信頼
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「なるほど、開始時刻は一週間後の十時。場所はアレナ闘技場、フィリアノール転移魔法陣を使った特別ステージですか。さすがは四季高ですね。学生間の戦闘一つで転移魔法陣を使うんですから」
「別世界フィリアノール、事前に場所を調べる事は不可能ね。神白家でもフィリアノールのことについては殆ど知らされていないわ。もちろん行くことも禁止されてる」
放課後、俺は夾竹桃炎将と交渉し、開始日時を一週間後にした。一週間後にしたのはそれまでの相手の情報を調べる期間が必要だと思ったからだ。
因みに個人でのポイントを賭けた戦いは両者の合意が必要だが、クラス間戦争に関しては一方的に相手に対して仕掛けることができる。しかし仕掛けてから三ヶ月間は再度他クラスに対してクラス間戦争を仕掛けることはできない。
神白は少し緊張したようすでソファーに座っている。男の部屋に来るのは初めてなのかもしれない。まぁ俺も女性を部屋に連れ込むのは初めてだけど。とりあえず珈琲と紅茶とジュースを用意したけどよかったのだろうか。
「フィリアノールの情報は一切口外されてませんからね。別世界への干渉は一部を除いて禁止されてます」
「仕方ないわね。それで、作戦とかあるのかしら。私を呼んだってことは、何か話したいことがあるんでしょ?」
神白が視線をコチラに向けてくる。視線を返して怯えられたら立ち直れない気がするので、視線をテーブルに置かれた珈琲に向ける。
「対戦形式は一対一だ。作戦は各々が考えろ、と言いたいが、Dクラスの大将は夾竹桃で確定だろう。対戦ステージは砂漠地帯。奴は俺が大将として出張ってくると考えてるんだろうな」
俺の言葉に二人は疑問符を浮かべる。もしかして俺が大将戦に出ると思ってる?もちろん戦闘は避けたいけど夾竹桃の相手をするのはもっと嫌だ。怖すぎでしょ。棄権なんてしたらあとで殺されそうだしね。
「嶺二くんが大将じゃないのかな?」
「交渉に応じた者が必ず大将枠として出るわけじゃない。それに俺は奴と戦うなど一度も言っていない」
「あれだけ煽っておいてよく言うわね」
神白が呆れたような顔をしているが知ったことじゃない。
「じゃあ誰が夾竹桃と戦うんだい?僕も夾竹桃の情報を集めてみたけど、化け物みたいな情報しか出てこなかったよ。曰く子供ながら夾竹桃家次期当主を倒したとか、大木を竹刀で両断したとか、まぁさすがに後者は嘘だろうけどね」
大木を竹刀で両断って、本物の化け物じゃないか。
「奴の評価などどうでもいい。所詮は盛りのついた犬だ。御すのはたやすい。故に神白、お前が大将として奴と相対しろ」
神白は驚いた表情でコチラに目を向ける。神白は嫌かもしれんが、俺も嫌だぞ。俺が戦うように見せかけて騙したわけだし、怨まれてたら最悪だ。
本当は大将戦までに3勝して戦わずに勝ちたかったけど、夾竹桃が怖すぎて無理です。適当なところで言い訳しながら棄権しようと思います。それに神白なら夾竹桃にも勝てるというのもある。夾竹桃の戦いを見たわけではないが、神白は俺に睨まれても平静を保っていたからな。
それでも目を合わすのは怖いけど…。
「言いたくは無いけど、私は炎将に一度も勝ったことが無いわ。それでも私を大将に据えるというの?」
「だから何だ?言ったはずだ。お前は狩られる側の豚ではなく、獅子であると。
狩れなかったのならば、次はその牙で奴の喉元を抉るために研げばいいだけの話だ」
「…わかったわ」
神白はそれだけ呟いてソファから立ち上がって部屋を出る。思い悩んでいる様子だったし、一人で考えたいこともあるのだろう。
「彼女は大将で決定だね。他は赤百合くんとカミツレくんが出るとして、あと2人はどうする?」
「影兎、お前はどうだ?」
「そうだねぇ、戦えないことはないけど、少し相性が悪いかな。出て欲しいと言われれば出るけど、僕が一番力を発揮できるのは団体戦とかだと思うし、今後のことを考えると、まだ知られたくないかな」
「…そうか、そうだろうな」
初見って重要だもんなぁ。この戦いで全てを見せてしまうと今後のクラス間戦争の時に対策されてしまうわけだし、情報を出し過ぎるのも危ないな。そう考えるとカミツレは出さない方がいいかな。いや、でも負けることは許されないわけだし…。
「はぁ、あのクラスに人語を解せる者がどれほどいるか…」
「今日も赤百合くんの言葉は鋭利で恐ろしいね」
仕方がないだろう。豆腐メンタルを守るために生まれた虚栄心という鋼の鎧はそう簡単に壊れない。自分を守るために悪口で他者を攻撃する事で心の平穏を保っているのだ。うん、最悪だわ、俺。
「使えそうな豚はいるのか?」
「今回は単純な戦闘力がモノを言う戦いだからねぇ。いるにはいるけど、突出した人はいないかな。武家に生まれて幼い頃から竹刀を振ってる神白さんとか一匹狼として不良グループを潰して回ったカミツレくんと同等に戦える人なんていないよ」
やっぱり2人は別格なんだなぁ。
「あとは入学式に渡された武器の性能だけど、これは能力を隠してる人が多いから判断できないね」
ふむ、難しいところだな。この学園はクラス間での戦闘もあるがクラス内での個人戦闘もある。今後のポイント獲得を考えて情報を渡したくないと考えるのは当然だろう。
「まぁ、戦略的に隠していると言うよりかは気に入らないから教えたくないだけだけの人が大勢いる感じかな。ほら、僕達のクラスって元暴走族でやんちゃしてましたって人が多いから」
元暴走族とは言ってもあの態度を見るに更生したわけではないのだろう。影兎が言うには、警察に捕まり入れる学校が無かったりとか親に無理やり入れられるパターンが多いらしい。
「度し難いな。影兎、少しでも可能性のある奴に声を掛けておけ。期待はしない」
「ははっ、了解。それで、彼女はどうするんだい?
君は勝てると言ったけど、実際彼女はそうとは思ってないみたいだね」
「獅子にも、調教が必要か…」
「どうするんだい?」
「神白の試合映像を入手できるか?」
武家の生まれなら疑似戦闘試合には参加しているだろうし、神白家の娘ならば有名な試合には多く出ているだろう。それらの試合を見てアドバイスできそうならしてみよう。まぁ、素人からのアドバイスなんて必要ないだろうけど。
「でもまぁ、勝てるだろうな」
ポツリと、影兎には聞こえない声で呟く。根拠は無いけど、そんな感じがするのだ。
「うーん、できなくはないけどポイントが欲しいね」
「ならば必要なポイントを渡しておく」