーリス国 第1王弟 25才


*セドリック    マラストーリス国 国王 30才


 次回からしばし過去話です。

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