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能力値検査?

 教壇に立った女性の先生が、パンと手を打った。


「それでは最後に、皆さんには能力値検査を受けていただきますね。それが終わりましたら、一度この教室に戻って貰って解散になります」

「能力値検査?」


 八尋が聞き慣れない単語に首を傾げると、すかさず隣に座った桜花が耳打ちしてくれる。


「身体能力や『霊装』の力、状況判断能力などを数値化するそうです。生徒たち同士でパーティーを組むための指標になるので」

「ああ、そういう」


 八尋は頷いた。


 桜花が今口にした『霊装(れいそう)』。


 それは契約者が契約者足るための力。精霊を使役し、超常の力を振るうためのツールだ。


 そもそも契約者は精霊魂という石と共に生まれるのだが、その精霊魂こそが、霊装になる種である。契約者の血肉をゆっくりと伴い、契約者のためだけの形を作っていく。


 契約者は、その霊装に『霊力』という精神エネルギーを込めることで、力を発揮するのだ。


 霊装の力こそが、契約者の力と言っても過言ではない。


 鬼神の胸を貫いた剣も八尋の霊装である。


(けど霊装の種類っつったって、色々だしな。一体どんな風に数値化すんだろ)


 そんなことを疑問に思いつつ、八尋たちは測定の為に移動し始めた。


 その後しばらく待つと、八尋は六畳くらいのブースの中に通される。どうやら一人一人の計測時間はさほど長くないらしい。


「次は君か。学生証を出してくれるかい?」


 ブースの中で待っていた中年の男性に促され、八尋は学生証を渡す。


「‥‥センドウヤヒロくん、ね。それじゃあ計測を始めるから、霊装を出してくれるかな」

「分かりました」


 八尋は頷くと、掌を上に向けて差し出すと、霊力を込める。


 瞬間、光の粒子が収束し、八尋の手の中には一本の銀のナイフが置かれていた。


 霊装は精霊魂を核として構成されるが、その実自身の肉体の一部という認識が一番適している。そのため普段は契約者の身体そのものが鞘として機能しているのだ。


 そして八尋が自らの霊力を用いて顕現させたナイフ。


 いや、ナイフというにもおかしな形状だ。柄はなく、細長い菱形で、どことなく機械的なフォルムをした刃。どちからと言えばスローイングダガーに近いかもしれない。八尋はこれを『機片(きへん)』と呼んでいた。


「それが君の霊装かい?」

「はい、一応名称は『アンリエル』って言います」


 基本的にこのナイフ一本は機片でしかないが、総じた名称があるのである。


 そうかい、と男性は頷いた。


 霊装はその存在を固定化するために、名を付けるのが普通だ。八尋自身霊装を使い始めてから勝手に浮かんできた言葉を名前にしただけなので、意味は分からないのだが。


「それじゃ、霊装をそこのトレーの上に置いてくれるかな」

「はい」


 男性が示したのは黒いトレーだった。


 八尋は言われた通り機片をそこに置く。


「その後は、霊力を込められるだけ込めてくれ」

「はい?」

「いやだから、霊力を込められるだけ込めてもらってもいいかな?」


 男性教諭の言葉に、八尋は何の意味があるんだと思いながら機片に霊力を流す。


 とはいえ、機片自体はへぼっちいものだ。込められる霊力量なんてたかが知れている。


「‥‥あー、じゃあ次はそこにメーターがあるだろ? 今からそこに規定の値が出るから、それにあった霊力を流してくれ」

「はあ」


 なにやら難しい顔をした男性教諭の言葉に頷いて、八尋はそのメーターに沿う用に霊力を流した。これは子供でも出来る位簡単なものだ。


「じゃあ最後に、これは見た所攻撃用の霊装だよね?」

「そうですね、一応防御も出来ますけど」

「それなら、これで君の検査は終わりだ。‥‥まあ、なんだね。これはあくまでパーティーを組むための簡単な目安ってだけだから、あまり気落ちしないように」

「‥‥ありがとうございます」


 なんで俺は慰められているだ? と思いながら八尋は結果の書かれているらしい紙と学生証を受け取る。どうやら学生証にも結果を登録したようだ。


 そして、男性教諭が憐れんだ眼を向けてきた理由が分かるのは、すぐのことだった。




「お、桜花ももう終わってたのか」

「‥‥八尋さん」


 教室に戻ると、既に桜花が座っていた。


「なんだか、よく分からない検査だったな。桜花はどうだった?」

「そうですね、あくまで目安という話でしたし、さほど重要な物でもないのかもしれません。‥‥私はこのような結果でした」

「かもなー。‥‥どれどれ」


 八尋は桜花に差し出された紙を開く。


 そこには、『最大霊力量:A 霊力操作性:A タイプ:ヒーラー』という簡素な文字が書かれていた。


 上記二つが、よく分からなかった検査の結果なのだろう。最後の問いが、霊装の出来ることによって冒険者としての素質をカテゴライズしたものらしい。


「ふーん、こんな風に書かれてるのか」

「‥‥八尋さんはまだ見てないのですか?」

「ああ、検査の意味を考えてたら忘れてた」


 八尋は改めて検査結果の紙を取り出し、桜花も見えるように開く。


 タイプがアタッカーというのは当然として、霊力操作性も桜花と変わらないAだ。


 しかし桜花と大きく異なるのが、


「最大霊力量、E‥‥?」


 八尋は思わず紙に書かれた内容を呟いた。


 いやでも、普通に考えたらそりゃ機片一つだけの最大霊力量だ。恐らくほぼ最低評価のこれも納得がいく。


 そういうことだったのか、これは明らかにやっちまったな、と八尋が額に手を当てようとした瞬間だった。


 その声が後ろから響いたのは。


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