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第五十九話「ラサラスの冒険者」

 レッドドラゴンとデーモンの討伐以降、ラサラスの知名度はますます上がり、毎日大勢の冒険者が登録の申請のためにギルドに押しかけている。フェリックスさんとララの審査が非常に厳しいので、加入者は未だに二人しか居ない。


 一月十日、今日はロタールさんに依頼していた魔装を取りに行く事になっている。レベッカさんから外出の許可を頂いて、一時間だけ町に出る事が許されたのだ。レベッカさんの訓練は非常に厳しく、睡眠時間は毎日三時間。それ以外の時間は永遠と剣と魔法の訓練を行っている。俺のレベルは既に九十二を超え、アドリオンで暮らす国家魔術師を除けば、最もレベルが高い市民として名が通っている。


 以前、レッドドラゴンの肉とお酒を振る舞ったからか、アドリオンで暮らす市民達が野菜や果物等をギルドに提供してくれる。魔物の肉が手に入れば妖精の館のフェアリー達に料理を頼み、市民や冒険者達に無償で振る舞っている。


 デーモン、レッドドラゴン討伐とグラーフェ会長からの緊急クエストをこなした事によって、使い切れない程のお金を頂いたので、お金の事は気にせずに料理やお酒を振る舞う事にしているのだ。


 ギルドの知名度が上がれば、市民達もクエストの依頼をしてくれるし、地域に根付いたギルドにしたいので、俺は積極的に市民達と交流する事にしている。ギルドを訪れる人達は最新の情報を持っているので、ギルド内で永遠と訓練を行っていても町での出来事が手に取る様に分かる。やはり町はラサラスの話題で持ち切りなのか、加入を希望する冒険者以外にも、毎日多くの人達が訪れる。


 一般の市民以外にも魔石を訪問販売する商人や武器商人等、様々な人達がギルドを訪れてくれるので、ギルドの雰囲気は非常に明るい。今日は新しく加入した剣士のボリス・カナリスと魔術師のブリュンヒルデ・ルッツが初めてのクエストに挑戦する記念すべき日だ。


 二人は十三歳を迎えたばかり、アドリオンで暮らす駆け出しの冒険者だ。フェリックスさんとララが加入を認めた二人には仲間達も注目しているが、二人はギルドに加入後、クエストを受けずに剣と魔法の訓練を行っていた。


 二人の教育を担当しているのは元衛兵だったリーゼロッテさんだ。国家魔術師試験合格を目指して訓練を積みながらも、二人に戦い方の指南をしている。


 ちなみにフェリックスさんはヴィルヘルムさんとティファニーに戦闘技術の指南をしている。弟子という訳ではないが、二人はフェリックスさんと共に過ごしている時間が長い。俺は睡眠時間以外は常にレベッカさんと共に居る。国家魔術師試験合格までは師弟関係を続ける事になっているので、来月の一日には弟子を卒業出来るという訳だ。


 ヴェルナーで暮らしていた頃から今日まで使い続けた黒の魔装を部屋の隅に置き、デーモンイーターを背負って町に出た。遂に新たな防具を受け取れるのだ。ロタールさんがデーモンの素材から最高の魔装を作り上げてくれる。楽しみで仕方がない。


 ギルドが立ち並ぶ中央区を歩いて商業区に入り、ロタールさんの店を目指して歩く。途中で妖精の館の前を通り、フェアリー達に手を振って挨拶をし、ロタールさんの店に入る。店内には既に新たな魔装が置かれてあり、ロタールさんが満面の笑みを浮かべて俺を歓迎してくれた。


「ついに完成したぞ! 素材はミスリルとデーモンの魔石、それから角と牙を使用した。破壊されても悪魔の力によって自動的に修復を始める。おそらく、この大陸でクラウス以外にこの魔装を装備出来る者は居ない。悪魔の力を秘める者しか身以外にこの装備が持つ力を授かる事が出来ないからだ。名前は悪魔の魔装。私が制作した魔装の中で間違いな

最高傑作だと言える。さぁ、身に付けてみてくれ」


 ミスリルに悪魔の素材を溶かしたからか、金属は浅黒く輝いており、手に触れると心地良さを感じる。悪魔である俺自身がデーモンの素材から作られた魔装を使用するのだ。魔装を身に付けると、体の大きさに合わせて自動的に形状が変化した。魔装が頭の天辺から足の爪先までを覆うと、体内にデーモンの魔力が流れ始めた。体は活力で溢れ、頭は冴え渡り、肉体からは疲労が抜けて最高の状態へと変化した。これが悪魔の魔装の力か……。


 流石に顔まで覆っていると人間に見えないので、ヘルムの部分に触れて顔の防御を解除すると、一気に視界が晴れた。それから背中の部分にデーモンイーターの鞘を当てると、魔装が生き物の様に鞘と同化した。明らかに黒の魔装よりも装備自体が持つ魔力が高く、着心地も非常に良い。まるで装備が自分の体の一部の様に感じる。


「素晴らしいです。体と魔装が同化している様な感覚ですよ……」

「悪魔の素材から作り上げた魔装とクラウス自身の魔力の波長が完璧に一致しているからだろう。それに、デーモンイーターとも相性が良いみたいだな。まるで鞘が魔装の一部の様に取り込まれている」

「そうですね……素晴らしい装備をありがとうございます! ロタールさん」

「私も満足な仕事が出来て最高の気分だよ。私の装備で国家魔術師試験に合格してみせてくれよ。試験当日は私も観戦に行くからな」

「はい、必ず合格してみせます!」


 それから俺はロタールさんに近況を報告してから店を出た。彼は定期的にラサラスを訪れてくれ、お酒や肉をお土産に持ってきてくれるので、仲間達とも交流がある。ロタールさんは元々冒険者だったのか、たまにリーゼロッテさんと剣の稽古をしている。


 ロタールさんは鍛冶職人だが剣の技術は非常に高い。それでもティファニーは圧倒的な力でロタールさんを圧倒する事が出来る。恐らくティファニーは剣の技術ならフェリックスさんと同等だろう。


 俺自身、剣だけで模擬戦を行えばレベッカさんを倒す事が出来るが、レベッカさんが少しでも魔法を使用すれば、一撃も体に当てる事すら出来ずに勝負に破れる。レベルは徐々にレベッカさんに近付いてはいるが、戦闘の経験や使用出来る属性、魔法の種類があまりにも違いすぎるので、魔法を使われては手も足も出ないのだ。


 本気で勝負を挑んでも、レベッカさんが杖を何度か振るだけで俺の体は遥か彼方まで吹き飛ぶ。やはり国家魔術師を十年も続け、騎士の称号まで授かっているレベッカ師匠には敵わない……。


 ギルドに戻るまでにはまだ時間があるので、俺はギルド協会のグラーフェ会長を訪ねる事にした。魔王が本当に誕生したのか、ギラ・アイスナーの犯行に近い性質の犯罪が行われていないか、グラーフェ会長はヴェルナーでデーモン・レッドドラゴン召喚事件以降、魔王に関する情報を集め続けているのだ。


 ギラ・アイスナーは魔王の指示でデーモンを召喚してレーヴェを襲った。アイスナーはファステーンバーグ城を防衛する国家魔術師から尋問を受け、尋問の最中に突如命を落とした。


 果たして魔王なる人物が本当に存在するのはか不明だが、アイスナーは死の間際に魔王は存在するとはっきり述べたのだとか。しかし、その言葉が真実か否かを調べる手段はない。


 魔王はレッドドラゴンやデーモンに対してアイスナーの召喚獣になる様に命令し、強力な二体の幻獣を得たアイスナーは地域を襲い、魔王が大陸を支配出来る様にと図ったのだとか。


 アイスナーが自白した僅かな情報で魔王の正体を知る事は非常に難しいが、この大陸の何処かにレッドドラゴンやデーモンを従えられる程の実力者が潜んでいる事は間違いないと考えている。もしかすると魔王なる者は存在せずに、全てアイスナーの犯行の可能性もあるが、デーモン自身も魔王が居ると明言した。


 レーヴェでの平和な生活を奪った魔王に復讐しなければならない。エルザに死の呪いを掛けたデーモンを仕留める事は出来たが、アイスナーという犯人の背後に真犯人の魔王が存在するのだ。更に力を付けて魔王を探し出し、大陸を支配する前に仕留めなければならない。


 ギルド協会に入ると、受付の女性が俺の顔を見るや否や立ち上がり、深々と頭を下げた。それから会長の部屋に案内されると、グラーフェ会長は俺を歓迎してくれ、葡萄酒をゴブレットに注いで渡してくれた。まだ今日は訓練が終わっていないのでと断ったが、会長が寂しそうな表情を浮かべたので、俺は一口だけ葡萄酒を頂いた。


「グラーフェ会長。魔王について新たな情報等はありませんか?」

「魔王の目撃情報や配下の者の襲撃情報等は今のところは無いが、少し気がかりな事があってな。クラウスはディースという村を知っているか? アドリオンの北部に位置する村なのだが」

「いいえ。聞いた事もありません……」

「ディース村で魔物の襲撃による死亡者が多いのだ。地域によって滞在している冒険者の数も違い、防衛力も異なれば、付近に生息する魔物の強さも違う。魔物の襲撃によって村人が命を落とす事は特に珍しくもないのだが、どうもディースを集中的に狙われている様な気がしてならないのだ」

「ディースには冒険者は滞在しているんですか?」

「冒険者が一人も無い村というのは聞いた事が無いが、レーヴェと同等だろうか。クラウスは知っているか分からないが、ゼクレス大陸は、北部に進めば進む程、より強靭で獰猛な魔物が多く生息しているのだ。大陸自体が持つ魔力だろうか、北部、大森林の付近が最も闇属性の魔力が濃く、魔物達が多く巣食っている」

「大陸の北部の方が魔物が強いという事は初めて知りました。ディースは冒険者不足で防衛力が低いだけなのではありませんか?」


 俺はグラーフェ会長に対し、地域を襲う魔物が居るなら、国家魔術師を派遣して周囲に巣食う魔物を殲滅して貰えば良いのではないかと提案した。会長は白銀のメイルに付いた埃を払い、白髪を撫で付けて暫く考え込むと、今は国家魔術師を派遣すべきではないとはっきり述べた。


「というのも、魔王が大陸の支配を目論んでいる可能性が極めて高い現状で、アドリオンの防衛力を高めておくためにも、国家魔術師をアドリオン以外の地域に派遣したくないのだ。もし、国家魔術師の派遣と同時に魔王がアドリオンを襲撃してきたら。例えばレベッカ程の実力者が一人居るか居ないかで、戦況は大きく変わるだろう。それにここは王都だ。人口の少ない地域よりも、国王陛下とアドリオンの市民を優先して守らなければならない」

「それでは、俺がディースに向かいます! もし、魔王の手下がディースを襲撃している様でしたら、直ちに魔物を殲滅し、村人を守り抜きます」

「ディースまでは私の転移魔法で送る事が出来るが、もし魔王が目を付けている地域なら、最悪の場合、クラウスが魔王と剣を交える事になるかもしれんのだぞ……」

「魔王と戦えるなら好都合です。俺のデーモンイーターで仕留めるまでです」

「誠に頼もしいな。クラウスの実力は既に国家魔術師のフェリックスをも上回っておる。それでは今回の件はクラウスに任せるとしようかの」

「お任せ下さい、グラーフェ会長! 事件の真相を暴いてみせます」

「うむ。いつも頼りにしているぞ。出発の前に一度ギルドに寄って報告をしてくるが良い」

「はい、それでは報告してからすぐに戻ります」


 グラーフェ会長から個人的な依頼を受けた俺は、すぐにギルドに戻り、今回の依頼について仲間達に説明をした。ティファニーは俺と共にディースに来てくれると言ったが、どんな魔物が地域を襲撃しているかも分からない場所に、ティファニーを連れて行きたくない。


 レベッカさんとフェリックスさんは俺を信用してくれ、クラウス一人でも十分だと言ってくれた。ヴィルヘルムさんとリーゼロッテさんは不安げに俺を見つめたが、すぐに戻りますと言うと、二人は俺を強く抱き締めてくれた。ララは心配すらしていないのか、ディースで美味しい食べ物があったら買ってきてねと無邪気に言った。


「それでは皆さん。俺はディースに向かいます。不在の間、レベッカさんにギルドマスターの権限を預けます」

「本当に一人で大丈夫? 私が一緒じゃなくてもいいの……?」

「大丈夫だよ、ティファニー。すぐに戻る」

「そう……待ってるからね」


 俺はティファニーと熱い抱擁を交わしてから、懐に狂戦士の秘薬を入れ、デーモンの乾燥肉を食べてからギルドを出た……。

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