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第五十五話「新装備と手がかり」

 フェリックスさんとララがラサラスに加入してから四日が経過した。その間も二人が加入を認める冒険者は一人も居なかった。ララもフェリックスさんもかなり厳しい目で冒険者を判断し、ギルドに貢献出来そうな人物以外は一切加入を認めない方針らしい。ギルド設立から一週間経っても、殆ど加入者が増えないので、町の冒険者達はラサラスは加入者に求める基準が高すぎると不満を言ってる。


 闇雲にメンバーを増やすよりは、信頼出来る少数の仲間達とクエストをこなしながら暮らしたいと思う。加入者を一気に増やす事も出来るし、そうした方が冒険者達にクエストを回せるので、ギルド的には儲かるが、お金を稼ぐためだけにギルドを設立した訳ではない。


 今日は遂にロタールさんから新装備を受け取る日だ。この日が楽しみで仕方がなかった。今日も朝から加入希望者が何人かギルドを訪れたが、フェリックスさんが加入を拒否してギルドから追い出した。


 それから若い冒険者が二人、男の剣士と女の魔術師が加入申請をすると、フェリックスさんもララも二人の加入を認めた。一体どんな人物が加入を許可されたのか気になるところだが、まずは剣を取りに行こう。


 俺はレベッカさんに頼んで一時的に石の重りを解除して貰った。流石に巨大な重りを付けて町を歩くのは恥ずかしい。久しぶりに一時間だけ町に出る事が許可された。最近の俺の生活は、休む時間も殆ど無く、毎日の睡眠時間を三時間まで削り、レベッカさんと共に徹底的に剣と魔法の訓練を積んでいる。


 睡魔に襲われて訓練の最中に眠りに落ちる事もあれば、疲労が限界に達して気を失う事もある。そういう時はレベッカさんに思い切り頬を叩かれて起き上がり、それからまた永遠と剣の稽古をしたり、魔力を強化するために魔法を使い続ける。


 将来的には聖獣のフェニックスを召喚してエルザを助けて貰わなければならないのだ。聖獣が認めるだけの強さが無ければ、到底人間に力を貸してくれはしないだろう。それに、俺はフェニックスと正反対の属性を持っているので、通常の人間が召喚するよりも、フェニックスを警戒させてしまう。国家魔術師試験を一位で合格してフェニックスの召喚書を頂き、フェニックスを召喚してエルザの呪いを解いて貰う。これがどれだけ難しいだろうか。


 国家魔術師試験の受験者数は毎年千人を超える。その中で合格出来るのはたったの五人だ。更に五人の中のトップで合格しなければフェニックスの召喚書を入手出来ない。実質、ファステンバーグ王国で最強の冒険者にならなければならない。だから俺はレベッカさんの過酷過ぎる訓練に耐えている。


 時には魔物が巣食う森で、武器と魔法を使わずに魔物を千体狩るまでは睡眠を許さないと言われたり。トロルが暮らす集落をファイアボールだけで破壊してこいと命じられたり。二百キロの重りを背負ったまま、ブラックウルフの攻撃を永遠と回避させられたり。


 過酷な訓練の後は大量の栄養を飽和状態まで肉体に取り込む。吐き気を感じるまで徹底的にタンパク質や炭水化物を詰め込んでから泥の様に眠る。そうすると訓練で消耗した肉体もすっかり回復するのだ。これもデーモンの特性である自己再生の力のお陰だ。


 全身の筋肉はますます肥大し、ヴィルヘルムさんの氷の壁やフェリックスさんの石の壁なら、半分程度の力で殴るだけで破壊出来るまでに成長した。肉体も精神も悪魔に変わってしまったのではと思う事があるが、精神は安定している。全てはエルザを救うためなのだ。どれだけ過酷な人生でも、俺は家族を助けるために最高の冒険者になってみせる。


 ロタールさんの店に入ると、俺はティファニーがナイフを買い替えたいと言っていた言葉を思い出し、彼女のために新しい武器を用意する事にした。ティファニーはヴェルナーの迷いのダンジョンでファイアゴブリンから奪ったナイフを未だに使っているのだ。


 ロタールさんにティファニーの戦い方を相談して、買い換えるならどんな武器が良いか教えてもらうと、グラディウス程度の武器なら扱えるのではと提案してくれたので、美しい銀の装飾が施されたグラディウスを購入する事にした。


 値段は七万ゴールド。ティファニーの武器を新調すればパーティーの戦力も上がるので、装備には惜しまずにお金を使おう。


「これがクラウスの新装備だ。武器の形状はクレイモア、素材はミスリルとレッドドラゴンの角。魔力を込めると自動的に火のエンチャントが掛かる最高の武器だ。名前はデーモンイーター」

「デーモンイーターですか……」

「悪魔を喰らう冒険者には相応しい武器だろう?」


 青白く輝く鞘に収まっているクレイモアを引き抜くと、刃には強い炎が発生した。重量は以前のクレイモアよりも重く、身の丈程の巨大なクレイモアは、片手でも余裕を持って振り回す事が出来る。悪魔として肉体を鍛えているから片手でも使える訳で、ロタールさんでも両手で握らなければ振る事も出来ない程の高重量の武器だ。


 武器自体が強い火属性を持っているのは、レッドドラゴンの角を溶かしたからなのだとか。やはりアドリオンで最も高級な店だからか、幻獣の素材から作られた武具も多いみたいだ。いつかデーモンを仕留めたら、デーモンの素材から魔装を作って貰おう。


「ところで、レッドドラゴンの素材はどうやって手に入れたんですか?」

「以前私の店に国家魔術師が持ち込んだ物なんだ。最近ではレッドドラゴンの生息すら確認されていなかったが、クラウスを襲ったレッドドラゴンは今頃何処に居るのだろうか」

「わかりません。俺達も召喚師とレッドドラゴンの行方を追っているのですが、なかなか情報も掴めません」

「そうかそうか。それで、ギルドの運営は順調なのか?」

「はい、ダークフェアリーのララと国家魔術師のフェリックス・ブラウンさんを迎えて、更に賑やかになりました」

「双剣のフェリックスか! 国家魔術師が二人も加入するギルドとは。既にアドリオンで最強クラスの冒険者ギルドなのは間違いないだろう」

「フェリックスさんとレベッカさんに追い付ける様に、俺も必ず来年の国家魔術師試験に合格してみせます」

「うむ。楽しみにしているからな」


 ロタールさんの店を出て町を歩くと、レッドドラゴンを操る召喚師に関する情報を集めるため、ギルド協会のグラーフェ会長を訪ねる事にした。ロタールさんの名前が入ったクレイモアを背負い、グラディウスを腰に差しているから、町の冒険者達が羨望の眼差しを向けている事に気がついた。やはり大陸で最高の鍛冶職人が作った武器だから、冒険者達も憧れているのだろう。


 ロタールさんの武具を持つという事は、国家魔術師かギルドマスター、もしくは国王陛下や大臣などの王国の防衛に携わる人物という訳だから、一般の冒険者ではないとすぐにバレてしまう。ティファニーに対して最高の武器を贈るのは、彼女は必ず国家魔術師になれる力があると思っているからだ。ロタールさんもティファニーの幻獣討伐の経歴を知っているから、快くグラディウスを売ってくれたのだ。


 新しいクレイモア、デーモンイーターで訓練を始めたくて仕方がない。この剣なら、もしかしたらレッドドラゴンを仕留められるかもしれない。両手の骨を折られ、全身の焼かれた痛みを忘れた事はない。必ずレッドドラゴンと召喚師の女に復讐しなければ気が収まらない。それに、この世界に何処かに、人間を襲う悪質な犯罪者が居るという事が気に入らない。俺の手で逮捕すると心に決めているのだ。


 ギルドマスターは犯罪者を逮捕する権限を持っている。ギルド協会の会長、国家魔術師であるグラーフェさんが認めた人物だからか、都市を防衛する衛兵よりも様々な権限を持っているのだ。魔物が都市を襲撃した際には、マスターの資格を持つ者は衛兵に指示を出す事が出来る。


 マスターの資格を得るにはレベル五十以上、魔物討伐の経験などが無ければ認められないから、町の衛兵や衛兵町よりは遥かに臨機応変に魔物の襲撃に対応出来るので、指示を出す権限があるという訳だ。


 暫く町を歩くとギルド協会に到着した。受付でギルドカードを提示して身分を証明し、グラーフェさんに面会をしたいと告げると、会長室の扉が勢い良く開き、グラーフェさんが血相を変えて駆け寄ってきた。


「丁度良いところに剣鬼が! すまないが、緊急のクエストを受けてくれないか!」

「グラーフェさん。一体どうしたんですか?」

「ヴェルナーの西の森にレッドドラゴンが出現したのだ! 今すぐ動ける者で、幻獣を討伐出来る力を持つ者はクラウス、君しか居ない! 転移の魔法陣を書くからすぐに援護に向かってくれ!」

「レッドドラゴンというと、以前モーセルを襲撃した召喚師も一緒ですか?」

「分からない! レッドドラゴン以外にもトロルやラミア、レッサーデーモン、ブラックウルフなどの魔物が集団で移動しているらしい! 魔物達がヴェルナーに到着する前にクラウスが食い止めてくれ! レベッカとフェリックスもすぐに後を追わせるから、今は私の頼みを聞いてくれないか!」

「それでは、ラサラスのティファニー・ブライトナーという者にこの剣を渡して貰えますか。勿論、俺がレッドドラゴンを仕留めます! 仲間達もきっと力を貸してくれる筈です!」

「ありがとう! それではゆくぞ!」


 グラーフェ会長が杖を床に向けると、複雑な魔法陣が浮かび上がった。俺はクレイモアを抜いて魔法陣に飛び乗ると、激しい光に包まれて意識が遠のいた。


 瞬間、両足に衝撃を感じて目を開けると、そこは懐かしいヴェルナーだった。完全武装した冒険者や衛兵が慌てて市民を避難させており、アーセナルのバラックさんと町長のガイザーさんが狼狽しながら冒険者と衛兵に指示を出している。


「レッドドラゴンなんてヴェルナーの衛兵と冒険者では倒せません! 町長! 国家魔術師はまだなのですか? このままではヴェナーは壊滅します!」

「アドリオンに援護の要請をした! 緊急事態だから必ず国家魔術師が駆け付けてくれるだろう!」


 俺は二人の背後から近付いてバラックさんの肩に手を置くと、彼は愕然とした表情を浮かべた後、涙を流して俺を抱き締めてくれた。


「剣鬼が来てくれた! 皆の者! アドリオンの剣鬼が駆け付けてくれたぞ!」

「剣鬼? 幻獣討伐の剣鬼か!」

「アーセナルで専属契約を結んでいた剣鬼だ! バラックさんと共にゴブリンロードを仕留めた最強の冒険者だ!」


 俺の登場に冒険者達は歓喜の声を上げ、士気が一気に上がった。元々俺はアーセナルの冒険者だったから、顔見知りの冒険者も多い。士気が多少上がったとしても、圧倒的に戦力が足りない。


「剣鬼、クラウス・ベルンシュタイン。この危機的状況を救ってくれないか……!」

「お任せ下さい、ガイザーさん。俺がレッドドラゴンを仕留めます!」

「何と頼もしい……それに、その巨大な剣はロタールが鍛えた物か? という事は、ギルドマスターに合格したという訳か……」

「はい、冒険者ギルドを設立しました。俺のギルドのメンバーと、国家魔術師のレベッカ・フォン・ローゼンベルグ師匠、それからフェリックス・ブラウンという方が間もなく到着する筈です。俺は敵の群れに特攻して注意を引きますから、仲間達にはヴェルナーの防衛を頼むとお伝え下さい!」

「私も行こう! クラウス! 既に私ではクラウスを支えられないだろうが、私も以前はお前のマスターだった!」

「お願いします! バラックさん!」


 俺はモーセルのクラウディウスさんを召喚するために魔法陣を書いて魔力を込めた。魔法陣の中からはバスタードソードを持った剣聖が現れ、剣聖の登場にまたしても冒険者達は歓喜の声を上げた。


「クラウス! 私の力が必要という訳か?」

「クラウディウスさん。俺と一緒にレッドドラゴンの討伐に向かって貰えませんか?」

「勿論だ。私はクラウスの召喚獣。剣聖、クラウディウス・シュタインがクラウスを守ろう」

「ありがとうございます! それではバラックさん、すぐに出発しましょう!」


 俺達三人は魔物が進行するヴェルナーの西の森に入り、急いで魔物の群れを探し始めた……。

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