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第七十二話「ラサラスの実力」

 子供達を連れて出口から出た瞬間、観客達が一気に立ち上がり、熱狂的な拍手を贈ってくれた。俺の一次試験通過を祝福してくれているのだろう。司会の男性が杖で声を拡声して試験の終わりを告げた。どうやら俺が最後の受験者だったらしい。


「アドリオン最強の冒険者ギルド・ラサラスのギルドマスター! 剣鬼、クラウス・ベルンシュタインが救出した子供の数は三百五人! 何と驚異的な人数でしょうか! たった一人の子供も守れない受験者が多い中、受験者達が見捨てた子供まで救出しながら出口を目指し、魔物を狩り続けて遂にゴールしました! レマルクの英雄、剣聖、クラウディウス・シュタインの二百三十人を大きく上回る受験者が現れたのです! 流石、アドリオンが誇る最強の冒険者! これが国家魔術師、レベッカ・フォン・ローゼンベルグが育てた冒険者の力なのか!」


 司会の男性が俺を称賛すると、再び熱狂的な拍手があがった。観客席からはレベッカさんをはじめとする仲間達が手を振っている。俺はデーモンイーターを掲げて仲間達に微笑むと、会場は大いに盛り上がり、子供達は俺に深々と頭を下げてから消えた。グラーフェ会長が作り上げた幻影だとしても、人間にしか見えない相手を見捨てる事なんて出来ない。


 それに、やはりクラウディウスさんは俺と同じ考えを抱き、子供達を救っていたのだ。一次試験を終えた受験者達の控室に入ると、ヴィルヘルムさんとクラウディウスさんが俺を抱き締めてくれた。


「三百五人の子供を救ったって? 全く、クラウスはなんて強さなんだ。俺は百五十人しか救えなかったぞ」

「私を遥かに上回るとは、流石私のマスターというところだな。私はクラウスを誇りに思うぞ」

「ありがとうございます。クラウディウスさん、ヴィルヘルムさん。三人共無事に通過出来て良かったです!」


 ヴィルヘルムさんは魔力を大量に消費したのか、控室に備え付けられているマナポーションを飲むと、部屋の隅に座って受験者達を眺めた。一次試験では三百名ずつ受験者を分けて試験を行うが、二次試験は全ての受験者が同時に会場に入るらしい。一次試験を通過して満足した冒険者の中には、試験を放棄して控室から出る者も多い。


 二次試験を通過する自信がないのだろうか。一次試験で幻獣が出なかったという事は、二次試験で幻獣が放たれる可能性が極めて高い。一次試験で子供を死なせたり、子供を見捨てて保護せずにゴールした冒険者達が一気に落脱した。それに、俺の予想よりも遥かに多くの冒険者が命を落とした。やはり国家魔術師を目指すという事は命懸けなのだ。試験に合格して国家魔術師になれば、王国の最高戦力として地域を守りながら暮らす事になる。


 もしアドリオン以外の辺境の村や町の防衛をする事になれば、自分一人で数万人、数十万人の民を守らなければならないのだ。勿論、冒険者や衛兵の力を狩りながら都市を防衛する事になるが、自分の判断で民を守る事になる。合格者五名という最難関の試験は、やはり一筋縄ではいかない様だな……。


「クラウスは一次試験の本質に気がついたのだな」

「一人ではなく、全ての生存者を救う必要があるという事ですか?」

「そうだ。国家魔術師は民を守る王国の最高戦力。試験官が一人を救えと言ったから素直に救う様では二流の冒険者だ。一流の冒険者は全ての生存者を探し出して救う。国家魔術師になればそれが当たり前なのだからな」

「そうですね。俺達は冒険者ですから、全ての生存者を救えと命令されなくても救ってたり前だと思います」


 俺達の言葉を聞いた冒険者の中には露骨に睨みつけてくる者も居る。恐らく一人しか救わずに、魔物から隠れていた子供達を放置してゴールした者だろう。俺とクラウディウスさんはヴィルヘルムさんの隣に座り、闘技場に続く扉を見つめた。きっと今頃ティファニーとリーゼロッテさんが廃村で奮闘しているところだろう。


 それから暫くして二人が笑みを浮かべながら控室に入ってくると、扉の奥から熱狂的な歓声が聞こえた。リーゼロッテさんは百四十人、ティファニーは二百七十人の子供を救ったのだとか。俺達は二人の一次試験通過を祝福すると、控室にはグラーフェ会長が入り、三十分間の休憩の後、二次試験を開始すると伝えた。


 ティファニーは俺の隣に力なく座り込むと、俺の手を握って微笑んだ。五人全員一次試験を通過出来た事が嬉しい。やはり俺の仲間達は最高だ。離れていても全く同じ考えを抱き、子供達を連れながら魔物を討伐し、見事守り抜く事が出来たのだから。


「私、試験の最中に、クラウスならどうするだろうって考えたの。きっとクラウスなら全ての子供を救う筈だって気がついた。だから私は子供達を探し出して魔物を狩り続けたの」

「試験の最中にも俺の事を考えてくれていたんだね。嬉しいよ。ティファニー」

「ええ。正直に言えばいつもクラウスの事ばかり考えている……クラウスを好きになった時からね。だからもっと強くなりたいと思うの。クラウスを、みんなを守れる最強の国家魔術師になりたいから」

「いつもティファニーの強さに支えられているよ。ありがとう」


 俺とティファニーは強く抱き合うと、高ぶっていた精神は落ち着き、何とも言えない心地の良さを感じた。やはり俺はティファニーの事が心から好きなのだろう。ずっとティファニーと共に冒険者として活動したい。試験に合格したら、国家魔術師として王国を防衛しながら暮らしたい。


 忌々しい魔王を仕留め、大陸が真に平和になった時、彼女に結婚を申し込もうか。流石に交際すらしていないのに、気が早すぎるだろうか。だけど俺はティファニー以外の女性との将来は考えられないのだ。こんなに強くて優しく、美しい女性は居ない。勿論、レベッカさんはティファニーを上回る強さを持っているが、俺はティファニーの事が好きなのだ。


「今日の結婚式、楽しみね! 私達もやっと付き合えるんだから」

「そうだね! 遂にティファニーと付き合えると思うと何だか無性に嬉しいよ。ずっとこの日を待っていたから。エルザにも両親にもティファニーの事、皆の事を紹介したい」

「付き合っていなくても毎日一緒に居るから、交際している様なものだけどね」

「確かにね。まずは二次試験を高成績で通過しなければならない。ティファニー、俺は一位で合格したいから、本気で魔物を狩りに行くよ」

「勿論、私も一位を目指す。クラウス以上に魔物を狩ってみせるわ!」

「暫くの間はライバルだね」

「ええ。どちらが多く魔物を狩れるか勝負しましょう」


 俺とティファニーが固い握手を交わした時、グラーフェ会長が現れた。


「二次試験の説明をする! 二次試験は一次試験の様に複雑なテーマがある訳ではない。既に気が付いている者も居るだろうが、一次試験は廃村内に居る全ての子供を救出しなければならなかった。試験に合格するために、たった一人の子供を見つけて安心し、ゴールを目指した者は国家魔術師になる資格はない。自分の合格ではなく、守るべき市民を一人でも多く見つけ出し、命を懸けて魔物と戦った人間こそ最高の冒険者と言える! 勿論、資格はないと言ったが、ここに居る者は全て一次試験を通過している。ただ、私や国王陛下が求める最高の冒険者ではない事は間違いない」


 グラーフェ会長の言葉に激昂した冒険者は剣を抜き、グラーフェ会長に向かって切りつけたが、彼は次の瞬間、冒険者の背後に立っていた。それから杖を頭上に掲げると、グラーフェ会長の幻影が十体現れた。


「さぁ、私を見つけ出して殺してみるかね? たった一人の子供しか救う事が出来ない、自分の合格しか頭にない愚かな冒険者よ。試験の本質も見抜けない者が、市民を見捨ててゴールを目指す者が民を守る国家魔術師になれるとでも思っているのか?」

「うるせえ! 一人守れば良いって言ったのはお前だろうが! 受験者を嵌めたのか!」

「全く愚かな男だ。剣の技術も未熟、魔力も弱い上に暴力的ときたものだ。剣鬼や剣聖を見習ってもらいたいものだな」

「何が剣鬼だ! 俺が最強の冒険者になるんだ!」


 男が大きく剣を振りかぶって攻撃を仕掛けると、グラーフェ会長の杖が男の顔面を捉えた。全ての幻影が次々と杖で男を殴ると、男は力なく倒れた。それから闘技場の職員が現れると、男を拘束して控室を出た。


「受験者諸君は何か勘違いをしているのではないか? 国家魔術師とは民を守る力。時にはかの偉大な国家魔術師、ベル・ブライトナーの様に、自分の命を魔力に変えて防御魔法を展開し、魔物の襲撃から都市を守る事にもなる。試験に合格すれば魔王討伐作戦に参加して貰うと伝えた筈だが、一次試験を投げ出して逃げ出す者、一次試験通過後に二次試験を放棄する者があまりにも多い。もう一度言うが、国家魔術師を本気で目指していない者は去れ」


 何人かの受験者が控室を出て、二次試験は総勢三百五十名で行われる事になった。


「邪魔が入ってしまったが、二次試験の説明をする。二次試験は得点制で、魔物の討伐数によって得点が決まる。魔獣クラスの中でも低級なゴブリン、スケルトン、スライム、ミミックは十点。魔獣クラスの中でも比較的強い力を持つ、レッサーデーモン、ブラックベア、アラクネ、トロルは百点。幻獣クラスの魔物は五千点だ。制限時間は三十分。一体でも多くの魔物を討伐し、得点の上位十名が最終試験に進む事になる。尚、二次試験の得点が最終試験終了時の順位になる。今回の試験でいかに多くの魔物を討伐出来るかが、合格時の順位に影響するので、くれぐれも弱い魔物を狙わず、高ポイントの魔物に挑む様に」


 出現する魔獣の種類については説明があったが、幻獣に付いてはいったい三千ポイントというだけで一切の説明は無い。一体どんな幻獣が出現するのだろうか。そして、今回の試験でも転移の魔法陣、すなわち試験をリタイアするための仕掛けがある。


「今回の二次試験では他の受験者と協力して魔物を狩る行為は許可しない。魔族の出現もあり、一人でより多くの魔物を狩れる強力な国家魔術師を求めているからだ。受験者同士で魔物を討伐した場合のポイントは無効。戦闘中の魔物を横取りする様な行為があれば即不合格とみなす。間もなく二次試験が始まる。一人で幻獣に立ち向かう勇気の無い者は退場するが良い。これは強制ではない。試験の最中には多くの者が命を落とすだろう……」


 たった一人で幻獣を討伐しなければならないと知った受験者の中には、慌てて逃げ出す者も居たが、流石にこれまで残った受験者は意思も強く、体内に澄んだ魔力を持つ熟練の冒険者が多い。


 やはり国家魔術師試験だからか、魔術師の姿が多く、真紅色のマントを着た魔術師の集団が特に目立っている。一次試験通過者は十五名。グラーフェ会長に煽られても顔色一つ変えず、マントの下には白銀のメイルを着込んでいる。右手には長い木の杖を持ち、左手にはシールドを持っている。魔術師なのにまるで剣士の様な装備だ。


 魔術師達を従える者なのだろうか、黒い髪を長く伸ばした二十歳程の男性がゆっくりと近付いてきた……。

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