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 レビウムの街並みは、その特殊性とは打って変わって普通の都市とよく似ていた。しかし中心部に近づく程、いち早い生活基盤づくりが行われた二百年前の名残からか、巨大なものや背の高い建造物は少なくなり、簡素な建物が多くなる。そもそもこのレビウムには資格有る者、すなわち契約者しか立ち入ることが出来ないので、あまり人手の必要な建築が出来ないという面もあった。


「それで、ここが俺の住所‥‥であってるよな?」

「はい、間違いありません」


 疑問形で呟いた八尋の問いに、桜花が答えた。


 ただ八尋はそれでも納得が出来なかった。何故なら、


「‥‥一軒家に見えるんだけど?」

「一軒家ですから」


 そう、八尋たちの目の前にあるのは、さほど大きくはないが二階建ての一軒家だった。てっきり八尋はアパートの一室のようなものを想定していたのだが。


「では入りましょうか」

「え、入るの!?」

「‥‥それは、そのために借りたものですし」


 そりゃそうだ、と八尋は納得する。


 支援してくれるとは聞いていたが、まさか一軒家とは‥‥。戸惑いつつも八尋は桜花に続いて家に入る。


 中は一階にトイレ、バス、と一室。二階はリビングとキッチンに、もう一室という構造だった。


 大体必要な物は揃えておいたという善十郎の言葉通り、家の中には既に家具も持ち込まれており、生活するのに不足ない状態になっている。


 そこで、八尋はある重大な事実に気付いた。


 予期せぬ一軒家、そして善十郎に持ちかけられた提案、それらが脳裏を駆け巡る。


「‥‥なあ桜花」

「どうかしましたか?」


 キッチンの具合を無表情で確かめていた桜花に、八尋は静かに聞いた。


「もしかして、桜花も‥‥ここに住むのか?」


 すると桜花は表情を少し硬くし、


「そうですが、それがどうかしましたか?」


 ――いやどうかしましたか、じゃないだろ。


 八尋は思わず叫びそうになった言葉を飲み込む。


 いくら世間知らずの八尋とはいえ、年頃の男女が一つ屋根の下に住むのが異常だってことくらいは分かる。


 そのための婚約だろうが、それにしたって桜花は嫌々のはずだ。


「その、それでいいのか? 桜花は」

「元々同じ家に住んでいましたし、別段問題はないかと思います」

「そうか‥‥そう考えると確かにそうだな。いやでも、やっぱり十五歳の男女が同じ家ってのも、落ち着かないんじゃ」

「問題ありません、私たちは‥‥婚約者、ですから」


 婚約者というフレーズに、一瞬止まる八尋。


「‥‥確かに、婚約者、だもんな」


 八尋は、そう自分に言い聞かせるように唱える。


 大体、八尋は桜花を姉弟のように思っているのだから、同じ家に住んでも問題ないと言えば問題はない。ないったらない。


「では、私は一階の部屋を頂いてもいいですか?」

「あ、ああ、どうぞ」

「分かりました、では少し荷物を置いてきます。八尋さんも確認して不足している物がないか確認しておいてください」


 八尋はこの状況でも一切動じない桜花に若干の安心感を覚えつつ、自分の部屋へと引っ込んだ。


 そこにはベッドとクローゼット、机など、一式家具が揃えられている。元々私物の少ない身としては、寝る場所さえあれば他に必要なものはない。


 八尋はカーテンを開けると、外を見た。そこにはこれまで過ごしてきた野と山の緑とはまるで違う景色が広がっている。


 鬼神を殺してからぽっかりと空いた胸の穴は、まだ埋まる様子はない。ハーレムを作りたいとは言ったものの、本気にはなれていない状態だった。けれどここでなら、何かこの虚無感を埋めてくれるものがあるかもしれない。


 八尋は窓から見える天理の塔を見据え、そんな予感を抱いていた。



     ◇ ◆ ◇



 自室となった部屋に入り、扉を閉じた桜花は一息ついた。


 その表情はこれまでとまるで変わらない無機質な表情だ。


 桜花は八尋と違って私物もそれなりに送ってきているので、段ボールに詰められて廊下に置かれたそれらを、はやく部屋に運び込まなければならない。


 けれど、そうすることも出来ずに桜花は顔を両手で多い、膝から崩れ落ちて丸まった。


「―――――っ!!」


 両手の指の隙間から覗く桜花の顔は、真っ赤に染まっている。


 ――婚約者。


 八尋の口から出た言葉の響きを思い出すだけで、胸が高鳴って頭がボーっとなる。


 そのまま横に倒れた桜花は、バタバタと足を動かした。


「‥‥八尋さん」


 意味もなく、名前を呟いてみる。


「―――――っ!」


 そして足をバタバタ。




 姫咲桜花は、仙道八尋が好きだ。



 

 それは家族愛ではない、男女の恋慕。


 感情が昔から表に出にくく、長い間一緒に過ごしてきた八尋にさえ悟られることはないが、実を言えばこのレビウムに来た時から、いや、婚約者としてお見合いをした時から、内心では心臓が破裂するのではないかという程に胸を高鳴らせていた。


 八尋は桜花にとってはヒーローだ。誰よりも強く、誰よりも頼りになる一番身近な男性。惚れるのもある種当然の話だった。


 実を言えば、八尋が婚活のためにレビウムに行くと聞いて、桜花は一晩羞恥と勇気の狭間に揺れ続け、最終的に善十郎に八尋の婚約者にしてくれと頼み込んだのである。


 これは八尋にも言った通り、不本意な形だ。本来は自らの想いを自分の言葉で伝え、八尋に受け入れて欲しい。


 しかし八尋の決断はあまりにも突然で、元来恥ずかしがり屋の桜花には、とてもとても告白するだけの覚悟が出来なかった。


 ただ、何とかそれだけは八尋に伝えることが出来た。あれが桜花にとっての精一杯だったのである。それがちゃんと伝わっているかどうかは置いておくにしても。


「‥‥これから二人きり」


 桜花は先ほど、これまでも一緒に暮らしてきたのだから問題ないと言ったが、そんなわけがない。


 姫咲家は本家の人数だけでも相当な人数になるし、分家の人も結構出入りするので、大きな家はいつも賑やかだ。


 そんな家から、この小さな家に、八尋と桜花の二人きり。しかも婚約者というお墨付き。


「‥‥大丈夫かしら、私」


 緊張でそのうち死ぬかもしれない。


 いや、と桜花は首を横に振る。


 今からそんなに弱気でどうするのか。八尋はこのレビウムに結婚相手を探しに来ているのだ。婚約者という立場であれ、なにもしなければ捨てられてしまうかもしれない。


 最も近い位置で、最も長い時間を共に過ごせるというアドバンテージを活かし、なんとしても関係を発展させてなければならないのだ。


 ふんっ、と気合を入れ直した桜花は、まず菫によって磨かれた家事力を見せつけるべく、掃除用具を探すところから始めた。


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