第7話
エイトが目を擦りながらやってくる。ヨウの姿を捉えると、少し目を見開いて、レイに話しかける。
「なあ、レイ。……誰?」
「あ、あぁ。こちらはよっちゃん。さっき会ったんだ。ね!」
ヨウはコクコクと高速で首を動かし、口をパクパクさせる。レイはヨウにもエイトの紹介をした。……ほんのり頬が赤いようだ。
「なあレイ。よっちゃん?て言うのか?そいつも熱あるんじゃないのか?」
エイトはヨウに近づき、腕を握りツリーハウスの裏に連れてゆく。そこには、寝る前にエイトが準備していた朝ごはんである木の実が置いてあった。そして、3つに分けてある中の1つ、つまり自分の分を渡した。
「エイト!それ、エイトの分…」
と言いかけて口を噤む。エイトのこういう所は優しさであり、見ず知らずの人にも分け与えることができる、そういうエイトが好きだから。でもなんでだろう、胸がモヤモヤするような。
「エイトくん、ありがとう!」
ヨウは太陽のような笑顔でお礼を行った。エイトも少し照れくさそうに微笑んだ。2人は本当にお似合いだ……。レイは見た目だけだが、そう思った。
口が悪くて鈍感で、だけれども内に秘めた優しさが滲み出している、月の精霊のようなエイトと、存在だけで周りが明るくなるような、のほほんとしていて、柔らかで、そばかすが可愛い顔の太陽の妖精のようなヨウ。2人は本当に綺麗だった。
木の実を食べ終わると、再度ヨウがお礼を言って、急にエイトに抱きつく。身長差があれど、ヨウの肩越しから見えるエイトの顔は驚きに固まったまま真っ赤なっていた。
ずるいなぁ……。ボクは男の子だから抱きついたって、エイトは動揺するだけでドキドキはしないだろう。振り向いてくれないならいっそのこと、襲ってしまおうか。
……ってイヤイヤイヤ!何考えているんだボク、そんなことしたら嫌われる……、それどころではない、エイトに傷を負わせてしまう!なんでボクは男の子なんだろう……。
皆見た目しか見ない、ボクは見た目から皆に笑顔を向けられる。記憶の中では、いつも祈りの対象になる。ボクは微笑んでるだけで良かった。皆が見ているのはボク、Lucas Aznavourではなく、神の御使い様、なんだから。
しばらくして、エイトが戻ってくると、2輪の花を持っていた。青い薔薇、そして、イリス。青い薔薇の花言葉は奇跡、イリスの花言葉は……あなたを愛す、大切にする。恋のメッセージ。イリスはボクの国の王家の花……だった気がする。
って、なんて大胆な告白ッ……。びっくりだよお……。
「なぁレイ、これって青い薔薇だよな?こっちは……アイリスか?」
「そうだね、あってるよ!」
精一杯の笑顔で笑う。心の中のモヤモヤは大きくなってきているけれど、悟られたくない。そんなのは嫌だ。気を使わせたくないし、そんな愛なんていらない。……欲張りだなぁ……。
突然エイトの手がボクの頭を撫でる。今度はエルじゃなくて、ボクとして撫でてくれた。暖かな手が頭を何回か往復して、後頭部に滑ったかと思うと、いきなりエイトの胸に頭を押し付けられた。そのまま花を持った左手で背中を抱きしめられる。
嬉しいのと、後ろめたいのとがないまぜになって、思わず涙が零れそうになるのを堪えた。
「ごめんな、1人にして。」
「いいよ、エイト。そんなにしなくても。」
冗談混じりに言ったその一言にハッとする。声が震えている。これじゃあ大丈夫なんて言葉は少しも説得力がない。頭にエイトの頬が当たるのがわかる。ここからだとエイトの顔が見えない。なんだか損した気分だなぁ……。