第11話
そっと赤い雫に口をつける。人として禁断だと思われるこの行為。エイトは背徳感と罪悪感に押し潰されそうな心で微かな快感を感じた。
「ごめんな、レイ。ごめんな……!!」
そう繰り返しながら、口に残る後味を堪能してしまっている。そんな自分がとてつもなく嫌に感じた。普通の人なら吐き気で口を抑えるような味が、エイトにとっては甘露のように心身に染み渡る味だった。
1度口にしたらもう我慢はなんの意味もなさなかった。貪るように、レイの指を口に含む。舌で細い指をなぞると、くすぐったそうにピクリと指が跳ねた。
口いっぱいに甘美な味が広がると、思わず甘い吐息が漏れた。鼻で呼吸するたび、独特な鉄のような匂いがエイトの心を甘く鋭く刺激した。
なのに、心の中は絶望に支配されている。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!無力感で涙が溢れ、頬を伝いレイの腕に落ちた。
その瞬間、レイの瞳が開いた。レイの、その澄んだ瞳が最初に映したものは、嗚咽を漏らし、謝罪を繰り返し、絶望に染まった瞳をしながらも、レイの指に吸い付くエイトの姿だった。
レイは一瞬驚きに凍りついたが、すぐに優しい目つきになって、エイトの頭を撫でた。
「いいんだよ、エイト。我慢しないで……?」
やめろ、やめてくれ……!そんなに優しくされたら、許してくれたら、壊れてしまいそうだ……!いっそのこと突き飛ばして、俺を本気にさせて、そのナイフで突き殺してくれよ!!
どうして、そんなに優しいんだ?どうしてこんな俺を許す?どうして、どうして??
「エイト、ボクのこと助けてくれたんでしょ?なら……いいよ?」
そういってレイはニコリと微笑む。人の心を癒やす笑みだった。急に自分がしている事が馬鹿らしくなって、そっと口を離す。糸を引く唾液が、自分がいかに必死だったかを物語る。……俺、結構キモいな。自嘲するような笑みが自然と零れた。