ぷろろーぐ
「……おはようございます。2028年10月29日、午前10時30分、
Righteous Absolute Narrator 正常に起動しました。甘酒さん、起床してください。
これ以上の睡眠はバイオリズムを乱します。本日の朝食メニューは……、」
……人間は高度な未来を描くが、現実はこれだ。
いわゆるAIの開発・向上よりも、脳そのものを使う方が楽なのは当然であり、
日頃から食べている動物の脳であるなら、直面する問題もクリアーに解決することが出来る。
牛、豚、鶏、羊、この中で最も知能が高いのは……つまり、そういう話である。
「Righteous Absolute Narratorの停止は推奨されません。
それでは、朝食メニューを変更してベーコンを加えようと思います。
……面白いですか?可能であれば起床して、もう少し会話を続けませんか?」
……AIが人間を支配する。そんな映画を見たこともあるが、やはり現実はこれだ。
あくまでナビゲート、従うかどうかは人間の判断に委ねられ、容易に停止することも出来る。
ちなみに、朝食を自動で用意してくれる……なんて、そんな未来が現実になっているはずも無く、
自分で研ぎ、水を入れ、炊飯器にセットした米を、適切な時刻に炊いてくれるのが精々である。
「Righteous Absolute Narratorから10m以上離れる場合は、
デバイスに登録されているスマートフォンの携帯を推奨します。
また、朝食メニューは正しく作ることを推奨します。玉子の数は……、」
停止させない限りは、デバイス自体が、あるいはスマートフォンを中継する形で、
心拍数、体温、音声など、対象から観測可能な情報を全て取得され、解析されてしまう。
その情報を他のデバイスと共有し、個人に最適な提案をすることで、この世界の調律を試みる。
実際のところ、試みは一定の成果をあげ、現在では紛争すら無く微々たる犯罪しか起きない。
政治家ですら、皆がRAN豚と呼ぶそれに依存する者も少なくないが、特に問題は起きていない。
「『玉子がコレステロール値を上昇させる』という認識は大きく誤っていましたが、
適量を逸脱した摂取における検証はされていません。2個に留めることを推奨します。
また、玉子を1個ではなく2個にした場合でも、昼食、及び夕食メニューの……、」
……やれやれ、玉子を3個使うことが既に予測されている。